第43話「火照り」



家に帰る頃にはへろへろだけど、心地いい疲れがあるということを久しぶりに思い出した。

子どもの時、辛くていつも泣いてた舞踊の稽古も、終わりの時だけは嬉しかったっけ。おばあちゃんがまだ元気な時は、必ずジュースとお菓子を持ってきてくれた。


些細なことかもしれないけど、自分にとってはかけがけのない宝物だ。気が抜けない生活の中で、唯一安心できる時間だった。



「白希、ただいま」

「おかえりなさい! 今日もお疲れ様です」


十九時半。仕事から帰ってきた宗一はさっそく白希の頬に口付けし、コートを脱いだ。


夕食時、美味しそうに食べる宗一さんを眺め、自身もスプーンを口に運ぶ。

この何気ない瞬間こそ、“家族”を連想する。宗一さんが俺に与えてくれるのは、お金じゃ買えないものだ。


「宗一さん。ありがとうございます」

「急に何だい? なにかしたっけ?」

「いえ。いつものお礼です」


笑って答えると、彼は嬉しそうに頷き、多めの一口を食べた。


緩やかに時間が流れていく。

彼と一緒にいられるだけで充分幸せだ。



「わぁっ!」


食後、歯を磨いて部屋に戻ろうとすると、途端に視界が上昇した。

理由はひとつ。宗一さんが俺の体を軽くし、また横向きに抱き上げたからだ。

「宗一さん?」

「明日はお休みだし、今夜は私の部屋で寝よう。ねっ?」

とても素敵な笑顔を浮かべる彼は、少し異様なオーラを放っている。


もしかして、かなり我慢してるんだろうか。最近ちょっとご無沙汰だったから。

嫌な汗をだらだら流していると、案の定部屋に入るなりベッドに押し倒された。


やっぱり、夜の営みだ。気持ちいいって分かってるけど、最初はやっぱり抵抗してしまう。

だって恥ずかしいし。


「最近、私が触れない時もちゃんとひとりでシてた?」


ゆっくりとベルトを引き抜かれ、チャックを下ろされる。

彼の言動も行動も恥ずかしくて、思わず口端を引き結んだ。


「やらな過ぎも駄目、って約束したでしょ」

「そ……そういうことは心配しないでください。俺ももう大人ですから……っ」


顔を横に逸らしたまま、勇気を出して答える。すると彼は薄く笑い、ズボンを引き下げた。

「あっ!」

「じゃあ、大人らしく誘ってもらおうかな」

履き替えたばかりの下着。でも、顔を近付けられるのは緊張する。そこは触れてなくても勝手に持ち上がって、ぬれてしまうからだ。


彼に触ってもらえると思っただけで、全身が震える。

誘うなんて高等技術、俺にはやっぱり無理だ。

「や……宗一さん、俺……っ」

「何?」

「ごめんなさい。その……やっぱり、苦しい……です」

シャツを引き上げ、下着に手をかけた。

堪え性のないこの体が嫌いだ。でも、彼に触ってもらえないとおかしくなりそう。


涙でぬれた瞳で見上げると、宗一は微笑みを崩さぬまま、白希の口に指を入れた。

「大丈夫。たくさん愛するから」

白希の下着を足首まで下ろし、たっぷりぬれた指を尻の割れ目に宛てがう。

「力を抜いて。私を見なさい」

ぐ、と指に力が込められる。後退ろうとしたが、それより先に中を擦られる。


脚を投げ出し、白希は甲高い声を上げた。

始まる。今夜も、あの濃くて長くて、……甘い夜が。


彼がゴムの袋を噛みちぎるさまを見ながら、これから起こることを想像する。

明日の朝、自分はどうなってるだろう。今から恐ろしくて身震いするが、内心期待してる自分もいる。

「……白希?」

顔を手で必死に隠してると、掴まれで簡単に離された。

「俺、自分がこんな人間だったなんて……全然知りませんでした」

触れてる部分も吐き出す息も全部熱くて、とけてしまいそう。

「宗一さんを独り占めできる夜さえあれば、ほんとのほんとに、何も要らないなって……」

生理的な涙を零しながら、彼の腕にすがりつく。必死の想いで彼の動きに合わせていたけど、息を奪う激しいキスが始まった。



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