第21話 課題(1)
ー1日目ー
その日、朝木は顔を見せなかった。だが、それに対してとやかく言う者はいなかった。そもそも誰も喋らなかった。皆んな、自分の課題に集中していた。私は朝木の言いつけ通り、ひたすらプールに潜っていた。
「はっ…はっ…はっ……もうダメだー!!」
まだ5分…さすがにキツい!これを、あと一週間で20分に!?絶対無理だ!
結局その日は何度潜っても、5分から記録が伸びることはなかった。
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ー5日目ー
課題を始めて5日経った。ずっと潜っているせいか徐々に記録は伸びていたが、10分から進展の兆しはない。
「…また10分。もー!!ぜんっぜん伸びない!!」
何度潜っても記録は伸びないし、寝ていないから疲れも取れず、イライラする日々が続いていた。このまま伸びなかったらどうしようという不安に駆られる。
「…他のみんなは、上手くいってるのかな」
これまでも、2人がどうしているか気になって何度か見に行ってみようかと思ったけど…集中している2人に悪い気がして結局やめた。でも、もう時間も余裕もない。少しでもヒントになればと藁にもすがる思いで、寮へと向かった。すると、かすかに音楽が聞こえてきた。どうやら唯兎の部屋から聞こえてくるようだ。カーテンの隙間から中を覗くと、唯兎はヘッドホンをしながら手から雷を出していた。音楽に合わせて雷撃を打っているようだが、サビの速い部分でミスをして巻き戻し…それを何度も繰り返している。やっぱり皆んな頑張ってるんだ…私も頑張らないと…。そう思い直し急いでプールに戻ろうとした時、ふと考えた。今まで何となく潜っていたけど、それが良くなかったんじゃないか。肺に集中して、運動の制御をすれば…!今の私なら、きっとできる!私の中で、何かピントが合ったような…そんな感覚になった。
―――――――――――――――――――――――
ー1週間後ー
「…そろったみてぇだな。準備はいいか?」
「「「はい!」」」
「その感じだと、上手くいったみたいだな。訓練の成果
見せてもらうぞ。まず、唯兎から」
「はい!」
「唯兎はサウザンドという音楽に合わせて雷撃を打つっ
ていう課題だったよな?」
…サウザンドは確か世界で一番テンポが速い曲だ。それに合わせてとなると、かなりのスピードになるだろう。
「よし、唯兎。準備はいいか?」
「はい!」
「いい返事だ。よーい…」
ーバチバチバチー
火花が唯兎の周りに咲く。…以前よりかなり量が増している。訓練の成果だろう。
「スタート!」
ータン タン タン タンー
「ここはまだゆっくりだね」
「サビがヤベェんだ、この曲は。まぁ見とけって」
―――――――――――――――――――――――
ーダダダダダダダダー
「み、見えない・・・!?」
あれから数分続いているが…そこには、目に焼きつくような強烈な光泉が広がっていた。雷鳴とともに光が宙を舞う。まるでマシンガンでも打っているかのような光景だ。
「唯兎のやつ、やる気なさそうに見えて実は結構努力家
なんだぜ?あの域には相当の努力をしなきゃ到達でき
ねぇからな」
「……」
そこからは皆んな無言で光を見ていた。
ーダーンー
「お、曲が終わったな。ミスもなかったし上々だ。頑張
ったな、唯兎」
そう言って唯兎の頭をわしゃわしゃ撫でる。唯兎は嫌がりながらも口元が緩んでいた。微笑ましい・・こう見ると、ちゃんと唯兎が年下に見える。私達は高校3年生だが、唯兎はまだ1年生だ。生意気だし、特攻隊では先輩だから時々忘れそうになる。
「すごいわね…私も負けてられないわ」
「おっ、じゃあ次雨宮いくか?」
「えぇ」
朝木が手を叩くと、人が出てきてタケノコの鉢を20個置いていった。…前々から思っていたが、この人達は一体誰なんだろう。
「志保、頑張って!」
「えぇ!」
「じゃ、1分測るぞ」
朝木がストップウォッチを取り出すと、志保が構える。
「よーい…スタート!」
ーカッ!ー
前回とは比べものにならない程の強い光が、辺りを飲み込む。
「…上出来だ」
ーピッー
朝木がストップウォッチを止めた。時間が来る前に止めたということは…成功したのだろう。
「もういいぞ」
朝木がそう言うと光がフッと消える。光が辺りに拡散し、段々目が見えるようになってくる。志保の方を見るとそこには…20本の竹がそびて立っていた。
「独学で全体変化に成功するとは…とんでもない化け物
だな」
「1分と言わずとも5秒で終わらせてやったわ!私が本
気を出せばこんなのチョチョイのチョイよ!」
そう言いつつも、眉間にシワがより、額に汗をかいている。かなりの負荷が掛かったのだろう。
「志保、大丈夫?」
「大丈夫よ。少し疲れちゃっただけ」
「よし、最後はハルだな」
「頑張って、ハル!」
「うん!」
「うーん、このまま全員クリアじゃ面白くねぇなぁ…じ
ゃあハル、ルール変更な。丸2日不眠不休で走り続け
ること。でもスピードが落ちてたら意味ねぇから…じ
ゃあ1300km以上走ってなかったらアウトな」
「はぁ!?んな無茶な…」
「わかった」
「え!?ちょっとハル…!」
「大丈夫だから。…見てて」
「…わかったわよ」
私が一度言い出すと引き下がらない性格だからか、それとも私が決めたことだからか、志保は諦めたように苦笑した。
「じゃあ、よーい…スタート!」
その合図とともに私は走った。自分でもびっくりするほど冷静になれていた。まずは肺に集中、その後熱を調整して…うん、大丈夫。練習通りやれば、きっと上手くいく…!
「…ハルすごく速いわ。肺活量を鍛えるとは言っていた
けど、速く走る練習もしてたのかしら…?」
「何言ってんだ。あいつはずっと潜ってたんだぞ?水中
ってのは体全体に負荷がかかるからな。一週間潜り続
けてりゃ筋肉もつくだろ」
「…いや、それだけじゃないような気もするわ」
「雨宮は深部体温って知ってるか?」
「知らないわ」
「深部体温が低いと、人は速く走ることができる。不思
議だよな。マラソン大会とかでも走る前に体を冷やす
ことが推奨されているが、ハルは直接冷やせるから、
最善の状態で走れるんだ」
「なるほどね…」
「ここからはドローンのカメラ越しで見るぞ。俺らもず
っと外で突っ立ってるわけにはいかねぇからな。室内
から見守ろう」
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