第二話 桑田さんになっちゃった。


「わ……わらわんち、そんなひどい?」


 涙目で鼻をすすりながら、魔王(仮)が聞いてくる。

 俺は割れたメガネの位置を直しながら答えた。


「ひどいなんてもんじゃない。更地にして建て直した方が安上がりなレベルだ。 ……まあいい。俺が手を入れるなら、まずは現状把握とヒアリングからだ」


 俺は胸ポケットから手帳を取り出す。


「ああ、そうそう、まずは自己紹介だな。

 俺はカタギリだ。片桐建設の社長、カタギリ・テツオだ。キミの名前は?」


「 クゥ……クワタ……?ギリー……?」


 魔王(仮)はきょとんとした顔で首を傾げる。


「いや、カ、タ、ギ、リ」


「ク、ワ、タ……ギリー?」


「桑田どこから出てきた。カタギリだ」


「むぅ……舌が回らんのじゃ! お主の名前、発音が独特すぎるぞ!

 ええい面倒くさい、もう『桑田・ギリー』でよいな!?」


「よくねぇけど……まあいいや、桑田さんで」


 俺はため息をついた。

 訂正するのもめんどい。


「――で、きみは?」


「わらわはラピスじゃ。……一応、この城の主で、第36代魔王をやっておる」


 ラピスはバツが悪そうに、縮こまった。


「角と肌の色は確かに魔王っぽいがなぜ、こんな廃墟寸前のボロ家でワンオペ生活をしているんだ?」



「父上が……去年のお正月に餅を喉に詰まらせて急死してな。

 箱入り娘のまま、28歳になったわらわと、この劣悪な住環境じゃ。

 部下たちは『こんなブラックな職場、やってられるか!』と退職届を叩きつけて、みんな実家に帰ってしもうた」


「あ、でもねっ、でもねっ、じゃ、給料5%上げるからって、わらわなりに、ちゃんと考えたんだよ? ――でも、労働組合が、そんなの却下だって……」


「あー……。福利厚生と職場環境、大事だからな。

 てか、そもそも老人に餅は食わすなよ。」


 俺は納得して頷く。

 どんなにやりがいを説いても、雨漏りする社屋じゃ社員は定着しない。

 てか、魔王って餅食うんだ。


「残ったのは、ペットのスライム『プル』と魔物かすらあやしい、鶏二匹。

 ……しかも、追い打ちをかけるように、コレじゃ」


 ラピスは震える手で一枚の手紙を差し出した。


 そこには、きったねぇ字でこう書かれていた。


愛なる王ラピスへ。

 今はまだレベル5だけど、必ず強くなって君を殺しに行く。 って待っていろ。 夏のボーナス商戦が終わる頃にはレベル50に到してる予定。 君のを貫く日を楽しみにしている。 ――勇者アレックスより』


「……なんだこれ」


「殺害予告じゃ! な?な? 怖すぎるじゃろ!? 一方的に『殺す』とか送りつけてくるんじゃぞ!? こんなんストーカーじゃ!普通の女の子ならぶるぶる震えてしまうぞ! わらわだから、『望むところじゃ!』と言えるけど、普通は無理ぞ!?」

 ラピスが頭を抱えて喚く。


 いや、お前既に、ぶるぶるじゃんか。


 てか、頭を洗うってシャンプーかなんかかよ、これ『首』の間違いだろ。

 しかも、心臓の臓も「くら」になっちゃってるし。


 手紙は出す前に推敲しろよ。

 この勇者、結構バカだな。


 だが、俺の注目点はそこじゃなかった。

「ふむ……冬のボーナス商戦明けってことは、三か月後か」


「え? そこ?」


「つまり『工期は3ヶ月』ってことだ」


「上等だ。 その勇者が来るまでに、このボロ城を最強の要塞にリノベしてやる。

 安心しろ、ラピス。俺の作った『ホワイトな城』は、一度入ったら二度と出たくなくなるほど快適だぞ?」


「え、あ、はい……。なんか頼もしいのじゃ……」


 あわわ、と一人で勝手に慌てているラピスは言い直した。


「よし、わらわの魔王城の再建を貴様に任せてやろう! さぁ、やるのじゃ、桑田ギリーよ!」



 こうして、リフォーム業者『桑田・ギリー』による、魔王城大改造計画が幕を開けた。

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