第2話 ダンジョン攻略開始

 スマホが、けたたましく震えた。


 ダンジョン内専用回線。

 発信元表示を見た瞬間、背筋が冷える。


【ダンジョン組合・関東本部】


「……来たか」


コメント

【え、公式?】

【これヤバいやつでは】

【逃げろ】


 通話を取らなくても、内容は分かる。

 さっきの配信だ。

 詠唱なし魔法、Sランク魔石、異常なステータス。


 放っておくわけがない。


 俺は、あえて通話を拒否した。


「……今は無理です」


【拒否ったw】

【強すぎる】

【BANされるぞ】


 すぐに、追撃が来る。


【ダンジョン組合:緊急招集要請】

対象者:ユウト

理由:未登録高位能力の確認

※応答なき場合、強制介入の可能性あり


 喉が鳴る。


「魔王……これ、まずい?」


「“正しい選択”ではないな」


 魔王の声は、冷静だった。


「だが――**最も面白い選択**だ」


 俺は、笑った。


「だよな」


 スマホを胸元に戻し、カメラを向ける。


「配信続けます。

 イカルガダンジョン、**ソロ攻略**開始」


【正気か】

【伝説始まった】

【登録者増えすぎ】


 視聴者数は、すでに**3,000人**を超えている。


 ――もう、止まれない。


 ◆


 第4層へのゲートを抜けた瞬間、空気が変わった。


 湿度。

 魔力濃度。

 そして――**殺意**。


【警告】

イカルガダンジョン・中層エリア

推奨ランク:B以上


「普通なら、ここで引き返す」


 俺は独り言のように言った。


「でも今の俺は――」


「“普通”ではない」


 魔王が、続きを口にする。


 通路の先。

 重装ゴブリンの集団が、こちらに気づいた。


 数、12。

 全員、武装。


【無理だろ】

【即死エリア】


 俺は、一歩踏み出す。


「《魔王視座》」


 敵の動きが、スローモーションになる。


 俺は、**命令**した。


「――跪け」


 次の瞬間。


 ゴブリン全員が、**地面に叩き伏せられた**。


 重力操作でも、衝撃波でもない。

 魔力の流れを、強制的に“下”へ向けただけ。


「……これ、使いすぎると?」


「世界に“違和感”が残る」


 魔王は答える。


「違和感は、必ず誰かが嗅ぎつける」


 俺は、歩きながら言った。


「だったら――

 嗅ぎつける前に、**攻略する**」


コメント

【判断が狂ってる】

【でも見てしまう】


 魔石が、床に転がる。

 A、S、S。


 登録者数:**1万人突破**。


 その時――

 空間が、震えた。


 ダンジョン全体に、アナウンスが響く。


【イカルガダンジョン管理AI】

未認可侵入者を確認

危険度評価:再計算

ボス行動を前倒しします


「……来るな」


 通路の奥から、**巨大な影**。


 中層ボス。

 本来、複数パーティで挑む存在。


コメント

【無理無理無理】

【終わった】


 俺は、深く息を吸う。


「魔王」


「覚悟はいいか、契約者」


「――ああ」


 俺は、カメラに向かって言った。


「ここから先は、

 **公式非推奨ルート**だ」


 拳を、握る。


「イカルガダンジョン――

 **俺が先に攻略する**」


 その瞬間、

 魔王権限が――2%に跳ね上がった。



 ――足音が、ダンジョンを揺らした。


 ズン、ズン、ズン。


 天井から砂塵が落ち、壁の魔石ランプが一斉に赤く変わる。


【来た】

【でかすぎ】

【HPバー長っ】


 通路の奥から現れたのは、

 鋼殻の巨獣アイゼン・ミノタウロス


 身長は四メートル以上。

 全身を覆う黒鉄の皮膚。

 右手には、電磁魔力を帯びた大斧。


【推奨ランクA+】

【ソロ不可】


「……あれ、普通は何人で?」


「最低でも六人だな」


 魔王が淡々と答える。


「前衛三、後衛二、支援一。

 ――お前一人では、本来**即死**だ」


「“本来”ね」


 俺は、一歩前へ出た。


 ◆


「《魔王視座》」


 世界が、また情報に変わる。


【名称:アイゼン・ミノタウロス】

【状態:中層ボス/怒り】

【弱点:首関節内側/魔力循環核】

【注意:咆哮→突進→斧振り下ろし(確定)】


「全部、見えるな……」


「だが、見えるだけでは勝てん」


 ミノタウロスが、吼えた。


「――グォオオオオオ!!」


 咆哮と同時に、魔力衝撃波。

 床が割れ、俺の身体が吹き飛ばされる。


「っ!」


 受け身。

 背中が壁に叩きつけられる。


【HP 78%】


コメント

【今の効いてる】

【紙装甲か】


「魔王、これ……」


「**力を出せ**」


 その声が、少し低くなる。


「だが覚えておけ。

 ――出力を上げれば、代償も来る」


 俺は、息を整える。


「……上等だ」


 ◆


 ミノタウロスが、突進。


 地面を蹴り、距離を詰める。


「――止まれ」


 命令。


 一瞬、巨体が硬直する。

 だが――完全ではない。


「効きが弱い……!」


「格が違う。ボスには“抵抗値”がある」


 斧が振り下ろされる。


 俺は、命令を重ねた。


「――斧、重くなれ」


 空気が歪み、

 斧の動きが鈍る。


 それでも――直撃。


「ぐっ……!」


【HP 41%】


コメント

【死ぬ死ぬ】

【ヒーラーいないぞ】


 血が、口に溢れる。


 視界が、赤く滲む。


「魔王……」


「……仕方あるまい」


 その声が、はっきりと“重く”なった。


「**権限を上げる**」


---


【魔王権限 一時解放】

出力:5%

※反動:精神汚染(軽度)


---


 頭の奥で、何かが――割れた。


 世界が、静止する。


「……あ?」


 音が消え、

 ミノタウロスの動きが止まって見える。


 俺の影が、床に異様に長く伸びた。


「これが……5%」


「そうだ」


 魔王の声が、少し近い。


「今のお前は――この階層の支配者だ」


 俺は、歩いた。


 止まった世界の中を。


 ミノタウロスの首元へ。


 そして――


「――跪け。**存在ごと**」


 次の瞬間。


 重力が、裏返った。


 ミノタウロスの巨体が、

 自分自身の魔力に押し潰される。


 骨が砕け、

 装甲が歪み、

 咆哮が――途切れた。


 ドンッ!!


 巨獣は、二度と動かなかった。


【中層ボス討伐】

討伐者:ユウト(ソロ)

ドロップ:

・魔王核片(???)

・S+ランク魔石

・未鑑定アーティファクト


コメント

【??????】

【配信事故】

【歴史に残る】

【登録した】


 視聴者数:12万人。


 だが――


「……っ」


 膝が、崩れ落ちる。


 視界の端が、黒く染まる。


「魔王……?」


「代償だ」


 魔王は、静かに言った。


「力を借りた以上、お前の“人間性”は少し削れた」


「……どれくらい?」


「まだ、戻れる」


 だが、と続ける。


「これを繰り返せば――

 **いずれ、お前は私に近づく**」


 俺は、荒い息のまま笑った。


「……それでも、勝った」


「そうだ」


 魔王も、笑う。


「世界は今、お前を見ている」


 ダンジョンの奥で、

 さらに深い扉が――軋み始めていた。

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