第5話 2019年4月16日(火)
さすがに今日は仕事に集中できなかった。
昨日謎の男、"キッド"からもらったタイムマシンのせいだ。昨日の日高屋のトイレの出来事から、悔しいがこのタイムマシンは本物だと認めざるを得ない。
あの後キッドからこのタイムマシン(仮)を渡されたが、あれ以上タイムマシンに関する説明は無かった。キッド曰く、「とりあえず真っさらな状態でどんな使い方をするのか見てみたい」ということで、連絡先すら渡されなかった。
「僕が君に連絡を取りたい時はどうすればいい?」
と聞いたら、
「あなたのことは何でも知ってるのであなたが会いたくなったタイミングでまた来ますよ」
と言い、曙橋駅の方面に帰って行った。
僕も家に帰りまずどんなことにタイムマシンを使うべきか考えた。
まず真っ先に思いついたのは競馬や宝くじでの活用だ。上手くいけば一生働く必要がなくなる。だがこれは却下だ。ギャンブルでタイムマシンを使って失敗するのはSF映画の鉄板だ。というか馬券の買い方も知らない。
そもそもこのタイムマシンを使った際のタイムパラドクスはどうなるんだろう?日高屋のトイレで出会った男は結局"この時間軸の僕自身"だったわけだが、僕がこのタイムマシンもらう前。例えば先週の金曜の夜とかに"僕自身"に会いに行ったらどうなるのか。今の僕は先週金曜日の夜に僕に出会った記憶なんてないが、タイムマシンを使って僕自身に会いに行ったら僕の今の存在、記憶はどうなるのだろうか。考えると少し恐ろしくなってきた。とりあえず仕組みがわからない内は過去の自分自身との接触はなるべく避けた方がいいだろう。年単位の昔に戻ったりするのもやめておこう。
となると何に使えば良いか分からない。すごい発明であることは分かったが便利な使い方が全く思い浮かばないのだ。
一晩中そんなことを考えて今日の仕事中もずっと同じことを考えていた。
そんなこんなで仕事は終わり、今日も160件のテレアポができなかった僕は社訓を3回読み上げ帰路についた。
久しぶりに東雲さんと一緒の帰り道だ。
「ねえ東雲さん、もしタイムマシンが手に入ったら何に使う?」
「え、急にどうしたの?毎日の社訓の読み上げが辛すぎて現実逃避?」
驚いたように笑う東雲さんは、僕の顔をのぞきこむようしゃがんだ。東雲さんは170cmくらいで僕の身長は160cmちょっと。身長差が10センチくらいあるから、たまにこうして僕のことをじっと見てくると、ちょっとドキッとする。
「いやっ、まあ...そんなとこ...。ドクやマーティみたいにもし過去に戻れるなら何がしたいかなって。」
東雲さんは歩きながら顎に手を当てて、ちょっとだけ真剣な顔をした。
「毎朝通勤前の自分に、"何号車のこの人は〇〇駅で降りるよ"って教えてあげるかな。満員電車で立ってるのほんとに嫌でさ。誰がどの駅で降りるか知ってたらすぐに座れるでしょ?」
なんて可愛い使い方なのだろうか。競馬だの宝くじだのを真っ先に考えた僕とは比べものにならないピュアッピュアな回答だ。
「それいいね。でも"教えてあげた方の東雲さん"はどうなるの?歴史を変えちゃったわけだから消えちゃうの?」
タイムパラドクスについての東雲さんの見解はどうだろうか。彼女は「ハハッ」と笑い回答する。
「せっかく教えてあげたのに消えちゃうのは嫌だなぁ。私は"新しい世界で記憶が引き継がれる"ってパターンだと思うな。ほら、"オーロラの彼方へ"や"バタフライエフェクト"みたいに!」
こんな感じで、"映画を例えに使っても相手に伝わる"って思ってもらえているのは信頼されてる証な気がして誇らしい。
話を戻すが東雲さんの意見も説としては一理ある。歴史改変を引き起こした側の自分の記憶と、改変された側の自分の記憶が統合されるというパターンだ。タイムスリップものの映画の王道パターンの一つでもある。だがそれだとあまりにもリスクが無さすぎる。このタイムマシンは本当にそんなに万能なのだろうか。……だがやはりSF好きとしてはどうしても試してみたくなった。これではあの男の掌の上である。
「ありがとう東雲さん。とても参考になったよ。」
「参考??フフッ、やっぱりキミは変な人だなぁ。でももしタイムマシンが手に入ったら毎朝私に電車で降りる人を教えてね。」
そんな話をしていると社宅についてしまった。もう少し話していたかったが仕方ない。
――――――――――――――――――
さて、いよいよタイムマシンの初稼働だ。
厳密には日高屋で一回使っているが自分で時間を設定して飛ぶのは今回が初めてだ。
今回の時間旅行で決めたのルールは2つ
・昔に行き過ぎない
・過去の自分と接触しない(なんなら他の人ともなるべく関わらない)
これらのルールを守り、まずは一回過去に飛んでみる。特に目的はなくあくまでタイムマシンの動作確認だ。
今僕は家にいるから家に僕がいるような時間は避けた方がいい。先週金曜の夕方あたり、僕が帰ってくる少し前の時間に行こう。
キッチンタイマーをセット。たぶんこれで大丈夫なはず。今の僕の存在が消えてしまったらどうしよう?まあ深く考えないでおこう。
「ふぅー……」
深呼吸をして僕はスタートボタンを押した。
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