第41話



村では暗黙の了解となっていたけど、この力を持つ者は恐れられる。

だからこそ早くコントロールしなくてはいけない。それでも中々力を制御できない自分に危険を感じ、母は宗一さんの家にいち早くSOSを出したんだ。

同じ力を持つ宗一さんと関われば、力の使い方を教えてもらえるんじゃないか……と。


けど結局、俺と宗一さんが会うことはなかった。


「君が手紙を書くのと同じタイミングで、私は村を出たからね。……父にも、もう二度と春日美村には戻らないようきつく言われていた。その言いつけを破って何度か君の家に伺ったんだけど、やはり周りから部外者扱いされて会わせてもらえなかった」


また頬を指でつつかれる。今度はよろけなかったけど、コップを持つ手が滑りそうになった。

それに気付いた宗一さんが、俺の手を上から握る。


「迷信や仕来りのように、見えないものに心を掻き乱されてはいけないよ。村の人達が本当に恐れてるのはこの力じゃなくて、変化なんだ」

「変化……」

「そう。力を持つ私が村を出たのも、白希が力の制御に苦心したのも、彼らからすれば全てイレギュラーなこと」


過去にない行動を起こせば、悪いことが起きると本気で信じている。不測の事態が起きることを何よりも嫌う人達なのだと、彼は顰めっ面で零した。


思い返せば、神様は祀らないのに呪いや祟りは信じる村だった。常に周りを気にして、模範から外れた人を追いやる。宗一さんのお父様は、疑心的な彼らに嫌気がさしたのかもしれない。


もし俺が力を持たずに生まれたとしても……きっと、あそこで生きていくのは息苦しかっただろう。


「宗一さんは、村を出てから困ったことはありませんでしたか?」

「私は力を自分のものにしてから出て行ったから……向こうが干渉してくることはなかったよ」


ただ、君は違う。

宗一さんは切れ長の目をさらに細め、語調を強めた。


「ご両親が君を外に出さなかったことで、力を制御できてないことが村全体に知られてしまったんだ」

「あの、前も思ったんですけど……俺が力を制御できてないことを、村の人達に知られるとなにかまずいんですか?」


同じ家に住む家族が気にするのは当然だが、村人達はあくまで他人だ。なのに何故、自分や宗一に干渉しようとするのか、そこが分からない。

固唾を呑んで待っていると、急に抱き寄せられた。


「宗一さん?」

「……本当にくだらない迷信、なんだけどね」


顔を上げようとしたけど、それより強い力で押さえられて動けない。だから彼の胸に抱かれたまま、囁くような声を聞いていた。

「うーん。ごめん、やっぱり何でもない」

「ちょっ! そこまで言ったら言ってください!」

どきどきしながら待っていたのに、彼は頭が痛そうに後ろへ倒れた。おかげでバランスを崩し、こちらまでソファに倒れる。


「君が傷つくかもしれないことは言いたくないんだ」

「……」


宗一さんは片手で自分の顔を隠し、小さく呟いた。

俺にとって悪い話なのは間違いない。でも、そんなのどうでもよかった。何も知らない方が落ち着かないし、……宗一さんにだけ重いものを背負わせるのは耐えられない。


「教えてください、宗一さん。俺は大丈夫ですから」


動けないけど、何とか手だけ動かした。彼の空いてる片手を握り、静かに言葉を紡ぐ。

「これからはどんなことも共有しましょうよ。嬉しいことも悲しいことも、半分こしましょう。俺は十年近く何も経験してこなかったので、良い目覚ましになります」


自身の胸に手を当て、シャツごと握り締める。


「子どもの頃と違って、もう自分が傷つくのは怖くない。でも宗一さんがひとりで苦しむのは嫌なんです」

「白希……」


この、暗くて酷い世界を塗り替えてくれた人。彼が辛い思いをすることだけは絶対に嫌だ。

しばらくの間無言で見つめ合った。やがて、彼は降参と言わんばかりに両手を上げた。


「わかったよ。君は本当に強いね」


粘った甲斐はあった。黙って頷き、彼の口が開くのを見守る。

宗一さんは、ソファに手をついた。


「この力は二十歳を迎えるまでに制御しないといけない。もし制御できなければ、その者は家族や村に災厄をもたらす。そんな馬鹿げた迷信があるんだ」


なるほど。

やっと腑に落ちた。他人事じゃないから、村の人達は二十歳になった俺を見つけ出したいんだ。


「こんなタチの悪い迷信、一体誰が言い出したのか。文献にもないから分からないけど、真に受ける方もどうかしてる」

「ま、まぁ……閉鎖的な村ですからね。子どもの頃から聞かされていたら、信じるのも無理はありません」


自分の手のひらを見つめ、冷静に返した。

何も驚くことはない。この力が存在していることが既に異常なんだから、異常な言い伝えが何個出てきても、仕方ないと思える。

「つまり皆さん、俺を見つけ出して始末したい。ってことですよね?」

「始末って……白希、どこでそんな物騒な言葉を覚えたんだい」

本気で心配している宗一さんには悪いけど、可笑しくて笑ってしまった。

「この前配信されてたイタリアのマフィアの映画で学びました。とても面白かったんですよ」

「それって銃をパンパン撃つ内容だよね。白希にはまだ早いよ、次は見ちゃ駄目」

「そんな……!」

残酷過ぎる言葉に絶望しつつ、慌てて咳払いする。


「そ、それはさておき。俺は、村にいる人の不安はもっともだと思います」

「……怖くないのかい?」

彼の問い掛けに、首を横に振った。

「むしろすっきりしてますよ。でも、心配かけてごめんなさい。……これは俺の問題だから宗一さんが悩むことじゃないのに」



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