第42話



当事者のはずの俺が一番何も知らなくて、いつも宗一さんがひとりで悩んでいる。

守ってもらってばかりだ。

だけど彼もそれを否定し、俺の額にキスする。


「本当は余川さんや周りの反対を押し切ってでも、もっと早く君に会いに行けば良かったんだ。その後悔はこれからもずっと消えない」

「そんな……宗一さんは関係ないのに」

「確かに、関係ないって言われたら終わりだけど。同じ村で、同じ力を持った男の子のことは気になるものだよ」


腰を持ち上げられ、彼の膝の上に乗せられる。少しだけ高い位置から、彼の優しい眼差しを受けた。

「君のことはずっと前から知っていたし、ご両親に大事にされてるんだと思い込んでいた。だからあまり外へ出たがらないのだと……実際はその逆で、過保護どころかを監禁されていた。何も行動しなかった自分が許せないんだ」

彼の言葉にハッとする。虐待なんて言われると、また一層重たく感じる。

乱暴されたことはないから考えもしなかった。むしろこの力の危険性を思えば、誰にも会わず、閉じ込められるのは当然と思っていたけど。


「宗一さんは、本当に優しいですね」

「普通だよ。もし君が私だったなら、同じように思ったはずだ」

「ううん……全部、俺がしっかりしてれば起きなかった問題なんですよね。諸悪の根源って考えたらすごい罪悪感が……」

「白希は真面目過ぎるんだよ。それが良いところなんだけど」


異常な迷信に振り回される方が問題なのだと、彼は頬を膨らましながらぼやいた。

「君はずっと自分を抑え込んで生きてきたんだろう。でも、もうそんなことしなくていい」

宗一さんはパッと明るい表情になり、指を鳴らした。


「無理に抑えようとするから暴発するんだ。私もかつて力が勝手に出ないよう意識してたけど、もう出てもいいや、ぐらいに思ったら普通に生活できるようになったよ。そのぐらい自由に考えていいと思う」

彼なりに色んな壁や葛藤があったはずだけど、明るく話すものだからすんなり聞き流してしまいそうになる。

しかし困った。

出てもいいやって思ったら、本当に出ちゃうのが俺の力だ。


「宗一さんも、意識的に力を使う時期があったんですか?」

「うん。力を使うことは悪い、と思う時期はあった。でも人前で使う気はないし、自分ひとりの時はいくら使ってもいいと思ってね。買い物する時はいつも荷物を軽くしてたよ」

「あはは、さすがです。俺も、そういう使い方が理想だなぁ……」


ぬるくなったコーヒーを温め直すぐらいの、ささい使い方がしたい。

人を傷つけることだけはしたくないけど、加減を間違えればひどく危険なもの。バランスをとるのが非常に難しい。

「さすがに、家の中はなにかあったら大変なので……さっそく誰もいない河原とかで練習してみます」

そうして、花嫁修業に新たなトレーニングが追加された。

やっぱり家事ができても力のコントロールができないと、日常生活に支障が出る。仕事するにしても、このままじゃとても人と一緒にはいられない。


何日も何日も、人気のない河原でお茶を温める練習をした。すっごく地味だけど、誰にも迷惑はかけないし、力を無理やり抑え込んでた時より調子がいい。

力そのものを悪とし、抑圧的に捉えていたこともいけなかったのかもしれない。宗一さんのアドバイスに改めて感謝して、冷たいお茶の温度をほんの少し上げた。


「ふー……」


対象物がこれほど小さいのに、体力の消耗が激しい。キャップをとり、額に流れた汗をタオルでぬぐった。



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