第1話 歯車の狂った日
ー21XX年 5月20日ー
「ハルちゃん、くじ引きの日って知ってる?」
「え?」
リュックから教科書を取り出していると、不意に声をかけられた。
振り向くと、女の子が立っていた。
最近転校してきた…え〜っと、由美香ちゃん…だっけ?
「もちろん知ってるけど…なんで?」
「え、だって今日はー」
その後も由美香ちゃんは何か言っていたようだが、私の耳には入らなかった。昔から私は、何かを考え出すと周りが見えなくなる。
何か気にかかる…妙な違和感。
何だろう、やけに教室が静かなような…視線も感じる。何か、クラス中が私達の会話に耳を傾けているような…気のせい、かな?
「あ、あのさ…」
私がクラスの皆んなに声をかけようとした時、由美香ちゃんがハッと何かに気づいたように口を抑えた。
「ご、ごめん!じゃあね!」
そう言うが早いか、由美香ちゃんは自分の席の方に走っていってしまった。
よく私は考え事をしている時顔が怖いと言われるが、そんなに怖かっただろうか。
ーガラガラガラー
志保が教室に入ってきた。
彼女は唯一、私が信頼している人だ。
志保の元へ駆け寄ろうと由美香ちゃんに背を向けると、皆の視線が由美香ちゃんに集まっていることに気づく。本人は気まずそうにうつむいているが…そんな変な会話してたか?
ま、いっか。志保のとこ行こう。
今日も取り巻きがウジャウジャいるが、私が来た途端逃げてしまった。
以前私が志保と対等に話しているのを見て文句を言う取り巻きに志保がむかついて、その子を転校にまで追いやったのがもう広まったのだろうか。
うん、まぁ流石にあれはやり過ぎだったと思う…。
なぜこんなに志保に取り巻きがいるのかというと、お父さんは内閣副大臣で、お母さんは王手衣類ブランド『kurara』の社長。お兄さんは東京で1番偏差値が高いと言われているT大学の医学部で将来有望。それに加えて本人も成績優秀容姿端麗、おまけにスポーツもできる。
つまり、この取り巻き達は志保の権力と金とスペックに群がっているしょーもないやつらだ。
「おはよ〜志保!」
…それにしても珍しいな。私が来るより遅く志保が登校してくるなんて。
いつもは私にもっと早く来いと言ってくるぐらいなのに…てかホームルーム始まるまであと2分しかないじゃん!ほんと、どうしたんだろ…?
「志保、どしたの?今日は馬鹿に遅いじゃん」
「……」
机に寄りかかって問う。
志保は顔も上げなければ返事もしない。かなり重症みたいだ。
何があったのかわからないが、こうなった志保はテコでも動かない。いつもの強制蘇生をさせてもらおう。
「いっつも私には遅い!ってキレてくるくせに、今日は志保も遅刻ギリギリじゃん。人のこと言う前に自分のことちゃんとしなよ〜?」
「…………」
おかしいな。いつもならこの辺で顔真っ赤にして言い返してくるのに…。
「…ねぇ、ホントどうしたの。志保がそんな顔してると調子狂っちゃうじゃん…」
「今は……それどころじゃないのよ」
重々しく口を開いた志保を見て、只事じゃないとわかった。長い付き合いだけど、こんな志保一度も見たことがない。
それに、それどころじゃないって…?
「…どういうこと?」
「実は朝ねー」
志保が何かを言いかけたその瞬間、教室の扉が開いた。
…そういえば、今日はなぜか誰も一言も話さない。こんな重い空気の教室初めてだ…。
先生がゆっくりとした口調で話し出した。
「今日はとても残念なお知らせがある。皆んな、今日が何の日かは知ってるよな?」
教室が静まり返る。
多分くじ引きのことを言っているのだろう。
でもこんな空気の中誰も喋る気になれないのか、返答はない。
いつもはこういう時志保が手を上げて話が進むけど…今朝のあの様子じゃ無理そうだな。
「あの…くじ引きの日、ですか?」
誰も答えないから痺れを切らしたのか、由美香ちゃんが答えた。
「そうだ。…このクラスから2人の候補者が出た」
さっきまで静まり返っていた教室が一気に騒めきだす。志保の方を見ると、うつむきがちで暗い表情だった。
志保は視線に気づいたのか私の方を見て、諭すように頷きかけた。
志保のその反応で、私は全てを察した。
「候補者の名前は言わない。皆んなはそんなことするような奴じゃ無いと思うが、それを面白がって候補者を脅した奴がいてな。脅された候補者の子は自殺してしまったんだ。このことについては今後一切触れないように。いいな?」
教室が再び静まり返る。
…どのぐらい時間が経ったのだろう。
時間にすると僅か数分のことだろうが、途方もないような長い時間に感じられた。
その沈黙を再び先生が破った。
「……政府から、明日から3日間休みをとっていいと連絡があった。皆んなもう今日は帰れ」
そう言い残し、先生は教室から出ていった。
…1人、また1人と帰ってゆく。
その過程で喋る者は、誰1人いなかった。
そしてとうとう…私と志保だけが残った。
「…朝言ってたのって、この事だったの?」
「ええ…そうよ」
「私も…選ばれたんでしょ?」
「……そうよ」
「…とりあえず帰ろう!これからのことは、明日集まって決めようよ」
「そうね。…いや、今日は私の家に泊まって。そうしたほうがあなたも…色々都合いいでしょ?」
「…うん、ありがとう。そうする」
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