『弱かったころが俺を強くした。俺だけが心の強さを攻撃にのせれる』というなの糞2号
第一話:『努力は裏切る。だが、積み上げた「屈辱」は裏切らない』
【職業:見習い戦士】
【レベル:1】
【筋力:5】
網膜に浮かぶステータス画面は、今日も無慈悲だった。
十年間、一日も欠かさず一万回の素振りをし、街中の雑用をこなし、誰よりも冒険者として生きてきた。なのに、神が与えたこの『システム』だけは、俺の努力を「1ミリの成長」としても認めなかった。
「……カイ、悪いがもうギルドには来ないでくれ。十年もレベル1のまま。君がいるだけで、新人の士気が下がるんだよ。……これは、これまでの退職金だ」
渡されたのは、わずかばかりの銀貨。そして、冒険者証の剥奪。
俺の十年間は、たった数枚の硬貨に変換され、ゴミのように捨てられた。
「……なによ、その顔。……笑えないわね」
エルフの奴隷、リナが冷たく言い放つ。俺の情けなさに呆れているのか、その瞳には鋭い拒絶の色がある。だが、彼女も知っているはずだ。俺がクビになれば、彼女を養うことも、奴隷契約を維持することもできなくなることを。
俺は雨の中、ギルドのゴミ捨て場を彷徨っていた。
そこに、捨てられていた。
錆びつき、折れ曲がり、誰の目にも止まらない――俺のような、無価値な一本の剣。
「……お前も、捨てられたのか」
触れた瞬間、頭蓋の内側に、直接『声』が響いた。
『……我は「心壊の剣」。持ち主の「絶望」を喰らい、「心の強度」へと変換する器なり。……人間よ、お前の十年間、どれほどの屈辱を舐めてきた?』
「……思い出したくもないほどだ」
『ならば、その全てを我に捧げよ。システムに捨てられた男よ。……世界を、その「重み」で叩き伏せたいか?』
俺は、その冷たい黒い柄を握りしめた。
その瞬間、俺の中に溜まっていた十年の泥水が、すべて剣へと吸い込まれていく。
剣は錆を落とし、脈打つような漆黒の輝きを取り戻した。
【警告:指定外の武器と契約しました。ステータス・システムを無視した『心の強度』が算出されます――】
第二話:『リナの叫びと、十年の重み』
大蛇のような影が、リナの細い体を飲み込もうと鎌首をもたげる。
リナは俺を見て、絶望に顔を歪めた。
「逃げて、カイ! アンタみたいなレベル1がいたって、死ぬだけよ! ……嫌、見たくない! アンタが死ぬところなんて、見たくないのよ!」
それは、ツンデレの彼女が初めて見せた、俺への剥き出しの「愛情」だった。
俺は、初めて笑った。
「リナ。逃げろお前を死なせはしない!」
俺は、漆黒の剣を抜いた。
ステータスなんて関係ない。
俺がこの十年間、毎晩枕を濡らし、拳を血に染め、それでも剣を振るい続けた「心」が。
その、誰もが見向きもしなかった「重み」が、今、刃に宿る。
「クソ、死にたくない!」
俺はただ、大蛇の頭上から剣を振り下ろした。
物理法則を無視し、大蛇の「存在」そのものを叩き潰す――【心の強度:極】の一撃。
――ドゴォォォォォォォォォン!!!
衝撃波が街を震わせ、Sランクの魔物は、叫び声すら上げられずに消滅した。
後に残ったのは、綺麗に半分に割れた大地と、静寂だけ。
俺は肩で息をしながら、へたり込んでいるリナの元へ歩み寄った。
リナは、目の前で起きた「世界の理不尽な破壊」が信じられないのか、幽霊でも見るような目で俺を凝視している。
「リナ。……大丈夫か?」
「……っ、……なによ、それ。……意味わかんない! 意味わかんないわよ! なんで……なんでアンタが、あんな……!」
「……ああ。俺もよく分かってない。けど、なんとかなりそうだわ」
「……バカっ、バカっ! 信じてたんだからね、この変態無能……っ!」
リナは俺の手を折れんばかりの力で強く握り、そのまま泣きながら俺の胸に顔を埋めた。
その震えが、俺の十年の屈辱を、少しずつ温かな何かで上書きしていく。
システムに捨てられた俺たちの、本当の物語がここから始まる。
第三話:『「嘘に決まってる」という様式美、そして俺の「十年の重み」は二度鳴る』
静まり返った広場に、遅れてギルドの「エリート」共が駆け込んできた。
先頭にいるのは、昨日俺にクビを宣告した試験官のゼスだ。彼は、真っ二つに割れた大地と、消滅したSランク魔物の痕跡を見て、顔を青くしたり白くしたりしている。
「な、なんだこれは……! Sランクの『影の捕食者』が、跡形もなく消えている……!? 一体、どこの英雄が助けに来てくれたんだ!」
ゼスの視線が、返り血一つ浴びずに立っている俺と、俺の手に握られた不気味な黒い剣に止まった。
「……ああ、ゼスさん。魔物はもう片付いたよ。危ないから、もう大丈夫だ」
俺が淡々と言うと、ゼスは一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、それから腹を抱えて笑い出した。
「は? ……はははは! お前が倒した? カイ、冗談はやめろ。お前はレベル1の見習いだぞ? 筋力5のゴミが、物理無効のSランクを倒せるわけがないだろうが!」
「……いや、実際に目の前で見てたろ、リナが」
「嘘に決まってる! 証拠を出せ、証拠を! どうせどこかの高ランク冒険者が倒した後に、お前がそのゴミみたいな剣を抜いて格好つけてただけだろう! 浅ましいんだよ、この無能が!」
周囲の野次馬たちも「そうだそうだ!」「レベル1にできるわけない!」と同調し始める。
俺の隣で、リナが顔を真っ赤にして叫ぼうとした。だが、俺はその肩を手で制した。
「……いいよ、リナ。信じなくて」
俺はゼスに向かって一歩踏み出し、漆黒の剣を鞘に収めたまま、地面にコンと突いた。
抜く必要さえない。俺がこの十年間、彼らのような「選ばれた者」から浴びせられ続けてきた嘲笑。その記憶の重みを、ほんの少しだけ地面に流し込む。
ズゥゥゥゥゥゥン……!!
「……ひ、……ひっ!?」
広場全体が、まるで巨大な重力に捕らえられたように沈み込んだ。
ゼスたちは、物理的な衝撃ではなく、「圧倒的な精神的圧力」に押し潰され、その場に膝をつく。息ができない。まるで、十年間分の泥水を無理やり喉に流し込まれているような絶望感が、彼らを襲う。
「……俺は倒したなんて言ってない。ただ、俺の『十年の重み』に、あいつが耐えきれなかっただけだ」
俺は冷たい目で、地面を這いつくばるゼスを見下ろした。
「……さあ、リナ。晩飯、冷める前に帰ろう。クビになった俺に、もうギルドの命令を聞く義務はないだろ?」
「……っ、……あ、……ええ、そうね! ……ざまぁみなさい、この節穴共! カイ、行きましょう!」
リナは勝ち誇ったようなドヤ顔でゼスたちを指差し、俺の腕を誇らしげに組んだ。
呆然と見送るギルド職員たちの背後で、ようやく「システムの警告音」が街中に響き渡る。
【警告:特定個体『カイ』の精神強度が測定不能。これより、既存のランク制度を破棄し――】
第四話:『その剣、触るべからず。――「努力」すら喰らう絶望の器』
俺がリナを連れて広場を去ろうとした時、背後から卑しい怒鳴り声が響いた。
「待ちやがれ、カイ! その剣……昨日まで持っていなかったな? どこぞの遺跡で盗み出したか、あるいは先ほどの英雄が落とした聖剣に違いない!」
膝をついていたゼスが、欲にまみれた顔で立ち上がった。他のエリート冒険者たちも、俺の「重み」の正体がその剣にあると確信したのか、一斉に俺を取り囲む。
「無能のお前には分不相応な代物だ。ギルドが正当に保管してやる。……おい、取り上げろ!」
「……やめておけ。それは普通の剣じゃない」
俺の警告を無視し、一人のAランク戦士が俺の手から無理やり『心壊の剣』をひったくった。
「ははっ! 重いだけの鈍らかと思えば、なんて美しい輝き……ぎ、ぎゃあああああああああ!?」
剣に触れた瞬間、男が絶叫した。
漆黒の刀身が脈打ち、男の全身から「光の粒子」が強引に引き抜かれていく。それは男がこれまで積み上げてきた剣技の記憶、血の滲むような修行の成果、そして乗り越えてきた逆境の『経験値』そのものだった。
「な、何だ!? 私の……私の『剛力斬り』のやり方が思い出せない! 体が、まるで戦い方を忘れたみたいに……!」
剣は止まらない。次に触れようとした魔術師からも、彼女が十年かけて構築した魔力回路と、それを支える「知の積み重ね」を根こそぎ吸い取っていく。
『……我は絶望の器。……甘い「努力」や「栄光」など、我が主の地獄に比べれば、ただのデザートに過ぎぬ』
剣が不気味に共鳴する。
触れた者たちは次々と、自分が「なぜ強かったのか」という根本の記憶を失い、文字通りただの一般人へと退化していった。彼らが乗り越えてきた「壁」そのものが剣に喰われ、彼らの心には、ただ空虚な喪失感だけが残る。
「ひ、ひぃっ! 呪いの剣だ! 持ち主の才能を喰い尽くす魔剣だ!」
地面に転がった剣を、誰もが恐怖に震えて見つめる。
俺は溜息をつき、静かにその剣を拾い上げた。
「……だから言っただろ。俺にはこれしかないんだ。……十年間、何も得られなかった俺にしか、こいつの空腹は満たせない」
俺の手の中では、剣はまるでおもちゃのように大人しく馴染んでいる。
俺には吸い取られるような「華々しい過去」も「輝く才能」もない。あるのは、ただひたすらの空虚と、積み上げた屈辱だけ。だからこそ、俺はこの剣と共鳴できる唯一の存在なのだ。
「……なによ、あいつら。勝手に自滅して……。ざまぁないわね」
リナが鼻で笑い、俺の腰の鞘に剣を押し戻した。
「さあ、行きましょうカイ。……こんな、他人の努力を妬むだけの連中がいる場所に、もう用はないわ」
俺は、文字通り「空っぽ」になったエリートたちの横を通り抜け、今度こそ街の門をくぐった。
俺の背後で、ギルドの崩壊が始まっていたが……それは、十年間俺を無視し続けた彼らが支払うべき「ツケ」に過ぎなかった。
第五話:『暴かれた十年の地獄。その「重み」の正体』
街の門を出て数里。街道の木々がざわつき、俺たちの前に数影の「黒衣」が降り立った。
王都直属の隠密部隊。彼らは、先ほどギルドを壊滅させた『魔剣』を回収し、危険因子である俺を排除するために送り込まれた、国の「掃除屋」だ。
「……カイ、レベル1。十年の間、見習いのまま停滞し続けた欠陥品。……貴様が手にしたその剣、国家にとっての最優先危険物と指定する。……大人しく差し出せば、命だけは助けてやろう」
隠密のリーダーが放つ殺気は、先ほどのAランク冒険者とは比較にならないほど鋭い。リナが恐怖で俺の服の裾を強く握りしめる。
「……また、それか」
俺は静かに、漆黒の剣を抜いた。
その瞬間、剣が俺の脳に深く沈み込み、封じ込めていた「十年の記憶」を、周囲の空間へ共鳴という形で溢れ出させた。
「……なっ!? なんだ、この光景は……!?」
隠密たちがたじろぐ。
俺の周囲の空気が歪み、そこに映し出されたのは、俺が歩んできた『地獄』の断片だった。
雨の中、泥水を啜りながら一万回の素振りを終え、ステータスを確認しては【1】という数字に絶望し、吐血する少年。
親に「お前のような無能は我が家の恥だ」と石を投げられ、極寒の夜に放り出された記憶。
ギルドの裏で、英雄候補の少年たちに剣で叩きのめされ、「努力しても無駄なんだよ」と笑われながら、折れた指で地面に剣の絵を描き続けた日々。
その映像の一つ一つが、実体を持った「重圧」として隠密たちを襲う。
「ぐっ……、あ、あああああ……っ!? 息が、心が……潰れる……っ!」
隠密の一人が、自分の首を掻きむしりながら崩れ落ちた。
彼らが味わっているのは、俺が十年間、毎分毎秒味わい続けてきた『無力感』そのものだ。
最強を自負する彼らにとって、一瞬たりとも耐え難い「弱者の絶望」。それが、カイにとっては呼吸と同じ「日常」だった。
「……お前たちが積み上げてきた、輝かしい『エリートの十年』。……俺の、この『泥水の十年』と、どっちが重いか……試してみるか?」
俺が剣を一歩踏み出すごとに、空間が物理的にひび割れていく。
隠密リーダーは、恐怖で顔を歪ませながら、ガチガチと歯を鳴らした。
「ば……化け物め……! 十年も、こんな……こんな呪いのような日々を正気で過ごしてきたというのか……!? 貴様の心は、もうとっくに壊れているはずだ!」
「……ああ。壊れてるよ。……だから、今さら何が起きても、俺の心は揺るがないんだ」
俺は剣を横一文字に振った。
衝撃波ではない。ただ、俺の「絶望の総量」を、彼らの意識に叩きつけただけ。
隠密たちは、悲鳴を上げる間もなく、その重みに精神が耐えきれず、白目を剥いてその場に沈んだ。
「……カイ……アンタ……」
リナが、震える声で俺を呼んだ。
俺の過去の断片を目撃し、彼女の瞳には、かつての蔑みではなく、言いようのない哀しみと……そして、深い覚悟が宿っていた。
「……バカ。……本当に、バカね。……こんなに、独りで抱え込んで……。……もういいわ。これからは、私の罵倒だけ聞いてればいいのよ。アンタの絶望なんて、私が全部……毒を吐いて、消してあげるから」
リナは俺の震える手を、両手で包み込んだ。
十年の地獄の果てに、俺はやっと、システムよりも確かな「重み」を共有できる場所を見つけた気がした。
第六話:『積み上げた十年の正体。――まさかの「一億年ボタン」経験者だった件』
隠密たちを沈め、静寂が戻った街道。
リナに手を握られながら、俺はふと、自分でも忘れていた……いや、脳が防衛本能で封印していた「違和感」の正体に辿り着いた。
この『心壊の剣』と契約し、過去の断片が溢れ出したことで、パズルの最後のピースが嵌まったのだ。
「……カイ? どうしたの、急に黙り込んで。私の罵倒が足りないのかしら?」
「……いや。リナ。……俺、今思い出したわ。なんで俺のレベルが【1】から動かなかったのか」
俺は、自分のステータス画面の端にある、薄暗い『不可逆履歴』のログを、剣の力で無理やり引きずり出した。
そこには、十年前……冒険者になる直前の俺が、怪しい老人から手渡された【あるボタン】を押した記録が刻まれていた。
「……一億年ボタン?」
リナが画面を覗き込み、首を傾げる。
そう、あの日。俺は「一瞬で強くなれる」という言葉に騙され、異空間で一億年修行できるというボタンを押したのだ。
「……俺はあの中で、一億年、ただひたすらに素振りを続けた。……最初は発狂したし、心も何度も死んだ。けど、最後には『心』の強さだけで、何もない空間を切り裂く術を覚えたんだ」
だが、その代償は残酷だった。
ボタンのシステムは、一億年の「経験値」を現実世界に持ち帰る際、あまりの膨大さに世界のシステム(ステータス)がパンクすることを防ぐため、**【獲得経験値をすべて『0』として処理する】**という強引なバグ修正を行っていたのだ。
つまり、俺の肉体と精神には「一億年分の反復」が刻まれているのに、世界からは「経験値を得る資格を剥奪されたレベル1」として固定されていた。
「……じゃあ、アンタのその強さは、十年の努力どころか……」
「ああ。一億年分の『退屈』と『孤独』、そして『無意味な積み重ね』。……それが、この剣に宿ってる『重み』の正体だ」
俺が軽く剣を振ると、一億年分の修行の残滓が、周囲の因果律を歪ませ、物理法則を消し飛ばしていく。
システムが俺を【1】と定義したのは、俺を弱者と見なしたからではない。一億年という「神の領域」に踏み込んだ俺を、既存の枠組みでは測定できなかっただけなのだ。
「……ぷっ、……あははは! なによそれ! 一億年!? アンタ、どこまでバカなのよ! ……一億年も素振りして、結局『見習い』として十年も燻ってたわけ? 世界一の、救いようのない大バカ野郎ね!」
リナは腹を抱えて笑い出した。
その笑い声は、俺の一億年の孤独を、あまりにもあっけなく「ただの笑い話」に変えてくれた。
「……全くだ。……一億年経っても、お前の飯が楽しみなのは変わらないしな」
俺は一億年の重みを宿した漆黒の剣を鞘に納め、ただの「レベル1」として歩き出す。
背後では、一億年分の「重み」によって、俺たちがいた国そのものがゆっくりと地盤沈下を始めていたが――そんなことは、今夜の飯の献立に比べれば、実に些細な問題だった。
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