第11話 それぞれの記憶(1)

「え〜っと…俺らは206938か」

「何その数字?」

「これか?瞬間移動装置の番号だ。政府は約3000の

 移動装置を保有しているんだが、大勢の人間が1日に

 何回も使う。並ぶのは面倒だろ?だから整理券を配っ

 て、番号が呼ばれたら行くんだ。左から4桁は装置の

 番号、右から2桁は券の発行順を表している」

「ふ〜ん、結構ちゃんと考えられてるのね。で、いつ頃

 呼ばれるの?」

「すぐ呼ばれるだろ。なんたって〝瞬間”移動装置だか

 らな。一瞬で終わる」

「すごいわね…どんな仕組みなのかしら?」

お、久しぶりに見たな…この顔。志保はワクワクしている時瞳孔が大きく広がるという特性を持っている。特に役立つわけではないが、私はこの特性を気に入っている。志保はもともと童顔よりだからか、瞳孔が大きく広がると幼く見える。もともと持つ美貌と合わせると子犬級に可愛くなるのだ。この顔で何人の男が恋に落ちたか…。朝木は大丈夫だろうかと少し不安になる。恐る恐る朝木の顔を覗き込むと…すごいしかめっつらだった。

「……」

「…………」

「2人ともどうしたの?なんで黙ってるの…?」

私もなんで黙ってるかわからない。だが、右横からなにかものすごい圧を感じる。

「ね、それよりあっち行ってみましょうよ!あそこのあ

 れ何かしら?…あ!ロボットが働いてるわ!すごいわ

 ね…どういう構造なのかしら?」

一度こうなった志保はもう誰にも止められない。私はただ相槌を打つしかなかった。

「おい…その、なんだ。その顔やめろ」

ついに朝木が口を開いた。あんまり酷い言い方をすると後が面倒なのでやめてほしいのだが。

「え?その顔って?」

キョトンとした顔はさらに可愛さを増して子犬パワー全開だ。朝木があからさまに顔をしかめると志保は少し悲しそうな顔をした。

「…ごめんなさい。すっかりはしゃいじゃって、制御す

 るの忘れてたわ」

「そういえば志保、その顔最近しなくなったよね。自制

 してたんだ?」

「あなたにも言ってなかったわよね…私、この顔のせい

 で小学校の頃虐められてたの」

「え?」

そんなの初耳だ。志保が虐められてたなんて…考えたこともなかった。

「私も昔はこんなキツい性格じゃなかったの。でも、ま

 た虐められるのが怖くて…ぶりっ子って言われたくな

 くて…」

性格キツいって自覚あったんだ…。それも初耳。

「いつも強がってるけど、本当はキツい言い方なんてし

 たくないのよ…私だって」

「そう、だったのか…すまない」

「…いいのよ。朝木の反応が正しいわ」

「そんなことない!!」

「…は、ハル?」

「そんなこと絶対ない!人の容姿でそんなこと思うやつ

 なんて皆んなクズよ!!私は…志保が本当は友達思い

 だって知ってる!皆んなが知ろうとしないだけで、志

 保はすっごく優しいの、私は知ってるから!!」

「ハル…」

「わ、悪かったよ…ただ、俺にだって理由があるんだ。 

 俺もともと大の犬好きだったんだ。特に可愛い感じ

 の…ポメラニアンとかな。でもある日下校中に子犬と

 遊んでたら、尻尾をうっかり踏んじまって、指の肉を

 ごっそり食いちぎられたんだ。それからトラウマにな

 っちまって…」

「そ、そうだったんだ…」

皆んな色々あるんだなぁ…と謎に感心していると、番号が呼ばれた。二人は気づいていないようだ。

「ねぇ、呼ばれたよ?早く行こう」

「え、本当!?朝木、早く行きましょう!」

「うっ…い、行こうか」

朝木が顔をしかめているのに気づいていないのか、志保は目をキラキラさせたまま走っていってしまった。幸先不安だな…。

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