第1話:歯磨き粉


「ふぁぁ〜」


 浅影 優牙あさかげ ゆうがは首を鳴らしながら、眠い目を擦りゆっくりとベッドから出る。


 時間を確認すると朝の六時十八分、まあ普段と大体同じ時間に起きたようだ。


「今日で学校も終わりか…今日ぐらい休んでもいいんじゃね?」


 そんな馬鹿な考えが頭に過ぎる。自分で馬鹿だと思えるだけまだマシだろう。

 とりあえず眠気を覚ますため眠いのを我慢しながら、洗面所へ向かった。


 優牙は洗面所で顔を洗い、歯を磨こうと、歯磨き粉に手を伸ばす。


「あ、歯磨き粉無くなっちまった」


 学校帰りにでも買っとくかと考えながら、鏡を見る。


「相変わらず、あんまいい顔じゃないな」


 鏡を見ながら自分の髪を弄り、自分の顔つきの嫌な部分を見る。

 赤みがかった髪に年不相応に丸っこい青色の瞳。あとは、顔と言われれば微妙かもしれないが、普通の人よりも鋭く尖った犬歯。

 他にも上げればキリがない。

 コンプレックスとまではいかないにしろ、周りの評価がどうしても気になってきてしまう。


「なんか嫌になんな」


 良くいえば日本人離れした顔、悪く言えば日本人っぽくない顔と言えるのだろう。


「ま、悩んでも仕方ないな」


 深く悩んだところで自分の足りない頭じゃどうしようもないことはわかりきってる。

 何か妙案が浮かんだところで今日の夜になったら忘れてしまう、そんなもんなんだろうな。


 優牙は頭を切り替え、リビングに向かう。


 既にリビングには明かりが点いる。

 多分爺ちゃんがリビングで寛いでんだろうな。


 適当な予想を建てながら、優牙はドアノブを捻り、リビングに入る。


「おぉ。起きたか、優牙」


 リビングに入ると優牙の祖父、浅影 龍三あさかげ りゅうぞうが珈琲を飲みながらニュースをつまらなそうに見ていた。


「おはよ、爺ちゃん」


 普段通りの返事をしながら二人分の食事の用意を始める。


「今日は終業式だったよな。優牙、夏休みはどうする?」


 爺ちゃんから夏休みの予定を聞かれて真っ先に思い浮かんだのは、中学からの仲良しグループのメンツと遊ぶことだが、メンバーの殆どが何かしらの予定があった記憶がある。

 まあ偶には爺ちゃんとの予定でも作るか


「うーん。俺、別に特には無いかな」


 爺ちゃんが大きくため息を吐きながら大袈裟にやれやれと言った顔をしてる。


「んだよ、別にいいじゃん」


「優牙、人生で高校生活は一度きりなんだぜ?しっかり友達とか部活の仲間と一緒に青春に打ち込むのが学生の本分ってモンだろ!」


「はいはい、ソダネー」


 わざわざ孫が気を使って何かしらの予定を作ろうとしたのに、絶対にもう予定は作ってやらねえ。

 そんな下らない雑談を続けながら、完成した食事をテーブルに並べる。


「そんじゃ、食べるか」


 龍三は、訝しんだ表情を作り軽くため息を吐く。


「まあ、今はそれでいいか」


 優牙と龍三は互いにテーブルに着き、朝食を食べる。


 今日のメニューは半熟とろとろ目玉焼きにカリカリベーコン、そしてベーコンの油で焼いた食パンだ。

 爺ちゃんは塩コショウを食パンに、対して俺はベーコンにメープルシロップを掛けてる。

 初めてやった時は、爺ちゃんも驚愕していたが、今ではすっかり日常だ。


「そうだ、ワシ今日はちょいと野暮用で帰りが遅いぞ」


 最近、爺ちゃんは近所のカラオケ同好会とやらに参加したらしい。

 そのお陰か爺ちゃんは前よりも楽しそうに日々を過ごしている。


「うーい、飯はどうする?」


「適当に頼んどいてくれ、寿司がいいの!お!す!し!」


「ご馳走様でした」


 爺ちゃんの言っている事はとりあえず検討するとして、食器を片付ける。

 未だにリビングから騒がしく「お!す!し!」と聞こえてくるが無視する。


「いってきまーす」


 爺ちゃんの「お!す!し!」コールを無視しながら靴を履き、学校へと向かった。

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