第4話 2019年4月15日(月)#夜
「まあ立ち話もなんですんで」
僕は謎の男に連れられて近くの日高屋に入店した。
頭が混乱して食欲などなかったが、そんな僕を尻目に男は炒飯定食を注文する。
本名は教えてくれなかったが、男は「キッド」と名乗った。東京大学の工学部に通う4年生らしい。卒業研究のデータ集めのために被験者になってくれる人を探しているとのことだった。名前の部分は指で隠されていたがおそらく本物と思われる学生証も見せてくれた。
なぜ僕の個人情報を知っているのか。そもそもなぜ僕を被験者として選んだのか、なぜ本名を隠すのか、謎は山のようにあったが、話していくうちに不思議とこいつに対する警戒感が本能的に薄れていくのを感じた。
炒飯を食べ終わると少し真面目な表情でキッドは語り始めた。
「実はあなたのことは何日も前から調査させていただいてました。あなたの出身、大学時代に所属していたサークル、就職先、ちょっと良い感じになっている同期の女の子との関係、それらを総合的に判断し、今回声をかけさせていただいたんです。」
まさか東雲さんとのことまで調べ上げていたとは。
「我ながら僕はどこにでもいる普通の一般人だと思うんだけど、なんで東大の研究対象なんかに選ばれたんだ?」
「あなた自身が直接の研究対象というわけではないです。あなたにはボクが発明した研究成果を試用していただき、データを集めてほしいんです。」
「発明?研究成果?」
「そう、ボクの研究テーマは
"タイムマシン"
です。」
そういうとキッドはポケットの中からキッチンタイマーのようなものを取り出した。
「これがボクの発明したタイムマシンです。まだ試作段階なので過去にしか行けません。下にある+ボタンを押せば戻りたい時間を分単位で設定できます。戻った過去に滞在できる時間は数分〜数時間程度です。そこは結構ランダムです。」
???
理解が追いついてない僕を無視してキッドは話を続ける。
「被験者を選定する上であなたほど最適な人はいませんでした。SF研究会に所属していた過去がありSF映画好き。ブラック企業に就職して後悔が絶えない日々を送っている上に最近は片思いの恋までしている。こんなにタイムマシンを使う動機に溢れた人は中々いません。」
「…………?ちょ、ちょっとストップ……。え?タイムマシン?このダ◯ソーで売ってそうなキッチンタイマーが?」
「おっ、ご明察!親しみやすいように、この筐体の外装はダ◯ソーで買ったものをそのまま使ってて……」
「いや、そんなことどうでも良くて!え?…ちょ、一回深呼吸させてくれ………。」
怪しいやつだと思っていたがここまでやばいやつだったとは。こんな電波野郎に僕の出身地どころか金玉のホクロのことまで知られてるなんて……。
「最悪の気分なんだが……。」
「え、ボク食事中なんで吐かれるのは勘弁です〜」
これ以上こいつと話をしていると頭がおかしくなりそうだ。
「ちょっと…一回トイレ行って良い?」
「まあ、いきなりこんな話したらそりゃ混乱しますよね。トイレは左奥の角にあるみたいです。ちょっと休んできてください。」
怪しすぎる。変な壺を売られたりネズミ講に勧誘される方がまだマシだ。一旦この場から離れなければ。貴重品だけ持ってひとまずトイレに隠れよう。頃合いを見て店から逃げ出そう。
そう考えて席を立ち、男に背を向け小走りでトイレに向かった。トイレの前に到着し、ドアノブに手をかけ扉を開ける。
「え……?」
「え……?」
ドアに鍵はかかっておらず、中には人がいた。
男だ。男は僕の顔を見つめ幽霊でも見たかのように驚いた表情をしている。スーツ姿の冴えない男だ。小柄で覇気がなく彼女もいたことが無さそうな。……というか僕だ。目の前で僕と瓜二つの人間が便器に座っている。
「うっわ、これマジか…」
そう呟くと僕の偽物はお化けのように姿が消え、どこかに行ってしまった。
「ちょちょちょちょちょちょ!!今!トイレに俺がいたんだけど!?!?」
僕はキッドがいる席に走って戻った。
「あ〜、これからそういうことが増えると思います。」
「はぁ!?どういうこと!?」
「一旦タイムマシンの説明に戻りますねん。」
動揺する僕を無視して話を続けようとするキッド。
「この+ボタンで戻る時間を設定してスタートボタンを押します。そうすると設定した時間分の過去に戻ります。
気をつけてほしいのはスタートボタンを押す時の自分の場所です。基本的には"タイムマシンを使った瞬間の位置座標"にタイムスリップします。なので街中とかで使うといきなり人間が現れることになって大騒ぎになっちゃうので気をつけてください。そうですね〜。人気のないトイレの中とかで使うのがベストです。」
「…いやいやそんな淡々と説明されても理解が何も追いついていないんだが。」
「一旦タイムマシンのタイマーを5分前にセットしました。これ渡すのでトイレに行ってスタートボタン押してみてください。」
もう何が何だか。このあたりで僕の思考は完全に停止していた。こうなったらヤケだ。とことんこいつに付き合ってみよう。
僕はキッチンタイマーを受け取り誘導されるままトイレに戻ってスタートボタンを押した。
……?
たが何も起こらない。これはただの音が鳴らないキッチンタイマーだ。
とりあえずやっと1人になれた。便座に座り今日の出来事を振り返る。本当に変な一日だった。朝から説教されるわ、東雲さんと一緒に帰れないわ、変な男に絡まれるわ……。しまいには自分のお化けみたいな奴にまで出くわしてしまった。結局あのドッペルゲンガーはなんだったのか。
トイレでため息をついてるといきなりトイレのドアが開いた。人がトイレに入ってるってのに失礼なやつがいたもんだ。ドアを開けたスーツ姿の男が不思議そうな顔で僕を見ている。冴えない顔をした男だ。身長が低すぎてスーツを着ているというよりもスーツに着られている。間違いなく童貞だ。というか僕だ。僕が僕を不思議そうに見つめている。
「うっわ、これマジか……」
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