第32話 ネコ型

「はぁっ…はぁっ…なんでこんなことに!!」

私達は今、森の中を全力疾走している。大きなロボットが背後から迫ってきている。それもこれも総隊長があんなこと言い出したせいだ…!

〈君達〜、大人しく投降しなさーい〉

(くっそ…あの腹黒イケメンめ…!!)

「ハル!どうするの!?」

「どうするったって……ねぇ?」

「こんなことならあいつに賛同なんかしなければ良かったわ…!!」

――――――――――――――――――――

『そのことについても説明しなきゃね。実は…今回のターゲットのMOMはS級の猫型なんだけど、どうやら自分の子供を探しているみたいでね。同じ猫型のMOMがピンチになっていると、お母さんって呼んだら助けてあげるって声をかけるらしいんだ。その後はどうなるかわからないけど、頑張ってね』

『なっ……無責任にも程がありません?普通わかってから潜入するものじゃないですか』

『だって僕はいかないし。それに……わかってからじゃ遅いんだよ』

『え?』

『まぁ、とにかくそういうことで。3日ぐらい経ったら朝木達と基地に突入するから、それまで耐えてね。そこで上手く捕えられたフリしてついてきて』

『『わかりました』』

『あ、どんな感じでピンチになるかは僕が勝手に決めちゃっていい?』

『いいですよ』

『りょーかい!じゃ、おやすみ〜』

――――――――――――――――――――

ータッタッタッタッー

「はぁ…はぁ…一体いつまで走ればいいのよ!?」

「え?い、行き止まり……?」

目の前には崖が高くそびえ立っている。後ろにはロボット、横には川と斜面・・まさに絶対絶命だ。

「どうすんのよ…あいつ、マジで踏み潰す気よ!?」

「私に聞かれても困る……」

〈諦めて投降すれば許してあげますよ〜?〉

(嘘つけ…!!)

〈……投降する気は無さそうですね〜。じゃあ、ちょっと痛い目みてもらいますよ〉

「「キャァァァア!!」」

ーガァンー

「……へ?」

頭に直撃する寸前で、ロボットの足が止まっている。それを片手で支えながら見下ろす金色の瞳。銀色の猫耳としっぽが、彼女がMOMだということを示している。

「お母さんって呼んだら、助けてあげる♡」

(おでましか…!)

事前に説明されていた特徴が全て一致しているのをみても、このネコ型が今回のターゲットと見て間違いないだろう。志保と目を見合わせ、コクリと頷き合う。

「「お母さん!」」

「ふふっ、助けてあげる♡」

〈…いつまでも無視されてると傷つくんだけど〜?そろそろ話をつけてもらわないと〉

「あら、聞こえなかったの〜?もう話は終わったわぁ。私も暇じゃないから、さっさとくたばってね〜」

〈ふっ…!その余裕がいつまで続くかな!〉

(総隊長あんた…完全に悪役じゃん)

ハマり役過ぎて笑いを堪えるのに苦労する。志保も抑えきれずクスクスと声が漏れて─。

ードォォォォオオンー

爆発音に驚いて顔を上げると…粉々になったロボットの破片が散乱していた。

「さ、お家に帰りましょう?」

「「は、はい…!」」

(恐ろしい……ていうか総隊長は!?大丈夫なのかな…まぁそう簡単に死なないか。総隊長だし)

「も〜!お母さんなんだから敬語は使っちゃダメよぉ」

「あ、ごめんなさ─」

「じゃなくて、ごめん!」

志保がまた敬語を使おうとしたから遮るように謝る。この人の機嫌を損ねれば…どうなるかわからない。

(ん?そういえばこの声…どこかで聞いたことがあるような…気のせいか)

「よくできましたぁ!さ、行きましょう」

――――――――――――――――――――

少し歩くと、大きな門の前に出た。奥には庭園とお屋敷があり、一見するとお嬢様でも住んでいそうなただの豪邸だが…住んでいるのは人間ではない。

「ねぇ、あなた達ってもしかして双子?」

「いいえ…いや、ううん!違うよ」

「そう、ならよかったわぁ。双子だったら"あの子"じゃないものねぇ…」

(ふぅ……なんとか乗り切った)

ネコ型が言っているあの子とは、探している子供のことである。行きの列車の中で総隊長が"あの子"になりきれば生き延びられると言っていたが…情報が少なすぎる。

─ガチャッ─

「皆んなただいま〜!帰ったわよぉ♡」

「「「「おっ、おかえりなさい!」」」」

大きな扉をくぐると、4人の幼いMOMが出迎えた。なるほど、自分の子供を探しているという話はどうやら本当らしい。

「ただいま♡あ、皆んなに大事なお知らせがあるの〜。他の子達も集めてきてもらえるかしら?」

「は、はい!ただいま!」

と、そう言って走り出そうとしたヒツジ型のMOMの腕をネコ型がガシッと掴んだ。その目は……鋭い。

「あらぁ?あなた、敬語はダメよって何回も注意したわよねぇ」

「ごっ、ごめんなさい!」

「言ってるそばから…直す気がないのかしらぁ?」

「そ、そんなことは」

「今ので2段降格ね…あら?もう処分のゾーンに入っちゃったわ〜!」

「え……」

全く話についていけずただただ成り行きを見守る志保と私に、隣にいたクマ型が話しかけてきた。

「君達、ここにきたばかりで色々わからないでしょ?教えてあげる。僕はマヤ。よろしくね」

「え?あ、よろしくお願いします!」

「…極力敬語は使わないほうがいいよ。あの人の前でうっかり使っちゃうかもしれないし」

クマ型は深刻そうな面持ちでそう言うと、一呼吸おいてまた話出そうとした─その時。

「いやぁぁぁあ!!やだぁ!やだよぉぉお!!」

「「!?」」

「…始まったね。君達も見ておいたほうがいいよ。ここであの人に逆らったらどうなるか」

「え…?あの、それってどういう─」

それ以上聞き出そうとしても、私達には目もくれなくなってしまった。

「と、とりあえず見た方がいいかもね…?」

「そうね。ここで生き延びるためには、ここでのルールも勉強しないと…」

そうだね、と頷き返したのと同時に、何か金属質な物を引きずるような、耳障りな音がして顔をあげた。するとそこには、斧を振りかざそうとするネコ型と、腰が抜けて立てなくなったヒツジ型が目についた。

「あの子は…あの子なら、一度失敗したことは繰り返さないわ。とぉ〜っても賢い子だからねぇ。でもあなたは違う……あの子じゃないわぁ」

─ザシュッ─

「いやっ…!いやぁ!!痛いよぉ!!」

「うるさいわねぇ、早く処分しないと。やぁねぇ私ったら、あの子とこんなゴミとの区別もつかないなんて。どうかしてたわぁ〜」

─ガスッ ドガッ─

(……なんで、こんなことができるの?)

絶望感に駆られるなか、ネコ型と目が合った。ニコッと笑った顔は、さっきまでは怒りが込み上げてきたのに、今は恐怖と狂気を感じた。もう、ここにいたくない。でも逃げられない。不安と恐怖が心中で渦巻く。と、ネコ型がこちらにツカツカと歩いてきた。

(な、なに…?今度はなに!?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヴィラン・クイーンズ 数多未 @Amatami-saikyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画