番外編第4話『夜を照らす』

「いいから起きろってんだ!このままだと死ぬぞ俺ら!全員ッ!!」


 鬼気迫るザインの声に、ミドリとクリス(人)の眠気が吹き飛んだ。ザインの指差す方へ目をやると、なにやら巨大な機械のようなものが船へ詰め込まれている様子が窺えた。


「おいザイン、アレ知ってんのか?」


「あァ知ってる!知ってるから焦ってんだろうがチクショウ!」


「な、なによ!?どうしたのよザイン!?」


 考えるまでもなくただ事ではないと分かる。ザインは「こっち来い」と叫び、機械の詰め込まれた船へ走って行く。


「んだよ…おい、走れるか?」


「アンタよりは速いわよ、私」


「よく言うぜ…とりあえずアイツ追いかけんぞ!」


 そう言い終わる間もなく、クリス(人)は自身の足元へ魔法で氷を生成する。パキパキ…と音を立てながら形作られたのは、脚の太さほどある「銃弾」。



【アイスバレット】

 氷結魔法の上位派生である、クリス・ブルーの開発した氷結魔術。一般に、既存の魔法を扱う人物のことを「魔法使い」と呼び、それらを応用し自分だけの魔法、「魔術」へと進化させた者を「魔術師」と呼ぶ。「アイスバレット」は、その名の通り魔法弾に特化した氷結魔術。その出力はもちろんの事、「凍らせる」概念を拡張し、空間そのものを氷結させる事を可能としている。



 クリスは自身の脚に生成した氷の銃弾に魔力を集中させ--


「点火(ファイア)!」


 ボウッ!!


 燃え盛る(ように錯覚できるほどの出力の)氷の弾丸が地面へと射出され、その反動を利用して飛び上がる。さながらロケットエンジンのような挙動だ。そのまま空中でさらなる弾丸を放ち方向転換、船へと一直線に向かって行った。



「相変わらず暑苦しいのか寒いのか、どちらかにしなさいよ…」


 うんざりと呟きながら、ミドリも準備を始める。クリス(幼竜)はまだ眠っている。


「起こすのは可哀想ね…」


 ミドリは相棒の頭を撫で、胸元にしまいこんだ。ふう、とひと呼吸を置き両手を広げる。


「《付加魔術(エンチャント)》……グロウアップ」


 瞬間、ミドリの身体が淡い翡翠色に輝き出す。


「アイツは…なんだ、余裕で追いつけるじゃない」


 そう呟くと、ミドリは大きく1歩踏み込んだ。



【《付加魔術(エンチャント)》】

 ミドリの専門とする魔術。対象に様々な効果を与える魔法で、冒険者以外にもこれと似た魔法を扱う仕事は多数存在する。しかし、ミドリの扱う付加魔術には、一般的なそれらとは大きな違いがあった。それは、「可能性を引き出すこと」。特に「付加魔術:グロウアップ」は汎用性に富んだ魔法であり、対象の潜在能力を瞬間的に解放し、その力を大きく高めることができる。応用で動植物の成長促進や回復も行うことができる。



 --バシュン!!


 ミドリは、高速で駆け抜ける。その速度、時速数十km…否、それ以上だ。疾走中、ミドリは更なる詠唱を続ける。《付加魔術》の重ねがけだ。


「グロウアップ………アップテンポ……リミテッドオーバーカム……エボリューション!」


 瞬間、ミドリの姿が消えた。否、目で追えない速度に達したのだ。

 遅れて、衝撃波と音が彼女を追う。先行するザインも、空を飛ぶクリスでさえ追い抜きミドリは船へと辿り着いた。


「ふう……久々に走ると、ちょっと息があがるわね」


 彼女は、汗を拭いながら振り返る。直ぐに空からクリス(人)が降ってきた。


「マジか…俺が負けちまったか…」


「なんで割と本気で凹んでんの…? そういうのいいから。暑苦しい…」


「ハァ…ハァ……ッ!」


 随分遅れて、漸くザインが辿り着く。


「お前ら…ハァ…ッ!速すぎンだろ……ッ!」


「キュイ♪」


 クリス(幼竜)がミドリの胸元から顔を出し、笑顔でザインを迎える。さっきの疾走がよほど楽しかったのか、この上なくご機嫌である。


「さて、説明してもらおうか…」


「あぁ…あんまり時間がねェから簡単にな」


 ザインの話をまとめるとこうだ。あの巨大な機械は「魔力封じの古代機構」と呼ばれる魔道具であり、戦争時代の産物である。その機能は周囲の魔力を持つ生き物から魔力を吸い取り、弱体化させると言うもの。生物と魔力は強い関係で結ばれており、無理に魔力を吸い出されると昏睡してしまい、場合によっては死に至る。それは我々人間も例外ではなく、かの魔道具は対魔法使いに特化した兵器であること。


「つまり、今アレは動いているんだな…?」


 クリスが神妙な面持ちで考える素振りを見せる。


「いーや、動いている訳じゃねェ。第一アレが動いていたらとっくに俺らはくたばってる」


「"動いていなくても機能はしている"のね。電池の自然放電…とはまた違うのでしょうけど、その魔道具の持つ力が滲み出ている…そういう事ね?」


「だいたいはそうだな。その微弱な魔力のせいで俺達は眠らされちまってたってワケだ。

…アレはナハトリヒトの切り札、どんな強大な魔術師でも太刀打ちできねェ代物だ」


「なるほどな……これで合点がいった」


 クリス(人)が相槌を打つ。彼の中で何かが腑に落ちたらしい。


「【凶星】のバカみたいにデカい魔力、アレを隠していたのはあの魔道具だったのか」


「それなら新入りちゃんはまだここに残っている可能性があるのかしら?」


「それは分からないが…とりあえず、アレぶっ壊すぞ」


「ヘヘッやっと面白くなってきやがったなァ!」


 クリス(人)とザインの身体に魔力が迸る。ミドリはその様子に、「これだから男共は…」と頭を抱えながらも同じように魔力を滾らせる。


 作戦は、思わぬ方向へと向かって行った。

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