第四話 小娘魔王のパンツと寝室問題


 よし、善は急げだ。俺は作業着の袖をまくった。


「さて、どの部屋からいく?」

 パッと見たところ、ここは魔王の間的な?大広間、城のメインとなるところ。

 まずはここか?と思っていると、ラピスは俺の袖をつまんで、恥ずかしそうにしている。


「あ、あの……、わ、わらわのお部屋から直してもらいたいのじゃ……」


「……あのな、まず自分とか、そーゆーとこだぞ。おまえ」


「う、うるさいっ!大広間が綺麗なのに自室がボロいと虚勢だとバレるじゃろ!!……まずはわらわのお部屋っ!」


「いや大広間が先だろ。結露、床鳴り、財宝出しっぱなし。

 お前が脱ぎ散らかした服や、朝食の皿まで放置じゃねえか」


 さすが箱入り娘(28)。先代、絶対子育て失敗したな。

 

「いーやーじゃー!わらわのお部屋からぁっ!!」


 床で、のたうち回るラピス。

 離職原因ナンバーワンは間違いなくこれだ。


「……わかった、やるよ。部屋みせろ」


「うら若き乙女の部屋を見たがるとか、桑田はハレンチじゃな。」


 体育座りでジトーとみるラピス。


「……しばくぞ」



 ◇◇◇◇



 ラピスの部屋は北側、16帖。

 窓がひとつ。


「ここも湿度すごいな。壁がびしょびしょで寒いっ!

 住環境とか考えなかったのかよ」


「魔王城は陰湿なダンジョン的雰囲気が売りだと、父上は言ってたのじゃ!」

  

「そーゆーのをトップダウンで押し付けるから、反乱が起きんだろうがよ」


「桑田はいちいち言葉にトゲがあるのじゃ……」

 壁に向かって、ブツブツと呪文を唱えるラピスを無視し、俺は部屋を見回す。


「桑田、タンスの前をウロウロするな。パンツ泥棒め。……一枚くらいならやるぞ?」


「いらん。いちご柄だろ」


「なっ!……なぜバレたのじゃ」


 再び壁に向かって呪文を飛ばし始めた。


 とりあえず、床はOK、壁だけ何とかすりゃいける。


「行くぞプル。お前の初仕事だ。 壁に広がって水分とカビを食い尽くせ。そのあと空気を含んで膨張し、スポンジ状に硬化して『断熱層』になれ!」


「えええ!? 友達を壁に塗りたくるつもりか!? 鬼! 悪魔! 人間!」


「うるせぇ、プロの現場じゃ適材適所だ!」


 俺は暴れるスライムを、さらに強く握り込む。


「いいか? 石壁の内側に断熱材を貼る時、一番怖いのは隙間に湿気が入って起きる『内部結露』だ。――カビが再発するからな。

 だが、こいつ(スライム)なら、壁のミクロの凹凸まで完全に密着して隙間を殺せる」

 (※【内部結露】壁の中で汗かいてカビるやつ)


 俺はニヤリと笑い、スライムを振りかぶった。


「つまり、最強の『防湿・気密・断熱』施工ができるんだよ!」


 ベチャッ!!


「プルゥゥゥゥーーッ!!」

 スライムは悲鳴を上げながらも、本能なのか、壁の表面についた水滴と黒カビを猛烈な勢いで吸収していく。

 みるみるうちに壁が綺麗になり、そしてスライム自身がモコモコと膨れ上がり、壁全体を覆う青いクッションのような層へと変化した。


 ――数分後。


「……あれ? なんか、寒くない?」


 ラピスが目を丸くする。

 さっきまで肌を刺すような底冷えが支配していた部屋が、今はふんわりと暖かい。

 スライム断熱の効果で、石壁からの冷輻射が遮断されたのだ。

 (※【冷輻射】壁の冷たさが体温を吸ってく感じ)


「す、すごい……! 魔法みたいじゃ!」


「魔法じゃねぇよ、建築物理だ。よし、スライム(こいつ)は使えるな。

 おいラピス、城中のスライムをかき集めてこい。次は地下の大浴場を直すぞ」


 壁に張り付いたまま「解せぬ」という顔をしているプルを横目に、俺は次の工程へと指示を出した。

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