絶望の果てに拾ったのは、世界を終わらせる【クソザコ】だったというなの糞ラノベ5号


「コウタ・リィヴス。貴様を、王女暗殺未遂、及び国家機密漏洩の罪で追放する。……二度と、その『平凡な』剣を我が国で振るうことは許さん」

かつて仲間と信じた勇者の冷笑。信じていた王女の、冷え切った蔑みの目。

コウタは何も言わなかった。彼が死に物狂いで磨き上げた剣技も、戦場で仲間を逃がすために盾となった傷跡も、すべては「無能な歩兵の分際で、英雄の座を狙った」という醜い嫉妬の火に焼かれ、冤罪という名の泥にまみれた。


「……ああ、わかったよ。そんなに俺が邪魔なら、勝手に滅びろ」


コウタは折れた鋼鉄の剣一本だけを手に、国境の「死の森」へと足を踏み入れた。

そこは、最強の魔物さえも生きては戻れない、世界の掃き溜め。

だが、その最深部。朽ち果てた神殿の奥で、彼は「それ」に出会った。


「……見つけた。私の、新しい『玩具(セカイ)』」


薄暗い光の中にいたのは、鎖に繋がれた一人の少女。

ユウコと名乗った彼女は、見た目こそ可憐な美少女だが、その瞳にはどす黒い虚無が渦巻いていた。

彼女の能力……それは、史上最弱にして史上最悪。

【全事象の強制終了(デリート)】。


「私の力は、何も生み出さないわ。火も出せないし、傷も癒せない。……ただ、私が『いらない』と思ったものを、この世から消し去るだけ。……ねえ、コウタ。私をここから出してくれるなら、貴方を泣かせたもの、全部消してあげてもいいわよ?」


コウタは自嘲気味に笑い、折れた剣で彼女の鎖を叩き切った。

「俺は剣士だ。消すのは俺の仕事じゃない。……だが、俺の剣が届かない理不尽があるなら、その時はお前の出番だ」


「……ふふ。決まりね。貴方は私のために剣を振り、私は貴方のために……世界を消す」


その直後、追撃に現れた王国の精鋭騎士団百名。

コウタは静かに剣を構えた。

「無能」と蔑まれた彼の剣技は、極限まで無駄を削ぎ落とした「音」を置き去りにする神速の居合い。

一閃。

先頭の重装騎士が、鎧ごと両断される。


「なっ……ただの歩兵の剣が、なぜ聖騎士の盾を!? 殺せ! 魔法を叩き込め!」


放たれる極大の爆炎。

だが、コウタの背後に立つユウコが、退屈そうに指を鳴らした。


「――邪魔。消えて(デリート)」


瞬間。

迫りくる炎も、魔法の構成式も、そして魔法を放った術者の「右腕」さえも。

音もなく、光もなく、この宇宙から最初から存在しなかったかのように消滅した。

後に残ったのは、断面から血を流して絶叫する騎士たちと、無機質に剣を振るい続ける「最強の凡人」コウタの姿だけ。


「……いいわ、コウタ。貴方の剣筋、とっても綺麗。……次は何を消しましょうか? 貴方の冤罪? それとも、あの国の歴史ごと、無かったことにしちゃう?」


「……いや。まずは、あいつらが奪った俺の愛剣を、取り返しに行くぞ」



「……おい、ユウコ。今、何をした」

眼前に広がる光景に、コウタは剣を鞘に納めることすら忘れ、低く、押し殺した声で問うた。

そこには、かつて彼を「無能」と蔑み、追い詰めた王国軍の精鋭たちがいた――はずだった。

ユウコが退屈そうに指を鳴らした瞬間、彼らの武器も、鎧も、そして「戦おうとする意志」さえもが、消しゴムで消されたかのようにこの世から消失していた。


「え? だから、消したのよ。コウタの邪魔だったでしょう? 私、貴方の役に立ちたいの。ねえ、褒めてくれてもいいのよ?」


ユウコは無邪気に、返り血一つついていない白い手をコウタに伸ばす。

だが、コウタはその手を、冷徹に振り払った。


「……ふざけるな。俺は、お前みたいな『チート』は必要ないと言ったはずだ」


「――えっ?」


ユウコの動きが凍りつく。

コウタの瞳に宿っているのは、勝利の悦びでも、彼女への感謝でもない。

泥水を啜り、骨を削るような思いをして磨き上げてきた、己の「技術」に対する矜持。そして、それを一瞬で無価値にした暴力的な理不尽への、剥き出しの嫌悪だった。


「俺は、俺の剣で、俺を貶めた奴らを分からせてやるためにここにいる。相手がどれだけ強くても、どれだけ数が多くても、俺の腕一本で、正真正銘の『敗北』を刻んでやるために戦ってるんだ」


コウタは折れた剣先を、震える騎士たちではなく、ユウコの喉元へと向けた。


「お前がやったのは、戦いじゃない。ただの『消去』だ。そこに俺の剣が介在する余地も、奴らが後悔する余地もない。そんなゴミみたいな結果、俺は一ミリも欲しくないんだよ」


「で、でも……私がいないと、貴方はさっきの魔法で死んでいたかもしれないのよ!? 私はただ、貴方を守りたくて……!」


「死ぬなら死ぬで構わない。それが俺の技術の限界だったというだけだ。……いいか、ユウコ。次に俺の戦いに指一本でも触れてみろ。その時は、お前が世界を消す前に、俺がお前の首を飛ばす。――わかったか」


コウタの放つ「本物」の殺気に、最強の能力者であるはずのユウコが、小さく肩を震わせる。

彼女にとって、世界を消すことは呼吸より容易い。けれど、目の前のこの男の「心」だけは、どんなに力を振るっても手に入らないどころか、力を使えば使うほど遠ざかっていく。


「…………わかったわよ。もう、勝手にしなさい。貴方がボロボロになって、泣きながら私を求めてくるまで……黙って見ててあげる」


ユウコは唇を噛み、ヤンデレ特有の歪んだ独占欲を瞳の奥に沈めた。

コウタは一度も振り返らず、再び折れた剣を構え、震える騎士団の残党へと一歩を踏み出す。


「……さて。お掃除の邪魔が入ったが、続きを始めようか。――次は、どいつが俺に『剣士』として殺されたい?」


チートを拒絶し、己の腕一本で理不尽を叩き伏せようとする狂気の凡人。

その後ろ姿を、ユウコは「いつかこの男が屈服する瞬間」を夢見ながら、恍惚とした目で見つめ続けるのだった。


1.【追放】「その剣を置いていけ」

「コウタ・リィヴス。貴様の帯剣を許可するのは、我が王国の正義のためのみだ。……冤罪とはいえ、罪人となった貴様に、その『聖銀の長剣』を佩く資格はない」

白亜の謁見の間。勇者レオンの嘲笑を含んだ声が響く。

コウタが長年、数多の魔王軍を退け、血と脂を吸わせてきた愛剣。それが今、無造作にレオンの足元へ放り投げられた。


「……そうか。なら、それはお前にやるよ。剣に振り回されるだけのガキには、お似合いの玩具だ」


「なんだと……!? 負け惜しみを! この剣がなければ、貴様はただの無能な歩兵だろうが!」


レオンが逆上し、聖剣を抜き放つ。

その瞬間、レオンの背後で待機していた王宮魔導師たちが、コウタの動きを封じるために一斉に『重力縛鎖』の魔法を展開した。

だが、コウタは動かない。ただ静かに、そこらに転がっていた、刃こぼれだらけの演習用木刀を拾い上げた。


「――邪魔。そんな汚い魔力で、コウタの道を作ろうなんて不愉快だわ」


コウタの影から、一人の少女が這い出した。

ユウコ。

彼女が指先で空間を弾いた瞬間、王宮を埋め尽くしていた高密度の魔力、そしてレオンが構えていた聖剣の『自動防衛機能(チート)』が、霧のように消失した。


「なっ!? 聖剣の加護が……消えた!? 魔法が発動しないぞ!」


「当然よ。コウタに歯向かうための都合のいい理不尽なんて、この私が許さない。……消えて、無に還りなさい」


ユウコがさらにその手を広げ、王宮の構造そのものをデリートしようとした、その時。


「――おい、ユウコ。余計なことをするなと言ったはずだ」


冷徹な声と共に、コウタが手にした木刀の先端が、ユウコの頬をかすめて背後の魔導師の喉元を正確に突いた。


「……コウタ? 私は、貴方のために……! 奴らの卑怯なチートを消してあげたのよ? 貴方は、正々堂々とその技術を見せつければいいじゃない!」


「俺がいつ、そんな『手助け』を頼んだ。相手がチートを使おうが、魔法で固めようが、それを叩き斬るのが俺の積み上げてきた技術だ。お前が消してしまったら、俺が奴らの『最強』を上回った証明ができなくなるだろうが」


コウタはユウコを見向きもせず、魔力が消えてパニックに陥っている騎士たちのど真ん中へ、木刀一本で踏み込んだ。


「コウタ、無理よ! 相手は数千の軍勢なのよ!? チートを消さなきゃ、いくら貴方の技が凄くても、いつかは――」


「勝てない、か? ……ユウコ、お前はやはり何も分かってないな」


コウタの姿が消えた。

いや、あまりに無駄のない予備動作ゼロの踏み込みが、騎士たちの視神経を置き去りにしたのだ。

次の瞬間、最前列の五人の首に、木刀とは思えない鋭い衝撃が走り、彼らは一言の叫びも上げられずに意識を断たれた。


「……チートに頼る奴らに、俺の剣は一生届かない。だが、俺の剣はチートごと奴らを両断する。……見てろ、ユウコ。俺にとって、お前の消去(チート)も、あいつらの聖剣も、同じくらい不愉快な『ノイズ』だということを」


「…………っ」


ユウコは唇を噛み、己の力を抑え込んだ。

助けても怒られ、守っても拒絶される。

だが、その孤独な背中が、圧倒的な軍勢をただの「肉の塊」として捌いていく美しさに、彼女は抗いようのない屈辱と、それを上回る狂気的な興奮を感じていた。


 


 2.【初戦】魔法もチートも斬り伏せる「極限の技術」

王都の外縁、追放されたコウタを仕留めるべく展開されたのは、王国が誇る『断罪魔導騎士団』三千。

空を埋め尽くすのは、必中の追尾機能を備えた火炎槍(ファイア・ジャベリン)。地上を固めるのは、物理攻撃を無効化する常時発動型の魔力障壁。

まさに、個人の「技術」が介入する余地など一ミクロンも存在しない、システムの暴力だった。


「コウタ……! やっぱり無理よ、あんなの物理法則の外側にある攻撃だわ! 私が奴らの『存在定義』を消してあげる! そうすれば貴方は歩くだけでいいの!」


ユウコが震える手で空間をデリートしようとする。

だが、コウタはその手首を、万力のような力で掴み、制した。


「言ったはずだ。……余計なことをするな。お前のその『消去(チート)』は、俺の十五年を殺す毒だ」


「でも! 死んじゃったら十五年も何もないじゃない!!」


「死なない。……見てろ」


コウタは、刃こぼれした演習用木刀を、まるでおもちゃのように軽く振った。

直後、空から降り注ぐ数百の火炎槍。

コウタは一歩も引かず、ただ「最小限の円」を空中に描いた。


「――閃」


キィィィィィィィン!! と、鼓膜を劈くような金属音が響く。

木刀が触れたのは、炎ではない。魔法を構成する「魔力の結節点」そのものだった。

物理現象を斬るのではなく、現象が成立するための「術式の継ぎ目」を、神速の剣筋が正確に断ち切ったのだ。

霧散する火炎。

必中の魔法が、ただの暖かい風となってコウタの髪を揺らす。


「なっ……バカな!? 魔法そのものを……ただの木刀で『斬り落とした』というのか!?」


騎士団長の絶叫を置き去りに、コウタは地を蹴った。

魔力障壁に覆われた最前列の重装騎士たち。

普通に斬れば木刀が折れるだけの鉄壁に対し、コウタは木刀を突き出した。


「障壁は……こうやって『隙間』を通せば、ただの空気だ」


コンッ、という軽い音。

障壁の波長が変化する一瞬の揺らぎ。その「呼吸」を読み切り、コウタの突きは障壁の分子構造の隙間をすり抜け、重装騎士の喉元を正確に貫通した。

衝撃波が鎧の内側を破壊し、騎士は障壁を維持したまま、中身だけが崩壊して崩れ落ちる。


「……あ、あぁ……」


背後で見ていたユウコの瞳が、恐怖と、そして狂気的な陶酔で激しく揺れる。

彼女が『消去』で消し飛ばしてきた理不尽。

それを、コウタは「人間の腕一本」で解体してみせた。

チートなどという安っぽい力では到達できない、血の滲むような反復が生み出した、神の領域の技術。


「……すごい。コウタ、貴方は……私の『消去』なんて必要ないくらい、完成された『破壊』なのね……」


「勘違いするな。俺は壊したいんじゃない。……ただ、自分の剣を証明したいだけだ」


血飛沫の中、返り血一つ浴びずに立ち尽くすコウタ。

三千の軍勢が、たった一人の「無能力者」を前に、後ずさりし始めた。

彼らが信じてきた「魔法」や「加護」というチートが、一人の男の「鍛錬」の前に、紙屑よりも無価値なものへと成り下がっていく。


「さあ、次は誰だ。……俺の技術の、いい『砥石』になってくれる奴は」


ユウコは確信した。

この男に自分は必要ない。だからこそ、死ぬまで離さない。

彼がいつか、その「腕」を使い果たして絶望する瞬間――その時にこそ、自分の『消去』で彼を、世界ごと優しく包み込んでやるために。


 

3.【再会】勇者の「聖剣」vs コウタの「木刀」

追撃の軍勢を一人で「解体」し、国境の荒野を歩むコウタの前に、黄金の光を撒き散らしながら降臨したのは、かつての仲間であり、冤罪の主犯――勇者レオンだった。

その手には、神の血を引く鍛冶師が打ったとされる、国宝『聖剣デュランダル』が握られている。


「コウタァァ! 貴様のような『普通の人間』が、魔導騎士団を退けるなどというバグ、あってはならないのだよ! 勇者とは、世界に愛された選ばれし強者! その『格の違い』を、今ここで思い出させてやる!」


レオンが叫ぶと同時に、聖剣から自動追尾の光刃が幾条も放たれる。

避けることすら許さぬ、必中の神速。

だが、コウタは一歩も動かず、手にしたボロ布のような木刀を、あろうことか「逆手に」構えた。


「――心技体。あらゆる環境、あらゆる道具、あらゆる道を極めてこそ勇者だと思わないか、レオン」


「あ……?」


「お前は聖剣(それ)がなければ、ただの子供だ。だが俺は、この棒切れ一本あれば、この世の全てを斬れる」


放たれた光刃がコウタの首筋に迫る。

その瞬間、コウタの体が「消えた」と錯覚するほどの最小限の転身。

木刀の先端が光刃の「中心核」を叩いた。

カァン! と、ただの木材からは鳴るはずのない硬質な音が響き、神の光刃が霧散する。


「なっ……聖剣の必中攻撃を叩き落としただと!? バカな、そんな『反射速度』、人間に出せるはずが――」


「反射じゃない。……『予読み』だ。お前の呼吸、剣の重み、大気の震え。全てが次の一撃を教えてくれている」


コウタが踏み込む。

レオンは慌てて聖剣を振り下ろした。

聖剣の加護――『絶対切断』。触れるもの全てを両断する概念の暴力。

対するコウタは、木刀を真っ向から、その神の刃へと「重ねた」。


「折れろぉぉ! 凡人がぁ!!」


ガキィィィィン!!

火花が散る。だが、折れたのは木刀ではなかった。

聖剣デュランダルの刀身が、コウタの木刀が触れた一点から、蜘蛛の巣状の亀裂を走らせたのだ。


「……な……に……? 私の、私の聖剣が……防がれた……?」


「お前の剣には『心』がない。ただ力に任せて振るっているだけだ。……道具にこだわっているうちは三流。環境を言い訳にするのは二流。……一流は、己の技にのみ、世界の理を従わせる」


コウタは木刀を滑らせ、聖剣の鍔元を強打した。

レオンの指が弾け、神の剣が地面に突き刺さる。

武器を失い、恐怖に顔を歪める「最強」の勇者。その喉元に、ボロボロの木刀が静かに突きつけられた。


「……ひ、ひいぃ……! 待て、コウタ! 助けてくれ、俺が悪かった! 冤罪も晴らしてやる、だから――」


「――いらないわ、そんな命乞い」


背後で沈黙を守っていたユウコが、我慢の限界とばかりに指を鳴らそうとした。

レオンの存在そのものを、惨めに消去するために。


「ユウコ。……手を出すなと言ったはずだ」


「でもコウタ! こんな奴、私の『消去(チート)』で一瞬で――」


「こいつは、俺の『剣』で絶望させる。……消してしまったら、こいつの心に俺の技の恐ろしさが刻まれないだろう」


コウタは木刀を一度引き、レオンの肩、膝、そして「勇者としての誇り」を司る心臓の上を、目にも止まらぬ速さで叩き、骨を砕いた。

殺しはしない。だが、二度と「勇者」として立てぬよう、その肉体に「敗北」の記憶を物理的に刻み込んだのだ。


「……行け、レオン。お前の信じた『最強』が、俺の『棒切れ』に敗れたことを、一生噛み締めながら生きろ」


コウタは木刀を捨て、別の落ちていた石ころを拾い上げた。

「……次は、この石で十分か」


ユウコは、その徹底した「技術への偏執」に、ぞくりと背筋を震わせた。

この男、本当に狂っている。

自分のチートも、神の加護も、彼にとっては「腕を磨くための障害」に過ぎないのだ。

けれど、その狂気こそが、彼女をどこまでも深く、暗い愛へと引き摺り込んでいく。






 4.【執着】「ならチートのないお前は何だ!」

勇者レオンを、ただの「木の棒」で完膚なきまでに叩き伏せたコウタ。その衝撃的な敗北を目の当たりにしたレオンは、砕けた膝で這いつくばりながら、血を吐くような絶叫を上げた。


「認めない……認められるか! 聖剣も、魔法も、神の加護もない……そんな『チート』のないお前が、俺を……世界に選ばれた勇者を凌駕するなんて、あってはならないんだ!」


レオンは折れた聖剣の柄を握りしめ、逆恨みの涙を流す。


「答えろコウタァ! 加護も、才能も、システムさえも味方しない、そんな裸同然の『ただの人間』のお前に、一体何が残っているというんだ! お前は、何なんだ!」


コウタは歩みを止め、肩越しに冷たくレオンを見下ろした。

その瞳には、勝利の昂ぶりも、敵への憐れみもない。ただ、深淵のような静寂があるだけだ。


「……何が残っているか、だと?」


コウタは、拾い上げた石ころを掌で転がした。


「俺には、お前たちが『才能』と呼んで切り捨てた、十五年間の泥臭い反復がある。お前たちが『非効率』と笑った、百万回の素振りがある。……チートのない俺が何者か、だと? 俺は――」


コウタが石を軽く弾いた。

シュン、という不可視の軌跡。

石はレオンの額の数ミリ横を通り抜け、背後の巨大な岩壁を、爆縮したかのように粉砕した。


「俺は、お前たちが『不可能』と諦めた境界の先を、ただ独り歩き続ける『剣士』だ。……それ以外に、何が必要なんだ?」


レオンは言葉を失い、恐怖のあまり失禁した。

システムに守られた最強ではない。システムそのものを凌駕する、個の研鑽。

それがどれほど絶望的な暴力か、彼はその身をもって知らされたのだ。


「……もういいわ、コウタ。そんなゴミを相手にするのは時間の無駄よ」


背後で見ていたユウコが、我慢の限界とばかりに駆け寄った。

彼女の瞳には、かつてないほどの切実さと、狂気が混濁している。


「お願い、コウタ。……もう、そんな石ころや木刀で戦うなんてやめて。貴方がボロボロになるのを見てるだけで、私の内側が……この世界ごと、全部消しちゃいたい衝動で壊れそうなの!」


ユウコはコウタの腕に縋り付き、その鍛え上げられた、傷だらけの手を自分の頬に寄せた。


「私を頼って……。私という『チート』を使えば、貴方の服が汚れることさえなくなるのよ? 貴方はただ、美しく笑っていればいい。……ねえ、お願いだから、私に貴方の『苦労』を消させて?」


「……ユウコ。何度言えばわかる」


コウタは彼女の腕を、拒絶するように引き剥がした。


「お前に俺の苦労を消されたら、俺の歩いてきた十五年は、本当に無価値になる。……お前が俺を愛しているというなら、俺の『剣』を、黙って見ていろ。それができないなら、今すぐ俺の前から消えろ」


「…………っ!」


ユウコは息を呑んだ。

チートを否定するコウタにとって、彼女の存在そのものが「人生の否定」に近い。

けれど、拒絶されればされるほど、彼女の愛は黒く、深く、底知れない色に染まっていく。


「……わかったわ、コウタ。貴方がそこまで言うなら、私は『特等席』で見守ってあげる。……貴方の剣が届かない絶望が訪れる、その瞬間まで。……その時、貴方はきっと、私なしでは生きられない体になるんだから」


ユウコは歪んだ笑みを浮かべ、コウタの影に沈む。

コウタは再び前を向き、荒野の先を見据えた。

チートを拒み、己の腕一本で運命を捩じ伏せる「剣士」の旅は、ここからさらに加速していく。


5.【屈辱】王女の懺悔と、冷徹な一蹴

かつてコウタに「無能」と烙印を押し、追放の勅命を下した王女エルゼ。彼女は今、自国最強の魔導騎士団と勇者が、たった一人の「歩兵」に蹂躙されたという報告を受け、国境の荒野でコウタの前に跪いていた。


「コウタ……! 私は……私は間違っていたわ。貴方の力は、聖剣をも凌駕する王国の至宝。……どうか、私を、この国を許して。貴方を公爵として迎え、私は貴方の妻として一生を捧げると誓うわ!」


エルゼは涙を流し、その美しい貌を歪ませて縋り付く。

その後ろには、恐怖に震える侍女や子供の給仕たちの姿もあった。


「……コウタ。この女も、後ろのガキ共も、まとめて消していいわよね? 貴方を裏切った罪、存在を消去して贖わせましょう?」


ユウコが愉悦に満ちた笑みを浮かべ、指を鳴らそうとする。

虚無の力がエルゼの足元を侵食し始めた、その瞬間。


「――止めろ、ユウコ」


コウタの鋭い声が、ユウコの指を止めた。


「……どうして? この女は貴方を捨てたのよ? 復讐する権利が貴方にはあるわ」


「戦う意志のない女子供を斬るのは、剣士の領分じゃない。……行け、エルゼ。お前たちの命は、もう俺の眼中にはない」


「そ、そんな……! では、私との復縁を……! もう一度、私の騎士として――」


「勘違いするな」


コウタはエルゼを一度も視界に入れぬまま、手にした石を弄んでいる。


「俺は、お前に謝らせるために戦っているんじゃない。地位や、女や、そんな安っぽい報酬のために剣を振っているわけでもない。……俺は、この『剣』が、お前たちが信じる神や魔法、そしてこの理不尽な世界を上回ることを証明しなければならないんだ」


コウタの言葉には、復讐心さえも超えた、狂気的な「真理への探究」が宿っていた。


「俺が再びお前の騎士になる? ……笑わせるな。俺が極めようとしている道に、王冠も国も必要ない。俺の技術(スキル)にとって、お前という存在は……もはや、斬る価値さえ見出せない『塵』に過ぎないんだよ」


「…………っ、ああぁ……」


エルゼはその場に崩れ落ちた。

憎まれることよりも残酷な、完全なる「無関心」。

どれだけ美貌を飾り、権力を誇示しても、コウタのストイックな剣の世界には、彼女が入り込める隙間など一ミクロンも残っていなかった。


「……あはは! 傑作ね! 自分の価値が、コウタの振る素振り一回分にも満たないことを知らされる気分はどうかしら?」


ユウコは絶望する王女を見下し、嘲笑を浴びせる。

だが、そのユウコの横顔も、どこか引きつっていた。


「(……でも、私も同じ。コウタがその『証明』を終えてしまったら、私は本当に、彼にとって不要なものになってしまう……)」


コウタは立ち止まらず、荒野のさらに奥――伝説の魔王さえも住まうという『世界の果て』へと歩みを進める。

彼の目的は、もはや人間との諍いではない。

「人間の技術が、神の理を超えられるか」。

その一点を証明するために、彼は孤独に、そして傲慢に剣を研ぎ続ける。

王女を殺さず「許す(興味をなくす)」ことで、逆に彼女のプライドを粉砕し、己の道を突き進むコウタを描きました。


6.【地獄の検品】ユウコの暴走と、コウタの「しつけ」

王都を遠く離れた、静寂の森。

その夜、ユウコの精神はついに限界を迎えていた。王女を無視し、自分をも「ノイズ」として突き放すコウタの背中に、彼女の歪んだ独占欲が耐えきれなくなったのだ。


「……どうして……どうして、私じゃダメなの? 消してあげるって言ってるのに、守ってあげるって言ってるのに! 貴方のその『腕』なんて、いつか壊れてしまうのに……っ!!」


ユウコの叫びと共に、大気が激しく震えた。

彼女の背後から、どす黒い虚無の波動が溢れ出す。それは触れるものすべてを存在ごとデリートする、暴走した『終焉の獣』の真なる力。

周囲の巨木が、大地が、そして星空の光さえもが、彼女の感情に呼応して音もなく消えていく。


「――ユウコ。その力を収めろ。これ以上は、この森の生態系が狂う」


焚き火のそばで、いつものように淡々と木刀を削っていたコウタが、静かに立ち上がった。


「嫌よ……! 収めないわ! 貴方が私を必要だと、私のチートがなければ生きていけないと認めるまで、私は世界を削り続けてやるんだから!」


ユウコは涙を流しながら、全方位に向けて消去の波動を解き放った。

常人ならば、その波動に触れた瞬間に存在の定義を失い、消滅するだろう。

だが、コウタは逃げなかった。それどころか、死の波動が渦巻く中を、ただ「歩いて」接近していく。


「……何よ、その目は。どうして消えないの!? どうして私の力が届かないのよ!?」


「……お前の『消去』には、隙間が多すぎる」


コウタは、死の波動が交差するわずかな「不活性領域」を、ミリ単位の歩法で縫うように進んでいた。

それは、嵐の中を濡れずに歩くような、神懸かり的な空間把握能力。


「――お前は、心が弱い、ユウコ」


「――なっ……!?」


至近距離。

コウタの手が、ユウコの首筋に優しく、しかし抗いようのない力で添えられた。

もう片方の手は、彼女の心臓の鼓動を確かめるように胸に置かれる。


「力が強すぎるゆえに、お前は自分の心も、力の制御も、すべてを投げ出している。思い通りにいかないからと世界を消そうとするのは、駄々をこねる子供と同じだ。そんな脆弱な精神で、俺の十五年間に並ぼうなどと……片腹痛い」


「……あ、あぁ……」


コウタの冷徹な、しかし自分を真っ向から見据える瞳。

ユウコは、自分の最強の力が、彼のたった一言の「しつけ」によって、霧散していくのを感じた。


「いいか。次に暴走したら、俺は技術(スキル)でお前の『力の源流』だけをピンポイントで断ち切る。そうなれば、お前はただの、力のない、何の役にも立たない女になるぞ。……それでもいいのか?」


「……っ。それは……嫌……」


コウタに「無価値」と断じられること。それこそが、ユウコにとって死よりも恐ろしい『消去』だった。

暴走していた波動が収まり、森に静寂が戻る。

ユウコは糸が切れた人形のようにコウタの胸に崩れ落ち、震える声で囁いた。


「……ねえ、コウタ。……嫌いにならないで。私……頑張るから。貴方の邪魔にならないように、もっと、おしとやかに『消す』から……」


「……次は、俺が許可した時だけだ。わかったな」


コウタは彼女を抱き留めることもなく、ただ突き放すように言った。

ユウコはその冷たさにさえ、自分に向けられた「管理」という名の愛を感じ、頬を赤らめて陶酔する。


6.【守護】「守りたいものは、俺の手の届く範囲にある」

かつて、無能と蔑まれていたコウタに「お前の剣筋には迷いがない」と唯一言葉をかけ、剣を教えた老兵・バルカス。彼が守る辺境の孤児院が、王国の「反逆者隠匿」の罪を着せられ、軍の殲滅対象となった。

現場に駆けつけたコウタの前に立ち塞がったのは、王国の隠し札、禁忌の魔道具を体に埋め込んだ『人型兵装』百体。


「コウタ! お願い、私にやらせて! 奴ら、人間ですらないわ! 私が指一本鳴らせば、その醜い機械の塊を塵にしてあげられるのに!」


ユウコが必死に叫ぶ。

だが、コウタはすでに満身創痍だった。ここに来るまでの道中、数千の伏兵を「技術」だけで切り抜けてきた代償だ。肩は深く斬られ、脇腹からは血が滴り、握った木刀は今にも砕け散りそうに震えている。


「……黙って見ていろと言ったはずだ。ユウコ、お前の手で消した勝利に……俺の歩んできた時間の証明はない」


「でも、死んじゃう! 貴方の体はもう限界よ! 技術(スキル)だけじゃ、その物理的なダメージは埋められないわ!」


「埋められないなら……超えるだけだ」


コウタは吐血しながらも、折れかけた足を一歩踏み出した。

人型兵装が一斉に、熱線と物理弾を放つ。

コウタは、もはや目視ではない。痛覚、嗅覚、皮膚が感じるわずかな空気の揺らぎ――それらすべてを「剣の理」に変換し、死の弾幕をミリ単位の回避で潜り抜ける。


「――閃・断・一文字」


シュン、と。

木刀が、人型兵装の動力源である「核」を一点、一点、正確に打ち抜いていく。

だが、代償は大きかった。回避しきれない破片がコウタの頬を削り、熱線が彼の腕を焼く。

骨が軋む音がユウコの耳にも届く。


「あ……あぁっ……コウタ!!」


ユウコは自分の爪が食い込むほど拳を握りしめた。

助けたい。今すぐその最悪な「物理法則」をデリートしてあげたい。

けれど、血塗れになりながら、一振りの木刀で鋼鉄の巨人を沈めていくコウタの姿は、神々しいまでに美しく、そして残酷だった。


「……はぁ、はぁ……。見たか、ユウコ」


最後の一体が沈黙した時、コウタは折れた木刀を杖代わりに、ようやく立ち上がっていた。

全身の筋肉は断裂し、視界は真っ赤に染まっている。客観的に見れば、敗北寸前のボロ雑巾だ。

しかし、その瞳だけは、勝利した勇者よりも鋭く輝いている。


「……守りたいものは、俺の手の届く範囲にある。……それさえ、俺の『剣』で守りきれれば、世界のチートなんて……どうでもいいんだよ」


コウタはふらつきながらも、バルカスと子供たちが震える孤児院の門の前に、毅然として立ち続けた。

背後のユウコは、崩れ落ちるように膝をついた。


「……貴方の勝ちよ。……私の『消去』なんて、貴方のその『不屈』に比べれば、なんて安っぽくて、薄っぺらな力なのかしら……」


絶望的なまでの実力差を、文字通り「命を削る技術」で覆したコウタ。

ユウコは悟った。自分が彼を屈服させるのではない。

自分が、この「不屈の剣士」の歩む道の、ただの観測者(ドレイ)に過ぎないのだということを。



 9.【決戦】神の代行者 vs 限界突破の凡人

世界の中心、天空に浮かぶ『裁定の神殿』。

そこに現れたのは、世界の法則(システム)を管理する絶対的な存在、第一使徒・ルシフェルだった。彼は、世界のバグであるユウコと、理を無視して強くなりすぎたコウタを排除すべく降臨した。


「理解不能ですね、コウタ・リィヴス。貴方の肉体は、すでに生物としての限界を数千回超えて損壊している。なぜ、ただの『剣士』という概念に固執し、神の理に刃を向けるのですか?」


ルシフェルが指先を動かす。

瞬間、コウタの周囲の「重力」が万倍に増大し、「空間」が彼を押し潰そうと歪曲する。

それは回避不能、防御不能。世界そのものが「死ね」と命じているに等しい。


「コウタ……! もういい、もういいわよ! 神相手に人間の技が通じるわけない! お願い、私に全部消させて! 世界も、神も、システムも、私が無(ゼロ)にしてあげるから!!」


ユウコが泣き叫び、自身の存在を賭けて『完全消去』の権能を解放しようとする。

だが、重力に押し潰され、全身の毛細血管が弾け、真っ赤な血を噴き出しながらも――コウタは笑った。


「……黙って……見ていろと言っただろう……ユウコ。神が『理』を操るなら……俺は、その理の『外側』へ……この一振りで、辿り着いてみせる」


コウタは、もはや折れて柄だけになった木刀の破片を、震える手で構えた。

ボロボロの体。力など入るはずがない。

だが、彼の精神は今、十五年の研鑽の全てを一点に凝縮し、物質的な肉体を超越していた。


「――心技体、極まれば。……理(システム)さえも、俺の『間合い』だ」


コウタが一歩、踏み出した。

重力による圧壊が、彼に触れる直前で「横」に逸れる。

空間の歪みが、彼の歩みに合わせて「道」を譲る。

それは魔法でもチートでもない。ただ、彼の剣技が、大気の流れ、魔力の循環、世界の呼吸そのものを『読み切り』、その隙間を完璧に通り抜けているのだ。


「……なっ!? 神の理を……ただの歩法で無効化したというのか!? 貴様、何をした!!」


「……斬ったんだよ。お前が自信満々に操っている、その『世界の法則』の継ぎ目をな」


至近距離。

コウタは、もはや武器とも呼べない木の破片を、ルシフェルの胸元へ突き出した。


「――絶剣・零(ゼロ)」


音も、衝撃もなかった。

ただ、ルシフェルの体が、神の加護も、不滅の肉体も無視して、一筋の「線」として断たれた。

コウタの技は、ついに「物質」ではなく「概念」を物理的に解体する領域へ到達していた。


「ば、バカな……。神に、届くはずが……人間の一振りが……理を……超え……」


ルシフェルは光の粒子となって霧散していく。

神の代行者が消え、天空の城が崩壊し始める中、コウタは崩れるようにその場に膝をついた。


「……はは。……どうだ、ユウコ。俺の……勝ちだ……」


「コウタ!!」


ユウコは彼を抱きしめた。

血塗れで、ボロボロで、今にも消えてしまいそうな体。

けれど、神のチートを自らの『腕』だけで叩き伏せたその男は、ユウコにとって、世界中のどんな権能よりも、どんな奇跡よりも、恐ろしく、そして愛おしい『最強』だった。


「……ああ、そうね。貴方の勝ちよ、コウタ。……貴方の剣は、神様さえも追い越しちゃった。……でも、そんなボロボロの貴方を、一生離さないのは私の勝ちだから」


崩れゆく神殿の中、ユウコは意識を失ったコウタの唇を奪う。

チートを拒み、己を証明し続けた剣士と、その光に一生囚われることになった災厄の少女。

二人の戦いは、神話を超えた伝説として、崩壊する世界の記憶に深く刻み込まれた。


 

裁定の神殿が崩壊し、天から降り注ぐ光の破片が、焦土と化した地上を照らしていた。

王国の軍勢も、神の使いも、もはやここにはいない。残されたのは、血の海の中でボロボロの体を横たえるコウタと、その傍らで彼を壊れ物を扱うように抱きしめるユウコだけだった。


「……終わったのね、コウタ。貴方は神の理さえも、その一振りで解体してしまった。……もう、この世界に貴方の『技術』に抗える理不尽なんて、どこにも存在しないわ」


ユウコはコウタの頬に触れ、愛おしげに、そして酷く歪んだ笑みを浮かべた。

彼女の手が、コウタの動かなくなった右腕に向かう。


「ねえ、コウタ。……もう、十分でしょう? 十五年も、こんなボロボロになるまで剣を振ってきたんだもの。……あとは、私が貴方の『腕』になってあげる。貴方を拒絶した世界も、貴方を傷つけた歴史も、私が全部消して、貴方だけの楽園を作ってあげるから」


ユウコが指を鳴らそうとする。

コウタの『証明』が終わった今、彼を外界から隔離し、永遠の安寧(檻)に閉じ込める。それこそが、彼女が夢見た真のハッピーエンドだった。


「――待て。勝手に終わらせるな、ユウコ」


だが、その時。

死んだように動かなかったコウタの手が、震えながらも、ユウコの指先を力強く掴み取った。


「……なっ!? コウタ……貴方、その体でまだ動けるの!? 骨は砕け、魔力も底をついているはずなのに!」


「……言ったはずだ。俺の剣に、限界はない。……神を斬ったなら、次は……神を超えた先にある『自分』を斬るだけだ」


コウタは、もはや形すら残っていない木刀の『破片』を、震える指先で拾い上げた。

その瞳には、安住への誘惑など一分も存在しない。ただ、さらなる高み、さらなる研鑽への、飽くなき渇望だけが燃え盛っている。


「お前の『消去(チート)』は……やはり、最後まで俺にはふさわしくない。……俺の剣が届く限り、お前に出番はないんだよ、ユウコ」


「…………っ!!」


ユウコは絶句した。

絶望的なダメージも、神の理も、そして自分の狂おしいまでの愛着(チート)さえも。

コウタはそのすべてを「技術を磨くための障害」として切り捨て、ただ一振りの剣として生きようとしている。


「……ああ、そう。そうよね。……貴方は、そういう男よね。……私がどれだけ世界を消して、貴方を孤独にしても、貴方はその空虚さえも『砥石』にして、また剣を振るい始めるんだわ」


ユウコは、自分に向けられた「拒絶」に、かつてないほどの快楽と絶望を感じて、高らかに笑い声を上げた。

自分はこの男に、一生必要とされない。

けれど、彼が己を証明し続けるその背中を、誰よりも近くで、永遠に見続ける権利だけは――誰も奪えない。


「わかったわよ、コウタ。……貴方が剣を振り続けるなら、私はその『余波』で死んでいく世界を、ただ眺めていてあげる。……貴方がいつか、その腕を使い果たして倒れるその日まで……私は、貴方の影に寄り添う最凶の『ノイズ』でいてあげるわ」


コウタは、返事の代わりに木刀の破片を虚空へ振った。

シュン、という小さな、けれど世界の誰よりも鋭い音が、静寂の荒野に響き渡る。


冤罪を晴らすこともなく、王座に就くこともなく。

ただ一人の剣士と、一人の災厄が、果てしない強さの先を求めて、再び歩み始める。

チートを拒み、理不尽を穿ち、自らの命さえも技術の糧とする。

それは、世界で最も孤独で、最も高潔で、そして最も歪な、二人の「終わらない旅」の始まりだった。

完結

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