第4話「暗殺者ちゃん、兄がウザい」
目をこすりながら起き上がると、なんだか頭が痛い。
こういう時はたいてい良くないことが起きる。
先月は楽しみにしていた球技大会が雨で中止になり、一昨日はゲリゲリ君の当たり棒を排水口に落としてしまった。
今日は一体どんな災難が待ち受けているのか、考えただけでさらに頭が痛くなる。
「グッモーニン!マイシスター!元気にしてたかい?」
この間抜けな声、間違いなくアイツだ。相変わらずうるさい。
ここ数ヶ月殺し屋試験を受けるため家を空けていたが、帰ってきたらしい。
頭から毛布をかぶっていると、いきなり声の主が部屋に乗り込んできた。
「勝手に入ってこないでよお兄ちゃん!」
「おや、まだ寝てるのかい?お寝坊さんだね。それにここは僕の部屋でもある。ノックは不要さ」
私の兄、アルフレド。
もうすぐ三十になるというのに髪を銀に染めて、襟足を伸ばしている。なんだかよく分からないネックレスや趣味の悪いブレスレットをしており、殺し屋だというのに目立つことにためらいがない。
だというのに殺し屋ランクはB。それが一番腹が立つ。私はまだGなのに。
「ノンノン。僕はAランクさ!」
まるで私の心が読めるかのように兄は得意げに取り立てのAランクライセンスを見せびらかしてくる。今すぐ火でもつけてやろうか。
兄が帰ってきただけだというのに、今夜はパーティーになった。
ママは得意料理のパスタを作り、パパは若い頃の殺し武勇伝を楽しそうに語る。おばあちゃんは何度もお小遣いを渡すし、おじいちゃんは殺し屋仲間に電話をかけまくる。
私はみんなの輪に加われない。
誰も私の「ごちそうさま」に気が付かない。きっと私が部屋に戻っても誰も気にせず話を続けるのだろう。
物心ついた頃からずっとそうだった。
私だって好きで落ちこぼれているわけじゃない。お兄ちゃんの事だって本当は尊敬してる……ちょっとウザいけど。
「わぁぁぁぁぁぁ!」
部屋に戻り、枕に顔を押しつけて思い切り叫ぶ。足をばたつかせてゾウさんのぬいぐるみを蹴りまくる。
パシャ!
真っ暗な部屋が一瞬光る。それが兄の撮った写真のライトだとわかると、私は牙を立てて兄に飛び掛った。
「何撮ってるのよ!壊す!」
「ごめんよマイシスター。どうしてもアンデリカコレクションに加えたくて」
兄は私の突進を軽々と避ける。アンデリカコレクションなどというおぞましい呪物は何としてでもこの世から消し去りたい。
「みじめな私をいじめるのがそんなに楽しいの!?この陰険!」
私は泣きながら兄の胸をボコスカ殴る。鉄板でも殴っているようだ。手が痛い。
「泣かないでおくれ。僕はアンデリカがみじめだなんて思っていないよ」
「嘘嘘嘘!」
手が痛いので、今度は足で攻撃する。
「はうっ!」
今度は効いたようだ。
でも感触が違う。ごめんお兄ちゃん。
兄は股間を押さえながら泣きべそをかいている。
「気にしないでおくれ。やっぱりアンデリカはつ……強いな」
しばらく兄は立ち上がれなかった。
「さっきの言葉は本当だよ」
急に真面目になった兄が私の頭に触れてくる。
「慰めないでよ、余計みじめになる」
兄の手を払いのけようとするが、びくともしない。
「あの男の胸にナイフを突き刺したんだって?すごいじゃないか。僕は指一本触れられなかった」
優しい笑顔を浮かべながら私の頭を撫でる兄。なんだか心が落ち着く。
あの男、きっとおっさんの事だろう。
「お兄ちゃんもあのおっさんと戦ったの?」
「ああ、僕だけじゃない、母さんも父さんもばあちゃんもじいちゃんも戦ってる。でもあの男をあそこまで傷つけたのはアンデリカだけだ」
心の奥が熱くなってくる。心臓が高鳴り、口から出てきそうだ。
「アンデリカ、君は落ちこぼれなんかじゃない。まだ成長しきってないだけなんだ。これからいくらでも強くなれる」
嬉しかった。
あんなに期待されて、結果も残して、認められている兄の言葉が、ただただ嬉しかった。
「私、出来るかな。お兄ちゃんたちみたいになれるかな」
「ああ。もちろんさ。アンデリカは自慢の妹だからね」
満面の笑みを浮かべる兄につられて、私も自然に口角が緩む。
パシャ!
その音さえなければきっと今日は気持ちよく眠れたのに。
「最高の一枚が撮れたよアンデリカ!さっそく現像しなければ!」
「な!この……クソ兄貴!」
カメラを取り上げようとするが、兄は窓から飛び出して写真屋へと走っていってしまう。
やっぱり頭が痛い日はろくなことがない。
最強おっさんとポンコツクソザコ暗殺者ちゃん ガブ @gabustealsmile
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