第31話 潜入ミッション

「君達に、敵地に潜入してほしいんだけど」

「「「!?」」」

どういうことだろう?ていうか朝木の言った通り入って間もない新人にやらせるような任務じゃないだろ…。

「とりあえず、会議が終わるまで待ってくれるかい?出口でセイラが待っていると思うから、待合室まで案内してもらってくれ。本当、迷惑をかけてすまないね」

男は私達に向かって頭を下げると、水の魚に何か喋りかけた。すると、魚は扉をすり抜けて部屋を出て行った。

「じゃ、頼んだよ。それで資源についての話だけど─」

また議長が話し出したのをみて、私達はそそくさと会議室を出た。すると、受付嬢のセイラが待っていた。

「お待ちしておりました!待合室へご案内します」

「何で会話の内容を知ってるんですか?」

唯兎がいぶかしげに聞くと、セイラは苦笑した。

「それは、この子が教えてくれたんですよ」

そういうとセイラの後ろから水の魚が現れた。

「・・万能なんですね」

「ふふっ。総隊長の力はすごいんですよ。といっても、総隊長の力は極秘事項の一つですから、私も実はよく知らないんですけどね」

(やっぱり力か。どんな力なんだろう…?)

そうなことを考えながら廊下を歩いていると、セイラが大きな扉の前で足を止めた。

「ここが待合室兼応接間です。ここにあるお菓子や漫画等は皆様のために用意されたものなので好きに使っていただいて構いません。では、ごゆっくり」

そう言ってセイラが扉をゆっくりと開ける。するとそこには…パラダイスが広がっていた。

「す、すごい……!!もうゲーム機なんて触れないと思ってたのに!」

「あっこれ読みたかった漫画じゃん!!」

「この大画面モニター……うちのテレビに匹敵するわ」

そうして私達は総隊長を待っていることすら忘れて遊びに遊んだ。思えば、これが特攻隊に来て初めて心から気を抜けた瞬間だったかもしれない。

─コンコン─

「すまない、待たせたね。うちの重鎮達はどうにも頭が堅くて時間が─」

「「「あっ…」」」

今、総隊長とやらの目には、壮絶な光景が広がっていることだろう。本棚から出しっぱなしの山積みの漫画に、つけっぱなしのゲーム機とテレビ、お菓子を貪るように食べる私達…。

「……後で片付けさせよう」

「す、すみません!」

「いや、いいんだ。僕は片付けないから」

そう言って総隊長はにこりと笑った。

(えぇ…)

流石にテレビやゲームをつけっぱなしにしておくと気が散ってしまうのでそれだけ片付けると、本題に入った。

「それで、さっきの話、覚えてるかい?」

「はい……」

忘れるはずがない、あんな話。ゆったりとソファに座る総隊長は優雅に見えるが、その眼光は鋭かった。

(本気…だろうな)

「あ、君は男だからダメ」

そう言って唯兎を指差した。すると扉を塞ぐようにして立っていたボディーガード?の男の人が唯兎を連れていってしまった。

「う、うわぁあ!?」

「唯兎!?あ、あの、唯兎をどこに…?」

「大丈夫、ここみたいな部屋はいくつかあるんだ。彼にはそこに移ってもらったよ」

「…聞かれたらまずいから、ですか?」

「察しがいいね。今から話すことは最重要機密事項だ。やつらに聞かれたら全て水の泡だからね」

やつらとはMOMのことだろう。確かにそうなれば返り討ちにされる可能性が高い。

「あの…なぜ私達なんでしょか?」

そう、私もずっと気になっていた。なぜこんな新人がそんな重要で危険な任務を…?

「うん、その考えは妥当だ。理由は顔が割れてるからだ。多分MOMの間でも共有されてるんじゃないかな。かと言って弱い者を送り込んでも使い物にならずに殺されるだろう。そこに君達の出番だ。重鎮達の間でも評判の君達なら、ボロ雑巾になって帰ってくることは…まぁ、可能性としては低いだろう」

(なるほど…ん?待てよ)

「あの…質問いいですか?」

「いいよ」

「なぜ、顔が割れているとわかったのでしょうか?」

その考えはわかったし、納得できる。だが、そもそもなぜ顔がバレているとわかったのか。実際に送り込まないことにはわからないはず……。

「それは、高い知能を持つMOMがいてね、やつが僕に言ったんだ。強者にしか興味はない。お前は強いから覚えておいてやろう、ってね」

高い知能を持つMOMは、私がこの間遭遇した喋るMOMのことだろうか?そんなどっかの漫画の悪役みたいなことを言うやつがいるのか…。

「あぁ、そういえば君は最近遭遇していたんだったね」

「…。はい。でも、総隊長さんが言ったやつとは全然違っていて…なんていうんですかね、人間への抑えきれない憎しみのようなものを感じて」

(あれは、人間を殺すのを楽しんでいるような…)

「ふむ…それは興味深いね。実を言うと、こんな偉そうにしているけどMOMの実態は僕も政府もよくわかっていないんだ。どのようにして生まれたのか、なぜ人間を襲うようになったのかもね。ただ一つわかっているのは、女型のMOMしか存在しないということだ。…まぁそういうわけで、新たな情報があったら逐一僕に教えて欲しい」

(あ、だから唯兎だけ連れて行かれたんだ…)

君は男だからダメとはそういう意味だったのか。だが、もし姿形を真似たとしても色々ボロが出そうだが……。カチューシャとかお風呂入る時絶対とれるしなぁ…。

「でも、女だからってこのまま潜入するわけにはいかないですよね?」

「あぁ、そのことについては心配いらないよ。MOMに変装できるポーションがあるからね。ちょっと君、持ってきてくれるかい?」

(ポーション…!?)

まるでRPGの世界みたいだ。ワクワクしているのは私だけではないようで、志保の瞳孔は大きく広がっている。

――――――――――――――――――――

「お持ちしました」

「うん、ご苦労さま」

(こ、これは…!!)

ものすごい色をしている。なんというか、表現するのが難しいが…とりあえず飲み物がしていていい色ではないことは確かだ。志保も生唾をゴクリと飲み込む。

「じゃ、飲んで」

「……本当に飲むんですか?」

「うん。時間がないから早くしてね」

「わ、わかったから急かさないでください…!」

(強引だな…多分文句言っても僕は飲まないからって言われるんだろうなぁ…)

志保も同じことを思ったらしく、諦めた顔でため息をついている。示し合わせるようにお互い顔を見合わせるとコクリと同時に頷いたのを合図に一気に飲んだ。

─ゴクッ ゴクッ─

瞬間、視界がホワイトアウトする。

身体の力がすっかり抜け落ちて、気づけば私は意識を失っていた。

――――――――――――――――――――

ここは…病室?横には本を片手に微笑む総隊長がいた。薬を飲んでからの記憶がない。

「目が覚めたみたいだね」

「…総隊長さん」

「さんはつけなくていいよ。それより…」

そういうのが早いか、鏡をばっと目の前に突き出す。

「!?いきなり何を……えぇぇぇぇえ!?」

鏡を見ると、猫型のMOMが映っていた。それが自分だと理解するのに10秒ほどかかった。尻尾と耳を自由自在に操れる。…どういう仕組みなんだろう。

「すまない。時間がないとはいえ、かなり強引になってしまった。まぁでも、よく似合っているよ」

「この姿で言われても嬉しくないわよ」

志保が怪訝そうな顔で言う。最近MOMに襲われ続けていたからだろうか…私も自分の姿を鏡で見た時、正直吐き気がした。

「君達の気持ちは十分わかる。本当に、申し訳ない。だが、こればっかりは猫型になってもらわないと意味がないんだ。どうか、耐えてくれ」

「なぜですか?」

「そのことについても説明しておかなきゃね。実は─」

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