底辺ダンジョン配信者の俺、封印された魔王の力で最強になる

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1話 底辺配信者、魔王と出会う

 ――視聴者数、同時接続3人。


「……はいどうも。底辺ダンジョン配信者、ユウトです」


 誰も返さない挨拶を口にして、俺はスマホのカメラを胸元のホルダーに固定した。

 画面の隅で、心拍数と魔力残量が表示されている。魔力は相変わらずEランク以下。笑えない。


 時は2050年。

 パラレルワールドとの【接続】によって、地球――いや、**ガイア・ソフィア**は変わった。


 魔法。

 ダンジョン。

 魔物。


 それらはもうファンタジーじゃない。日常だ。


 ダンジョンハンターは子供たちの憧れの職業ランキング不動の一位。

 トップ配信者ともなれば、一本の潜行配信で俺の一年分を稼ぐ。


 そして俺は――その底辺。


 17歳。

 魔法適性なし。

 武術センス皆無。

 チャンネル登録者数、53人。


 今日も今日とて、命を張って小銭稼ぎだ。


「今日はイカルガダンジョンの第3層を軽く回ります。スライムとゴブリン中心なんで、安全第一で……」


 コメント欄に一つだけ流れる。


【無理すんなよ】


「ありがと。無理しないのが俺の売りだからな」


 自嘲気味に笑って、俺はダンジョンの奥へ進む。

 イカルガダンジョン――日本最大級。だが、深層はプロ専用。

 俺が潜るのは、観光地化すら始まっている浅層だ。


 ――そのはずだった。


「……ん?」


 壁際。

 マップアプリには表示されない、歪んだ石壁。


 近づくと、空気が冷たい。

 ダンジョン特有の魔力流が、そこだけ逆流している。


「隠し通路……?」


 喉が鳴る。

 視聴者数が4人に増えた。


【バグ?】

【行くの?】


「……行くわけないだろ。普通は」


 そう言いながら、俺の手は壁に触れていた。


 ――石が、沈んだ。


「え」


 低い音と共に、壁がスライドする。

 画面が揺れ、コメントが一気に流れる。


【うお】

【隠し部屋!?】

【やばくね】


 逃げるべきだ。

 理性は叫んでいる。


 でも、心臓は別のことを言っていた。


 ――チャンスだ。


 通路の先には、広間があった。

 黒曜石の床。

 崩れかけた柱。

 そして、中央の祭壇。


 そこに――鎖で縛られた存在がいた。


 角。

 黒い翼。

 赤い瞳。


 圧倒的な存在感に、膝が震える。


「……魔、王?」


 空気が、笑った。


「久しいな、人の子」


 低く、甘美で、絶望的な声。

 赤髪の女性だった。


「よくぞここまで辿り着いた。運命に選ばれし――」


「いや、違います。俺、底辺です」


 一瞬の沈黙。


 それから、魔王は――愉快そうに笑った。


「なるほど。だからこそ、だ」


 鎖が軋む。

 視聴者数が12人に跳ね上がる。


「力をやる」


 魔王の瞳が、俺を射抜く。


「全てを持たぬ者よ。――私と契約しろ」


 逃げ道はない。

 理性も、常識も、未来も。


 俺の人生は、ここで分岐した。


 スマホ越しに、世界が息を呑んでいる。


「……力をもらえば、俺は変われるのか」


「無論だ」


 魔王は囁く。


「底辺配信者よ。

 世界を、ひっくり返してみせろ」


 俺は、拳を握った。


「……契約する」


 その瞬間、祭壇が光を放ち、

 俺の配信は――伝説の始まりを映していた。



 ――世界が、裏返った。


「……っ!?」


 契約が成立した瞬間、俺の視界は真っ赤に染まった。

 痛みはない。だが、理解不能な情報が脳内へ流れ込んでくる。


 魔法式。

 呪文体系。

 魔物の生態。

 ダンジョン構造の癖。


 ――いや、違う。


 これは「知識」じゃない。

 支配権だ。


「落ち着け、我が契約者」


 魔王の声が、頭の内側から響く。


「慌てるな。力は暴走していない。

 ――ただ、世界の見え方が変わっただけだ」


 視界が元に戻る。


 その瞬間、俺は気づいた。


 ダンジョンが――透けて見える。


 壁の向こうの魔力の流れ。

 天井に潜む微弱なトラップ。

 そして、遠くで徘徊する魔物の危険。


「……なに、これ」


 画面のUIが勝手に書き換わっていく。


【ステータス更新】


名前:ユウト

種族:人間(契約者)

称号:魔王の代行者(仮)


魔力量:∞(封印中)

魔力制御:E → S


固有スキル

・《魔王視座》

・《魔力支配(初期)》

・《契約干渉》


「……は?」


 俺は思わず声を上げた。


【え?】

【表示おかしくね?】

【∞って出てるぞ】


 コメント欄がざわつく。


「バグだろ、これ……魔力量、無限って」


「無限ではない」


 魔王が訂正する。


「お前が使える量が、測定不能なだけだ」


 心臓が跳ねる。


「確認してみろ。“魔王視座”を意識しろ」


 言われるまま、俺は目を閉じた。


 ――そして、開く。


 世界が変わった。


 色が、情報になる。

 音が、意味を持つ。


 スライム一体が、赤い輪郭で縁取られた。


【個体名:スライム】

【脅威度:極低】

【魔力核:露出】

【最適処理方法:踏み潰す】


「……全部、見える」


「それが魔王視座だ。敵も、罠も、世界の“弱点”もな」


 俺は、手を伸ばした。


 意識しただけで、空気が震える。


「次は《魔力支配》だ。魔法を“唱えるな”。**命令しろ**」


 俺は、目の前のスライムを見る。


「――止まれ」


 次の瞬間。


 スライムが、**凍りついた**。


 氷魔法でも、時間停止でもない。

 ただ、魔力の流れが完全に遮断されている。


【なにこれ】

【詠唱なし!?】

【運営BAN案件】


「……俺、今……」


「魔法を使ったのではない」


 魔王は、楽しそうに言った。


「**魔力に従わせただけだ**」


 俺は、震える指で拳を握る。


「じゃあ……攻撃は?」


「好きにしろ」


 俺は、スライムに向かって言った。


「――砕けろ」


 パンッ、という乾いた音。


 スライムは核ごと粉砕され、魔石だけが床に転がった。


 レア度表示:S。


【うわああああ】

【初見でS魔石!?】

【登録した】


 視聴者数が、100人を超える。


 俺は、息を呑んだ。


「……これが、魔王の力」


「違う」


 魔王の声が、低くなる。


「それは、序章だ」


「お前が本当に使えるのは――」


 視界の端に、警告が表示される。


【警告】

魔王権限:1%解放

世界干渉レベル:低

監視対象:上位ハンター協会/運営AI


「……監視?」


「力は、必ず狙われる」


 魔王は囁く。


「だが安心しろ。

 ――**見せ方**さえ間違えなければな」


 俺は、スマホカメラを見る。


 震える声で、言った。


「……次の配信、バズるよな?」


「当然だ、我が契約者」


 魔王は、笑った。


「お前はもう――底辺ではない」


 こうして俺は、

 魔王の力を“確認”した。


 そして同時に、世界に目をつけられた。

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