第5話:魔術師代行
「ええから行ってこい!」
「わかったよ...」
優牙は渋々といった表情で朝食の載せられたお盆を持って客間へと向かう。
どうしてこうなったのか、状況を整理しよう。
俺は昨日、部屋の掃除をしていたら突然近所の割烹自然公園の森林部にいた。
そこでは大猿の化け物と銀髪の美少女――
八掛愛が大猿の化け物に襲われていた。
俺たちは大猿を何とか倒した。
問題はそのあとだ。
そのあと、八掛は倒れてしまった。
八掛の身分証を見たところ住所は現在地からかなり離れていた。
だから一度自分の家に連れてきたんだが...
「なんだ優牙!寿司はしっかり受けとってか...」
絶句。
まさに絶句。
俺が八掛を抱えて帰ったとき運悪く爺ちゃんに見つかった。
「あー、いや、爺ちゃんこれはそういうのじゃなくって...」
俺はしどろもどろになりながらもなんとか説明しようとしたんだが...
「あ、ああ!大丈夫!爺ちゃんにはなんも言わんくていいぞ!」
なぜか張り切って、それ以上何も聞かなかった。
色々不味い気はするが、いったんこれで妥協するしかない。
今は爺ちゃんのことよりも彼女に
――八掛愛に聞きたいことが多すぎる。
俺はそのまま客間の扉をガチャリと開くとそこには下着姿の八掛が居た。
「――へ?」
俺か、八掛か、はたまた両方からか、間の抜けた声が部屋に現れた。
次に動いたのは――
「――――っ!」
八掛の方だ。
彼女は客間の枕を勢いよく投げてきた。
俺は枕を受け止め、すぐに部屋を出た。
「やっべぇ...」
床に崩れ落ちながら優牙は噛み締めるようにうなだれる。
やべぇよ、いろいろ聞きたいことあったけどアレ、やべぇ。
全部吹き飛んじゃったよ。
忘れた方がいいかな...忘れたくないな...けどなあ...
優牙が悶々と考え悶えていると後頭部から強い衝撃が伝わる。
「いてっ!」
「ご、ごめんなさい」
「あー、そうだ、色々聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「...うん」
愛は小さく頷き、優牙はそれに応えるように小さく会釈しながら客間へ入っていった。
★
「あー、その、聞いてもいい?」
優牙は頭をポリポリと掻きながら申し訳なさそうに愛に話しかける。
「うん、いいよ」
対して愛は落ち着きを取り戻したのか、淡々と返事をする。
「俺はなんであそこにいたんだ?あの化け物は一体何なんだ?八掛、お前は一体何者なんだ?」
他にも上げればキリはないだろう、けど今一番知りたいのはこの三つだ。
他のことは追々知っていけばいいだろう。
「大体予想がついていた質問ね、いいわ一つづつ答えてあげる。あの化け物は魔物、異世界からこの世界に侵略をしている災害よ」
「――災害」
確かにアイツは、あの大猿は災害といって間違いないだろう。
「その災害を狩るのが私たち魔術師よ、ここまで言ったらなんであなたがあそこにいたのかは察しが付くわね?」
八掛は不敵に笑いながら俺に問いかける。
さすがの俺でもここまで言われたらわかる、つまりは――
「俺は八掛の魔術ってやつで呼ばれたってことか?」
「... ...」
八掛はこの言葉を聞いた瞬間黙る。
「え?違う?」
「え、ええ!そうよ、私が浅影君を喚んだの!」
まるで自分に言い聞かせるように言っているのは気になるが、今は一旦無視しよう。
それはそれとして一つの疑問が出てくる。
「なんで俺が呼ばれたんだ?」
「そ、それは」
八掛の目が泳ぎ、沈黙が訪れた。
俺は何か言いずらいことを聞いてしまったのだろうか。
とりあえず今はこの沈黙をどうにかしよう。こういう時は好きな食べ物の話題でも出そう。
「えっとね...」「そういえば」
俺が好きな食べ物について聞こうと口を開いたとき、タイミング悪く八掛も同時に口を開いてしまった。
俺は急いで口を閉じる。対して八掛はまだ目を泳がしている。
「えっと、浅影君が喚んだ理由なんだけど、多分私と波長が合ったとか、そんな理由なんだと思う」
「そっか」
正直な感想としては嘘っぽいと思ってしまう。
何か隠し事をしている。そういった声色だ。
今それについて聞いても答えてくれるとは限らない。
聞いて答えてくれる程度の隠し事なら隠す必要がないだろう。
「ま、魔術師ってのは大変そうだな。俺に何か手伝えることがあるならできる限り手伝うよ」
その言葉が余程意外だったのか、八掛は目を見開いて俺の方を見る。
魔術師関連の質問をして、初めて目が合ったかもしれない。
「そっか、その手があったんだ」
愛は左手で口を覆いながらブツブツと呟く。
八掛が何かを言っているが、何を言っているのか聞き取れない。
だけど、悩みが無くなったように晴れ晴れとした表情を浮かべている。
何を考えているのかはわからないけど悩みが無くなったのであればよかった。
「浅影君、悪いんだけどしばらく私と一緒に魔物を狩ってくれない?」
「ああ、もちろ――」
なんつった?
魔物を狩る?八掛と一緒に?なぜ?
可能な限り手伝うとは言ったが、さすがにこれは予想外。
どう返事をしようか考えていると、八掛がポツポツ話を続ける。
「私が浅影君を喚んだ影響で、私と浅影との間に見えない魔力のつながりができちゃったみたいなの」
「それってあると不味いのか?」
「ええ、私の魔力が半永久的に浅影君の方に吸収され続けるの。その影響で私は暫らくの間魔力が殆ど使えない。だから浅影君に手伝ってほしいの」
真剣な眼差しで俺の方を見てくる。
色々聞きたいことはあるけど、ここまで言われて手伝わないなんて言う人間は居ない。
「わかった、いくらでも手伝うよ。俺は何をすればいい?」
「そうね、それじゃあ早速行きましょうか」
「行くって?」
「決まってるでしょ?魔物狩りよ」
八掛はおはじきを俺に見せつけてきた。
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