第三話 スライムは優秀な建築資材ですね



「よし、わらわの魔王城の再建を貴様に任せてやろう! さぁ、やるのじゃ、桑田ギリーよ!!」


「やるのじゃ、はいいけど、予算はあんの?」

 ボロ屋住まいのクセに浮かれてんじゃねぇよ。と思う。


「あ……はい、一応、父上が人間から奪ったお金なら、ほら、たくさん」

 そういってラピスは部屋の片隅の金貨の山を指差した。


 てか、普通、宝物庫的なトコに置いとくんじゃねぇの、こういうのって。

 父上、杜撰な管理すぎるだろ。


「この世界の物価が良く分からんけど、こんだけありゃ、たくさん資材買えそうだな。」

 山盛り金貨を、これまたそこらへんに落ちてた小袋に詰める。


「――で、木材屋とか、材料屋とか、マテリアル屋的な店はあるのか?」


「む、もちろんあるぞ!」


 ラピスはバルコニーから外を指差す。

 目に見える範囲は、さすが魔王城周辺的な荒れ果てた大地のみ。


「ん?どこよ?」


「ほれ、あの向こうの……」


「え?わっかんねーよ、どこ?」


「いや、だから、もっと向こうじゃ」


 ラピスが指差した先、地平線の彼方に、まるで蜃気楼のように揺らめく米粒サイズの町っぽいのがあった。


「……まさか、あれか?」


「そう、あれじゃ。」


「んだよ、それぇッ!? 行って、帰ってくるのに何日かかると思ってんだよ!」

 俺は金貨を投げ捨ててやった。


「……だって、魔王的には隔絶された、勇者も簡単には来れない場所を住まいに選ぶのがセオリーというか、ルールというか……。

 ここ、別に私が選んだわけじゃないっていうか、なんていうか、その……、ごめんね、桑田」


 親父が選んだ場所に住んでただけで、私には責任ないっていうのは分かるが、桑田が定着しつつある方については、ちょっとどうかなと思う。


 仕方ない、ここにあるもので、なんとかするしかない。


「 ラピス、この城に、建築道具はあるか?のこぎり、とんかちとか。

 …… 左官ゴテとか、ミキサーとかあれば、なおヨシだ」


「グハハハハ!!バカか、桑田! ないぞ! なんせ、ここは魔王城だ!」


 ラピスは胸を張って答えた。

 もとい、爆乳を張って答えた。

 しかもなぜか突然の魔王ムーブで。


「てか、自信満々にいうな」


 俺の話はあんまり聞いてないラピスが自信満々に更に続ける。


「あるのは父上の遺品の『魔剣グラム』に『聖槍ロンギヌス(偽)』、それから『天空の鎧』などの価値ある一品ばかりじゃ! どうじゃー、すごいだろー!」


「……んだよ、リノベでそんなん使えねぇよ。俺からしたら鉄くずだわ。」


「……鉄くず。……あ、うん、そうだよね。剣とか槍とか、そんなん、飾るくらいしかできないもんね」

 ラピスは体育座りで、俺に背を向けてプルプル震えている。


「仕方ねえ、とりあえず使ってない部屋は、かなりありそうだから、そこから使えるもん剝ぎ取って、順番に直すしかねぇな」


 ふと、ラピスの足元でポヨンポヨンと跳ねている青い物体が目に入った。


「……おい。そいつを貸せ」


「プルか?いやじゃ! プルは友達じゃぞ? 食べてもおいしくないぞ?」

 ラピスが慌ててスライムを抱きかかえる。


 俺はそのプニプニした物体を指先で突っついた。


 ――吸水性、よし。

 ――多孔質、よし。

 ――変幻自在の粘性。


 俺はニヤリと笑った。

「ほう……いい素材(ヤツ)がいるじゃないか」


「ひっ!? 桑田、目が怖いのじゃ! 職人の目というより、マッドサイエンティストの目じゃ!」


「ラピス、よく聞け。この部屋がジメジメしてカビ臭いのは、壁が冷たすぎるからだ。 外の冷気で冷やされたコンクリート……いや石壁に、室内の空気が触れて『結露』してるんだよ。 冬場の窓ガラスがビショビショになるのと同じ理屈だ」


「け、けつろ……?」


「これを直すには、壁を温めるか、空気中の水分を吸い取るしかねぇ。 だが、断熱材も除湿機もここにはない」


 俺はスライム『プル』の頭?を鷲掴みにした。


「だから、こいつを使う」


 むんずと掴んだスライムは、最高の手触りだった。


「プルゥゥゥゥ!?」

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