第4話 遥香

「お待たせ〜」

「チコさん、おはようございます。今日は早かったですね?」

「あ〜ちょっと徹夜してさ」

「ええ!?あの寝るの大好きなチコさんが…!?天変地異の前触れですか…?」

「おい?」

「あはは、すみません。そういえば、ルームメイトさんとは上手くやれてますか?」

遥香に言われて、ハッとした。そういえば、遥香も一緒に抜け出さないと。作戦…変更するとなると、もう一晩徹夜か…?

「チコさん?どうかしましたか?」

「あ、いや…遥香、後で私の部屋に来れる?」

「え!ぜひぜひ!でも今まで絶対入れてくれなかったのに、またどうして」

「いや〜はは…」

言えない。とんでもない汚部屋だったからなんて言えない。ルームメイトのお陰で片付いたから呼べるようになったなんて更に言えない。夏向は何かと世話を焼いて、部屋の片付けや家電類の切り忘れに加え、歯磨きせずに寝ようとする等の個人的なことまで叱ってくれたりする。私、ほんと人に恵まれてるよな…。

「理由はなんであれ嬉しいです!」

「…なら良かった!」

遥香はこれから脱出の相談をされるなんて、夢にも思ってない。臆病な子だから嫌がるかもしれない。でも、こんなとこに残していくなんて絶対できない。それだけは、絶対に。


♢


「じゃ、入って」

部屋の扉を開けると、スイートルームのように片付いた部屋の真ん中に、夏向が立っていた。

「来たか。…君は今朝の」

「あ、チコさんのルームメイトさんですか?私は遥香です。お邪魔します!」

「ごめん遥香、好きなおかず発表会しよって言ったじゃん。あれ嘘」

「え?」

「はぁ…あのなぁ、そういうことはもっと早く相談してくれ。びっくりするだろ」

「ごめんごめん、でも戦力は多い方がいいでしょ!上位クラスの子だし」

「まぁそれもそうか…」

「あの…?お二人とも、一体なんの話を…」

混乱する遥香に、夏向は真っ直ぐ向き直る。

「壱巳崎遥香…この施設からの脱出に、協力してくれないか」

「え?え?」

「混乱してるとこ悪いけど、時間がないんだよね」

「頼む。今は少しでも多く人手が欲しい」

「ええ…いや、あの、私は今の生活に満足してます」

「そう言うと思った…でも私はあなたにも来て欲しい。遥香がいない人生なんて考えられないよ」

「いや、私もそうなんです。そうなんですけど…」

沈黙が重くのしかかってくる。こうなることは予想してた。してたけど…どうしよう。

「ダメだ」

「へ?」

「君がいないとチコの精神が不安定になる。そうなればただでさえ低い作戦の成功率はゼロに等しくなる」

「でも…」

「君はチコが大事なんだろう」

「それはそうです!すっごく大切なんです。でも…」

言いかけて、言葉を詰まらせる。私に助けを求めるような視線を送る。生唾を飲み込んで、夏向に向き直って、口を開いた。

「でも、もし私のせいでチコさんが傷ついたら、私はもう二度とチコさんの顔を見れません。チコさんは優しいから許してくれるかもしれないけど、私はきっと、自分が一生許せません。それは…嫌なんです」

そうか。私はずっと、遥香は自分が傷つくのが怖いんだと思ってた。でも、実際は私の足を引っ張るのが怖かったんだ。私は今まで、遥香の何を見ていたんだろう。

「でも、君が嫌がっているせいでチコは困ってる」

「そうだけど、なにもそんなはっきり言わなくても…」

「知ってます…それはごめんなさい。でも、私はチコさんに傷ついて欲しくない。ここでの暮らしは、そんなに辛いですか?私は、チコさんがいるから…辛くないわけじゃないけど、満足してます。チコさんは違うんですか」

「なにそれ…ずるいよ、そんな言い方…」

「ごめんなさい。私は卑怯なやつなんです」

「…あー、いい感じに収まろうとしてるとこ悪いが、ここに居てもチコは傷つくぞ」

「え?」

「そもそもなんで実験なんかしてると思う?」

「人類を更なる上位の存在にするためじゃないんですか?」

「あんた思想強いわね…」

「まぁ間違っては無いな」

「え…戦争とかで兵器に使うためじゃないの?」

「半分正解半分不正解だな」

「正解は?」

「外の世界の化け物を倒すためだ」

「…化け物?そもそも、外の世界って?」

「この研究所がある世界は実は地下なんだ」

「え」

「あ〜…まずはそこから話すべきだったな、すまん。今から説明するよ。外の世界について」

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空のカナタ 数多未 @Amatami-saikyo

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