第4話 クレア・フィールデン
本当にあの女が嫌いで仕方ない。
しかもその嫌いなルル・モチネオカに……完全敗北してしまった。
学園の入学以来、ずっとわたくしの目の上のたん瘤だった。わたくしより目立ち。学年の代表として振舞い続けるルル・モチネオカ。その事実が許せない。
こんな屈辱は初めてだった。
フィールデン領地の実家では、わたくしより優先される人物なんて一人としていなかったのにも関わらず、この学園ではルル・モチネオカが常にわたくしよりも優先されている。そんなことがあって良い訳がない。わたくしはこの世界で誰よりも尊い存在のはずなのに。
モチネオカ家は確かに王国を代表する大貴族。しかし、それもいずれ我がフィールデン家に追い抜かれるだけの、そう、いわば踏み台のような一家でしかない。
なにせ、我が家はこの国を支える根幹技術を有している。『魔法の才能を引き出す技術』。似たことをしている家もあるのだが、我が家程の優れたノウハウを有している家はない。
魔法は持って生まれた才能だけでは開花しない。目覚めさせるための初めの一押しが必要になる。我が家で魔法の才能を目覚めさせる場合、一人当たり数千万ベルの高額手数料が必要となり、大物貴族が利用する特別コースなんかは何十億を超える手数料が発生する。王族ですら、我が家で魔法の才能を目覚めさせるのが慣例となりつつある。
この世界を魔法が支えている限り、我が家の発展は止まらない。王国に、いや、大陸にフィールデン家あり!
そのはずだったのに……。
エリザベス・カッパって誰よ!?
魔法のハードルを下げ、誰にでも使えるように知識を広めた謎の人物。突如として名前だけ表の世界に現れた天才エリザベス・カッパ。
いや、天才じゃないわね。世紀の愚か者よ! 我が家の大事な収入源である魔法の才能を目覚めさせるノウハウが全て台無しである。冒頭に書かれていた文章が特に気に入らない。『誰にでも魔法が使える時代』ですって!? あり得ない。魔法を庶民が使うだなんて、そんなことは許されないのよ。
魔法は我ら高貴な貴族の血を有する者だけが使えるのが本来の在り方。汚らわしい庶民になんて、本来は一人として使わせるべきじゃない。
あの人物が書いた『魔法に関する本』が発売されて以来、我がフィールデン家の利益は激減し続け、たったの数年で王都に所持していた資産の大半を手放した。そうでもしなければ、我が家の出費に耐え切れなかったのだ。今更生活レベルなんて落とせない。我がフィールデン家の名誉のためにも!
手軽に魔法の才能が目覚めるようになり、魔法使いが劇的に数を増やした。既に希少性が失われつつある。有能な魔法使いを抱えている我が家の権威も失われつつあった。
なんでこうも悪いことが続くのか。我がフィールデン家にはこれまでにない試練が訪れている。
実家は、死に物狂いでエリザベス・カッパの捜索を続けている。見つけ次第我が家のために彼女にはこの世から、そして歴史から消えて貰う予定である。
本もいずれ王家に働きかけ、禁書にして貰えば良い。世の中のことは大抵お金で片がつくものよ。出版物の差し止めなんて容易なこと。歴史上なんども起きて来たことよ。そちらはお父様に任せてあるので、大丈夫だろうと思う。お父様に失敗はない。
やはりわたくしは自分の問題に集中すればよいだけ。あの目の上のたん瘤を処理していればね。
ルル・モチネオカは学園最大の派閥を築き上げていた。わたくしがどれだけ声をかけて回っても、なぜか彼女の派閥の大きさを超えられない。最近我が家が傾きかけていることを察してなかなか派閥が大きくならないのだ。一方でモチネオカ家の名声は高まるばかり。本当に憎たらしい。
ならばと、彼女の派閥を削りに行こうと考えた。
ルル・モチネオカは怠慢な人物だ。自分から派閥を大きくしようともしないし、派閥を利用して何かしようともしない。あれだけのものを持ちながら、本当に愚かな女。
何もしないのであれば、その隙をつくまでである。
作戦とターゲットを決める。彼女の派閥に所属するセレナ・レヴィナスを虐めてやることにした。軽い無視から始まり、教科書を隠したり、靴を隠したりと次々に虐めをエスカレートさせる。私の派閥は全部で50名を超える。彼女たち全員で取り掛かれば、一人の心を蝕むのは容易。セレナさんはすぐにわたくしの狙い通りに心を閉ざした。
ターゲットを彼女にしたのにはちゃんと理由がある。無作為ではない。レヴィナス家は田舎の貴族である。そんな土地で育ったためか、彼女はかなり素直な性格で引っ込み思案なところもある。純粋な悪意に深く傷つき、しかし助けを求めるようなことはしない。もってつけのターゲットね。
まんまとわたくしたちの攻撃は成功した。大成功と言った方がいいかしら。
もしも、これにルル・モチネオカが反応しなかった場合、わたくしの狙いは大成功である。派閥の者が虐められているのに、ルル・モチネオカは何もしなかった。既に、そう言い広める段取りまで取ってある。ストーリーは出来上がっているのよ。
私は勝ちを確信していた。
なのに……。
突如、ルル・モチネオカから呼び出しがあった。
派閥の者を全員連れて、約束の時間に指定の場所に来るようにと伝えられる。
全員を集めて何をするのか?
てっきり直接セレナさんのことを辞めるように言及してくるものかと思っていたが、なぜ派閥の者を集める?
彼女の意図が分からないまま、時間が過ぎる。しかし、彼女が動いてから周りも連動するように事態は急激に動き出す。
どこで聞きつけたのか、わたくしに近づいて来る教師陣たち。フィールデン家から賄賂を受け取った教師たちである。彼らは事あるごとにわたくしに味方してくれるのだが、今回はわたくしの足を引っ張るようなことをする。
「勝ち目がないからやめて起きなさい」
「ルル・モチネオカの挑発に乗ってはいけない」
「いけば、どんな目に遭うかわからない」
と全員が弱気な発言である。
初めこそ強く反発した。あんな女に何ができるのよ! と。
けれど、相次ぐ衝突を避ける助言に、次第に私も弱気になって行った。ルル・モチネオカは……もしやわたくしが想像していたよりもずっと大物の可能性があるというの?
その可能性を否定したいにも関わらず、わたくしの状況はどんどん悪くなる。衝突の噂が流れ始めてから、派閥を抜けたいと申し出る者たちまで出始めた。抜けなくても、ルル・モチネオカの呼び出しには出て行きたくないと言う者もいる。全員が既に怯え切って、戦意喪失していた。
けれど、喧嘩を売っていたわたくしが逃げるわけにはいかない。
本当は既に行きたくなかったけれど、わたくしは渋々決戦の場に臨んだ。
その日、ルル・モチネオカの優雅な表情を見た時、わたくしは負けを悟った。
まだ何も始まっていないのに、彼女の姿を見た時に、悟ったのだ。
ああ、これは格が違うと。わたくしはここに来るべきではなかったと。
そして、始まった公開処刑。
それは一方的なものだった。彼女は学園の権力側にいて、私はただ手のひらの上で踊っていたに過ぎなかった。派閥の皆を集めたのは、完全決着をつけるためだ。自分に逆らうとどうなるのかを見せつけるため。わたくしはそのための駒でしかなかった。対等に争っていると勘違いしていたのだ。
チラつかされた退学処分。セレナさんの件も当然把握しており、謝罪と弁償を要求される。今後このようなことは許さないと全員に釘を刺した。学園は完全に彼女に掌握されてしまった。
わたくしは怖くて、怖くて、ただ彼女の要求に頷くしかできなかった。
こうして、学園で初めて怒った巨大派閥同士の衝突は、わたくしの完全敗北で幕を閉じたのだった。
……この屈辱を忘れない。
エリザベス・カッパをこの世から消した後、我が家はまた成り上がる。絶対に。権力も金も全て取り戻し、モチネオカ家を追い越す。そしていずれ、この屈辱を晴らすつもりだ。
許さない。ルル・モチネオカ。あなたとエリザベス・カッパだけは許さない。人生を通して、あなたたち二人を絶対に地獄に叩き落してあげる。
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悪女は豊かな異世界を謳歌する~裏で善行を積み重ねますのでどうかご容赦を~ スパ郎 @syokumotuseni
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