第15章「反撃の積算」
透は、証拠を携えて王城に向かった。
国王アルベルトに謁見を求め、事態を報告する。
「ヴァルモント公爵が、廃棄物の不法投棄を行っている、と?」
国王は報告書を見ながら言った。
「はい、陛下」
透は淡々と説明した。
「公爵の魔道具工房から出る廃棄物は、本来なら適正に処理されるべきものです。しかし、実際には王都郊外の森に不法投棄されていました。これは、王都の衛生規則に違反しています」
「証拠は確かなのか?」
「目撃証言、投棄現場の映像記録、そして投棄された廃棄物のサンプルがあります。公爵の工房から出たものであることは、間違いありません」
国王は報告書をじっと見つめていた。
「……これだけか?」
「いいえ」
透は別の書類を取り出した。
「もう一つ、報告があります」
「何だ?」
「先日、空調ギルドの事務所が放火されました。状況から見て、計画的な犯行です。そして、犯行時刻の直前に、公爵家の紋章が入った馬車がこの地区を離れるのが目撃されています」
国王の目が細くなった。
「放火……」
「直接的な証拠はありません。ですが、状況証拠は揃っています。公爵が私たちを潰そうとしていることは、明白です」
沈黙が流れた。
やがて、国王は口を開いた。
「トール殿。私も、公爵の動きは把握していた」
「……ご存知でしたか」
「ああ。だが、決定的な証拠がなかった。公爵は古い家柄で、宮廷に多くの支持者がいる。軽率に動けば、政治的な混乱を招く」
国王は立ち上がった。
「だが、今回の報告は違う。廃棄物の不法投棄は、明確な法律違反だ。これなら、動ける」
「陛下——」
「調査を命じる」
国王は側近に命じた。
「公爵の魔道具工房を査察せよ。廃棄物処理の記録を確認し、違反があれば報告せよ」
「はっ」
側近が退出していく。
国王は透を見た。
「君は、自分で復讐しようとはしなかった」
「復讐?」
「証拠を集め、正式な手続きで告発した。暴力に訴えることもできたはずだが」
「それは、間違ったやり方です」
透は言った。
「暴力では、何も解決しません。法に基づいて、正しいプロセスで対処する。それが、文明社会のあり方です」
国王は微笑んだ。
「……君は、本当に変わった男だな」
「よく言われます」
査察は、翌週に行われた。
公爵の工房からは、不適切に処理された大量の廃棄物と、改ざんされた記録が見つかった。
「言い逃れはできません」
シルヴィアが報告した。
「公爵は、長年にわたって廃棄物処理のコストを削減するため、不法投棄を続けていたようです。その総額は、莫大な金額になります」
「公爵は、どうなる?」
「爵位の剥奪はないでしょうが、多額の罰金と、社会的な信用の失墜は避けられません。魔道具商売からの撤退も、時間の問題です」
透は窓の外を見た。
「終わった、か……」
「はい。少なくとも、公爵からの妨害は、もう心配しなくていいでしょう」
透は深く息を吐いた。
長い戦いだった。
最初は、ただ空調設備を直したいだけだった。それが、いつの間にか、権力者との戦いになっていた。
だが、勝った。
正しいやり方で、勝つことができた。
「シルヴィア」
「はい」
「この経験を、制度化したい」
「制度化?」
「ああ」
透は振り返った。
「廃棄物の管理票(マニフェスト)制度だ。すべての廃棄物について、発生から処分までの流れを記録し、追跡できるようにする。不法投棄を防ぎ、適正な処理を保証する仕組みだ」
シルヴィアは目を輝かせた。
「それは……素晴らしいアイデアですね」
「公爵の件を教訓にして、同じことが起きないようにする。それが、本当の勝利だ」
透は技術ノートを開いた。
「新規提案:産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度の導入」
そう書いて、詳細を書き加えていく。
この世界を、少しずつ、良い方向に変えていく。
それが、透の使命になっていた。
数週間後。
国王の承認を得て、産業廃棄物管理票制度が正式に導入された。
最初は王都の大規模工房を対象として始まり、やがて全国に広がっていく予定だった。
「トール殿」
国王が透を呼び出した。
「廃棄物管理制度、順調に進んでいるようだな」
「はい、陛下。初期の混乱はありましたが、各工房も徐々に対応を始めています」
「君の提案は、この国の産業全体に良い影響を与えている」
国王は言った。
「安全書類制度、衛生管理、廃棄物処理。どれも、これまでこの国になかった概念だ」
「ありがとうございます」
「次は、何を考えている?」
透は少し考えてから答えた。
「北です」
「北?」
「はい。極北の地に、魔王の領土があると聞きました。彼らとの関係を、変えることができるかもしれません」
国王の表情が複雑になった。
「魔王……。彼らは、長年この国の敵だ」
「敵、でしょうか」
透は言った。
「彼らも、この世界で生きている存在です。なぜ敵対しているのか、その理由を知りたいと思っています」
国王は黙って透を見つめていた。
やがて、彼は小さく笑った。
「……君は、本当に変わった男だな。敵である魔王にまで、興味を持つとは」
「敵かどうかは、話してみないと分かりません」
透は言った。
「もしかしたら、共通の利益があるかもしれない。技術を通じて、関係を変えることができるかもしれない」
「技術で……」
国王は考え込んだ。
「面白い発想だ。だが、危険でもある」
「承知しています」
「……よかろう。調査を許可しよう。ただし、慎重に動け。魔王との接触は、この国にとっても大きな意味を持つ」
「ありがとうございます、陛下」
透は深く頭を下げた。
新たな挑戦が、始まろうとしていた。
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