第4話 最強の武器

 カルロッタの予想通り、エレナとロイドはお互いが思っていることを打ち明けて、二人はきちんと心を通わせることができたようだ。


「言えなかった言葉がようやく言えて、旦那様の表情を見て、大丈夫だと心から思えました」


 嬉しそうにはにかむエレナから報告を受けたカルロッタは、公爵家自慢の庭園にあるベンチに腰かけ空を見上げた。


 眩しいほどの太陽が心地よくて、両手をあげて伸びをする。


「うん。いい天気。気分も晴れ晴れだわ」

「カルロッタさんのおかげです」

「私は何もしてないよ」

「いいえ、カルロッタさんの優しいお言葉に背中を押していただいて、勇気が出たのです」


 カルロッタを見つめるエレナの瞳は力強く、あんなに傷ついて泣いていた面影はもうなかった。


「何はともあれ、よかったじゃないか」

「はい、旦那様はわたくしの話を最後まで聞いて下さって、俺のエレナを傷つけた奴は許さん! とお怒りになってくださって」

「なんだい、のろけ話かい」


 呆れたように言いながらも、カルロッタの口元は緩んでいた。隣に座るエレナはほんのりと頬を染めて幸せそうに笑う。


(よしよし、丸く収まったわね)


 エレナは恥ずかしそうに口元を押さえたが、こらえきれずに笑い声がこぼれた。


「ウフフ」

「よかったわね」


 そんな二人の元へ、封筒を手に持ったロイドがやってきた。


「エレナ」


 呼ばれたエレナは弾かれたように顔を上げる。


「旦那様、お庭までわざわざ、どうされたのですか?」

「これを」


 スッとロイドがエレナに持っていた封筒を差し出す。封筒には紋章が刻まれた赤い蝋が光って見える。竜の紋章が王家のものだということは、この国の民なら誰もが知っていることだ。


 エレナは手紙を受け取り、紋章を指でなぞってから手紙を取り出した。


「一週間後に開かれるお茶会の招待状ですわ」


 その言葉に真っ先に反応したロイドは、眉間に皺を寄せて、低い声で言った。


「行かなくていい」

「いいえ、今回は王妃様主催の大きな茶会のようですし、参加しないわけには参りません」

「しかし、前回のことは許されることではない。無礼者に今すぐにも抗議文を送りたいぐらいだ」


 心配そうに眉を下げるロイドにエレナは花が咲くように笑った。


「旦那様はわたくしの味方です。それがわかった今、わたくしにはもう怖い物はありません」


(そんな風に言われたらロイドは何も言えないわね。惚れた弱みってやつね)


 カルロッタの予想通り、ロイドは言葉を失っていた。エレナはロイドの手にそっと触れて、言葉を続ける。


「何があっても旦那様が居てくださるだけで、大丈夫と思えるのです。わたくしを信じてください」

「エレナ、本当に大丈夫か? 」

「はい、大丈夫です」

「わかった……だが、無理はしないでくれ」


 エレナのことが心配でたまらないのか、顔が強張っているロイド。そして、エレナも口では大丈夫だと言いつつも不安を隠しきれていない。


(いじめられた後だもの、不安になるのも無理はないわね)


「お二人とも、一つよろしいでしょうか?」


 小さく首をかしげるエレナと、じっと見つめてくるロイドに、カルロッタは明るく言った。


「なるようにしかならないのだから、笑っておきましょう」


 顔を見合わせた二人が目を瞬かせて戸惑っている。同じような表情の二人にカルロッタは人差し指を立てて、にっこり笑う。


「笑顔は人と人とをつなぐ、心にも身体にもいい! 自分自身を強くする最強の武器だよ」

「笑顔は最強の武器……そうですわね」


 いつもは控えめに微笑むエレナが、大輪の花が咲いたように笑えば、まるで周囲に光が差し込んだように場が明るくなる。


「うん、いい笑顔だよ。美人がさらに美人になったわね。ロイドもそう思うだろう?」

「ああ……綺麗だ」


フッと優しく笑うロイドに、カルロッタは目を見張る。


(あらまあ、普段無表情の男が優しく微笑むだけで、こんなに印象が変わるのかい。これはたまげたね)


 内心で驚くカルロッタとは違い、エレナは両手で口を覆い叫んだ。


「キャッ! 旦那様そんなお顔お外でしてはいけません」

「なぜだ?」

「かっこよすぎます」


 ポッと頬を赤らめるエレナと、照れ笑いをするロイド。仲睦まじい二人を見届けたカルロッタはベンチから立ち上がる。


「さてと、私はそろそろ家に帰るわね」

「え? でもカルロッタさん、まだ傷が」

「なーに、このぐらいの傷なんともないわよ。それに、ちょっと買い物に出るつもりだったから、お洗濯物は干したままだし、お鍋にスープも入ったままなの」


 しょんぼりと寂しそうなエレナと、身を乗り出して心配そうなロイドにカルロッタは笑顔で言った。


「二人とも、お世話になったね」

「せめて家まで我が家の馬車でお送りいたします」

「そうかい? それではお願いするよ」


 ロイドが馬車を手配する間、エレナはカルロッタの側を離れなかった。


「わたくしカルロッタさんが帰ると寂しいですわ。もっとお話したかったです」


(えらく懐かれちゃったわね)


カルロッタは本当に寂しそうな様子のエレナの手を両手で包む。


「私はいつだってエレナの味方だよ。エレナはもう、大丈夫だろう?」

「はい! わたくし、もう負けませんわ」

「うん、いい顔だね」


 馬車に乗ったカルロッタが窓から顔を出すと、凛とした笑顔のエレナと、その背に手を添えるロイドが並んで立っていた。

 二人は背筋を伸ばして、カルロッタに一礼する。


「ありがとうございました」

「こちらこそありがとうね!」


 馬車が動き出すと、二人の姿はゆっくりと遠ざかっていく。

 そうして、カルロッタは公爵邸を後にした。

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「熟女が熟女に転生してどうするのよ!何もできません」と言いつつ、痛快熟女がお悩み解決 藤井 @k-fujii

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