第31話
その後ベランダに出て、宗一さんと朝日が昇る瞬間を一緒に見た。屋根裏にいた時から夜明けの空はわりと見ていたけど、今までで一番綺麗に見えた。
多分、ほっとしてるんだ。
村では“今日”が始まることは全然嬉しくなくて、むしろ怖くて仕方なかった。
今は大切な人が隣にいて、怖い人は誰もいない。
これがどれほど幸せなことか……。
腰が痛かったからほどほどで部屋に戻り、薬を塗ってもらった。最後までしっかり恥ずかしい……。
だけど、宗一さんへの想いをはっきり認識した一日になった。
夜が明け、日中はまた少しの時間真岡に付き合ってもらい、銀行へ行っていた。無事自身の通帳を手に入れた白希が家に帰ると、部屋には新しい家具が設置されていた。
感動し過ぎて逆に言葉が出てこない。
本を読むのは好きだし、机があれば勉強もできるし、何もかもが理想の環境だ。
「こんな素敵な部屋で過ごせるなんて夢みたいです。ありがとうございます、宗一さん!」
「全然。その笑顔が見られただけで充分だよ」
食事の支度も、宗一に見守ってもらいながら始めることにした。
最初はとにかく火傷しないよう、手を切らないよう口酸っぱく言われた。
「うん、すごく美味しいよ。初めてとは思えない」
味に関してはいまいち自信がないけど、宗一さんは満足そうに頷いた。
「本当に大丈夫ですか? 俺は薄味で育ったので、美味しくなかったら遠慮せず言ってくださいね」
「ほう、だから白希は細いのかな。薄味の方がヘルシーだもんね」
「あはは。だからこそ、体に悪い物が食べたくなります。例えばほら……カップラーメンとか。ずっと昔に食べたことあるんですけど、久しぶりに食べたいな」
「何だ、それなら今すぐ買おう。何箱欲しい?」
「一個で大丈夫ですよ!」
何故なのか、彼はとにかく極端だ。ゼロか百か、白か黒かで判断する。中間がない。
宗一さんは裕福な家庭で育ったから、金銭感覚が自分と違い過ぎる。
でも、今日真岡さんが言っていた。宗一さんは別に浪費家ではなくて、必要最低限なものにしかお金をかけないらしい。
なのに白希に関することは異常なまでに散財する。理由は分からないが、素直に胸が痛かった。
「宗一さん、俺に気を遣って、あまりお金を使わないでくださいね。そう、それが俺の為と思ってください」
「白希は本当に謙虚だねぇ。分かった、月にいくらまでと決めよう。……でもすぐに結婚するんだし、そしたらまた見直さないとだね」
彼の頭の中では、結婚へのカウントダウンが着実に始まっているようだ。
もう突っ込むこともやめ、ノーリアクションで流すことにした。
食事を終えて、食器を片付ける。お風呂を沸かして、入ったら掃除をする。
皆がしていること。でも、それが自分にとっても当たり前になったことがすごく嬉しい。
夜も深まり気持ちが舞い上がってるせいか、何となくスマホで“花嫁修行”と検索してみた。見事にひとつもできることがなくて、逆に笑ってしまう。
俺をお嫁さんに選ぶ要素なんて一つもないのに。
でも全然悲しくはなくて、むしろやる気がわいてきた。結婚の話はさておき、ここに書いてあることは全部生きる上で必要なスキルだ。敬遠せず、ちょっとずつ挑戦していこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます