神と呼ばれた化け物
ゆう
神と呼ばれた化け物
龍は命を生み出せる。
そのため私は、一つの命を尊ぶといった感覚を理解できなかった。
私は気紛れにさまざまな命を『創造』した。
はじめに
その『創造』に意味はなかった。彼らに名を与えたのも、単に区別のために過ぎない。
所詮は私の『創作物』に過ぎない彼等の命に、私は関心など無かったのだから。
ある日私は、ミゼルが自身の力を使って山の動物達の傷を癒しているところを目撃した。
どうやら私の創作物達は、我が龍の力の一部を受け継ぐらしい。ミゼルは命の創造とまでは行かずとも、自身の膨大な生命力を他者に分け与えることで自然治癒の活性化を促す、謂わば癒しの力を扱えた。
そうして他者のために献身するミゼルのその様子を目の当たりにし、私は初めて命というものに興味を持った。
ある日、私はミゼルに尋ねた。
なぜお前が他者の命の維持に献身する必要があるのか。お前に利など無いし、命など失われてからまた『創れ』ば良いではないか、と。
その問いに、聡明な
命を自由に創造できると言えど、それを理由に失われてよい命など何処にもありません。そこにある命は全て貴いもの。自身の力でそれを守れるのであれば、
次の日、私の棲み拠に一つの『命』がやってきた。
普段は気にも留めぬような小さな存在であったが、命に興味を持った私は初めて、自身の『創作物』ではない存在と会話をすることにした。
その命は、自身の存在を人間と言った。
その人間……少年は声だけの私を山の神様と呼ぶ。
貧しい少年は借金を抱え、母親の病気も治療できずせめてと体力のつく野菜やキノコを採って振舞っているが、おそらく長くは持たないだろうと涙を流していた。
彼もまた、
人間もまた、ミゼルと同じ。
私の考えの及ばぬ聡明な種族なのだと、その時私は理解した。
私にはまだ、その価値観が理解できない。
母親の命など、失われてからまた創り出せば良いではないか。
だがミゼルや彼の言葉で、私の心境は変わりつつあった。
私は彼の前に顕現すると、ひとつの提案をした。ここへ母親を連れてくれば、病気の治療を約束しよう、と。命の創造で無くとも、病の治療にはミゼルがいる。
私の姿を認めた少年は一瞬だけ驚いた表情を浮かべていたが、やがて再び私の前で涙を見せた。
私にはその感情がよく分からない。
少年は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも笑顔を作り、私に告げた。
明日、母親を連れてここへ来ますと。
しかし翌日になっても、ついに少年が現れることは無かった。
様子を探らせたアヴェリムからの報告を受け、私はミゼルと共に初めて人間の町へ下りた。
そこにあったのは、昨日まで声を震わせていた、少年だったものの『容れ物』。
少年と母親は、彼らの集落の出口付近で、同じ群れの人間達の手により殺されていた。
理由は分からない。
私はそれに興味など無かった。
私にあったのは、命とは何なのかというただひとつの問いのみ。
少年との出会いで分かりかけていた、命と言うものの価値がもはや分からなくなっていた。
私が理解しようとしていた価値観を、『その価値観を持つ筈の人間自身』が否定したのだから。
ミゼルも私の隣でこの光景を目の当たりにし、人間を心底嫌悪しているように見えた。
次第に私達の存在に気が付いた人間が騒ぎ始める。
化け物だ。血の臭いを嗅ぎ付けて山を下り、俺たちを食いに来たんだ、と。
人間から見ると、きっと私やミゼルは『化け物』に映るのだろう。
異形の存在を化け物として排斥する。これは種の存続のためであれば正しい判断であり、当然の振る舞いだろう。しかし一方で同胞の命すらみだりに奪うこの人間と言う種族は、
それで本当に命を尊ぶ種族と言えるのか。
町の人間達が刃物を手に向かってくる。
心底私は、彼等に幻滅していた。
彼等をミゼルと同じ、聡明な種族だと思っていたのだから。
最早これらの命などどうでもよい。
殺してしまおう。
そんな私の心中を察してか、ミゼルが私を制止してくる。お止めください、と。
お前も先程まで人間を嫌悪していただろうに。
人間よ。これが本来の『命を尊ぶ』行為なのではないか?
私はミゼルの制止を容易く振り払うと、刃向かう愚かな命を次々に摘み取っていった。
◆ ◆ ◆
一瞬の静寂の後、辺りは混沌を極めた。
響き渡る悲鳴。一瞬で消し飛んだ同胞達の命に、元々戦う術を持っていなかった人間達は我先にと逃げ出して行く。
その姿に、かつて私の思い描いていた聡明な人間像は何処にもなかった。
私としても、刃向かわぬ人間などどうでもよい。後を追うことはなかった。
ミゼルは何も言わず、ただ悲痛な表情を浮かべてその場に立ち尽くすのみ。
一時の感情に委ねて多くの人間の命を摘み取った私などよりも、創作物の彼女の方が余程冷静で、聡明な存在であると私は自虐した。
このまま棲拠へ帰ってもよかった。
眼下へ目を向けると、そこにはかつての少年と、その母親だったものの抜け殻。惨たらしい姿で紅い体液を撒き散らし、母に覆い被さるようにしながら息絶えている少年の骸。
人間から見ると私は化け物らしい。今まで私を山の神様と慕ってくれた彼の目にも、本当は化け物として映っていたのだろうか。
この少年の真意などどうでもよい。例えそれが偽りの
私は少年とその母親の命を『創造』すると、その場を後にした。
龍は膨大な生命力を持つ。
命の創造とは、こうした龍の生命力の一部を分け与えて新たな生命とする行為。
私に命を創られた時点で、この少年や母親の存在は既に人間ではない。
ミゼルやアヴェリム達と等しい存在、『
私に命を創られるということ。
それはかつて人間であった彼にとって救いだったのか、それとも呪いだったのか。
私には、まだ分からない。
神と呼ばれた化け物 ゆう @el_inoa
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