ゴミ漁り


 多くの失敗をしてしまい、この先生きて行くためにも必死に訓練に取り組んだ翌日。


 俺は再びダンジョンの世界へと足を踏み入れる事になった。


 昨日は、途中からエレクトが近接格闘に関するイロハを教えてくれたお陰で、空を切るナイフの音しかしなかった訓練室が少しばかり賑やかになった。


 そして、あのような状況では銃声を出さずにウルフを倒せとも教わった。


 現在俺たちの装備は、あの亡霊達にすら鼻で笑われる程に貧弱らしい。本当にどうしようもない場面でなければ、まず銃声を鳴らすのは控えろと教えられた。


「今回はちゃんと言うこと聞けよ」

「分かってる。先走らない」

「口で言うのは誰だって出来る。行動で示せ行動で」


 そして二回目の出撃が始まる。前回と同じ場所に転移した俺は、教わった通り周囲の安全確認に入った。


 酷い場合だと、転移した直後に亡霊に撃ち殺されるなんてこともあるらしい。


 見つかりづらいポイントに転移ポインターを差し込んではいるが、ダンジョンの中である以上はそういった事故もあるそうな。


 こればかりはどうしようもないと、エレクトも肩を竦めていた。


「敵影は無し。移動するぞ」

「了解」


 前回と同じく、エレクトの後ろについて行く俺。


 前回と違う点は、その手に持っているものがリボルバーではなくナイフであると言う点だろう。


 リボルバーは腰に下げて、ナイフを持ち歩く。それで、咄嗟の時に誤って銃声を鳴らしてしまうリスクを減らせるはずだ。


「今回は敵がいないな。このまま進むぞ」

「了解」


 前回は亡霊が塞いでいた道が、今回は開けている。


 ダンジョンのリセットタイミングは一日らしく、地球と同じ暦と時間を使うので24時間ごとにリセットが入る。


 その際に魔物の位置や亡霊の位置、また物資の位置なども全部変わるらしい。


 なお、その時既に回収してある物資はその影響に巻き込まれない。理由は説明されてなかったが、ダンジョン特有のご都合主義だと俺は勝手に思っている。


 それからしばらく接敵もせず、これと言って漁るものもなく、前回の生存時間を更新した頃。


 目の前に建物が見えてきた。


 荒廃した世界にありそうな、ボロボロの建物。マンションのようになっており、森の中にポツンと佇むそれは、ホラー映画に出てきそうである。


「着いた。あれがダンジョンに飲み込まれた建物だ。何が取れるからその日次第。運が良ければ、一生暮らしていけるだけのものがあるかもな」

「ここで一生暮らせるだけの金があっても、宝の持ち腐れじゃない?」

「ハッ、言えてるな。気をつけろ。森の中は比較的索敵がしやすいが、建物の中になると目での索敵はほぼ使えない。音をよく聞け。いいな」

「分かった」


 エレクトはそう言うと、周囲を警戒しながら建物の壁に張り付く。


 そしてそこでしゃがんで耳を済ませた。


 自分たち以外の何者かが居るのかどうかを、探っているのだろう。俺も真似して音を聞こうと耳を済ませたが、森が風に揺られる環境音しか聞こえてこなかった。


「とりあえずは居なさそうだな。だが、警戒は怠るな。少しでも違和感があったら報告しろ。ダンジョンの中は、気を抜いた瞬間に死ぬ」

「了解」


 俺はナイフを持つ手に力が入りながらも、建物の中に入っていく。


 建物は三階建ての構造で、部屋がかなり沢山ある。今からこれを全部見ていくのか?と思いながらも、1つ目の部屋に入った。


 中は収容室かと思う程に寂れた部屋。鉄パイプによって作られたベッドが目に入る。俺が最近寝ているやつと同じだな。


「よし、ルーキー。物資の漁り方を教えてやる。基本的には価値が高いものを持ち帰るのは聞いているな?」

「うん。嗜好品や1部特殊な素材が高いって聞いたよ」

「それと、高品質な武器防具もな。だがそんなものは滅多に落ちてない。亡霊達から取れるやつも中古品で、かなり質が悪いしな。まぁそれはいい。まずやるべき事は、バックパックと水食料を探せ」


 ........ん?そこは高いものを厳選して持ち帰れじゃないの?


 と、思ったが、エレクトの言葉にすぐに納得させられた。


「最初から持ち込んでいるなら探す必要も無いんだが、今の私達を見ろ。荷物を大量に持てるような格好か?」

「........見えないね。精々ポケットに突っ込んで両手に抱き抱えられるぐらいかも」

「そうだ。しかも、私達は水も食料も持ち込んでねぇ。魔力体だから飲まず食わずでも死にはしないが、乾きと飢えは精神的疲労と肉体的疲労に繋がる。それと、魔力体の維持出来る時間も短くなる。リアルに作りすぎた結果、不便な体になっちまったわけだ」


 なるほど。普通に生きて行くために必要な食事や水分は取れという事か。


 最初から持ち込めば、それを探す手間は省ける。しかし、ハイドアウトの状況があまり宜しくないため、エレクトは持ち込まずに現地調達しているのだろう。


「基本ダンジョンにある食べ物は食えるし飲める。腐って腹壊すなんて事もない。魔力汚染と拡張がなければ、むしろ資源の宝庫として重宝されただろうよ」

「で、それらを詰め込むための袋が欲しいと」

「そういう事だ。運が悪いとマジで見つからないんだが、今回は運がいい。小さいが使えるバックパックがある」


 エレクトはそう言うと、ベッドの下に転がっていたバックパックを引きずり出す。


 少しホコリを被っているが、十分に使えそうな代物だ。


「ふへへ。こいつがあれば3日間は生きてられるな」


 珍しく、楽しそうな笑みを浮かべるエレクト。


 初めてみる表情に、俺は思わず口を開いた。


「楽しそうだね」

「こんなクソみたいな世界でも、楽しみってもんはあるんだぜ?私の場合はこうしてゴミ漁りすんのが楽しいんだよ」


 そう言いながらもエレクトの手は止まらない。壁に立てかけてあったクローゼットを開けて中を漁り始め、アクセサリーやよく分からない馬の銅像っぽいものまで詰め込んでいく。


 銃に使うマガジンとか、布なんかも使えそうなものから片っ端から放り込んでいた。


「ダンジョンの中はリセットされて、毎回違う景色を見せてくれるからな。で、その中でこうやってゴミを漁る。いいものが取れれば最高だが、そうじゃなくても漁ってるだけで楽しいもんだ」

「俺に漁り方を教えてくれるんじゃなかったの?」

「ん?水の食料、そしてバックパック。この3つさえ揃えておけば、後は価値が高い物を入れていけばいい。3日分の水と食料だけは確保しておけよ。後、バックパックに空きがあるなら適当にいい感じのもん詰め込んでおけ」


 漁る手が止まらない止まらない。


 俺に説明をしている間に、あっという間に部屋の中で金になりそうなものは根こそぎ持って行ってしまった。


 ここまで来ると職人だな。


 軽く引いている自分がいる。


「チッ、鯖の缶詰か........」


 そして、拾った缶詰に悪態を着いている。


 訓練している時はとても厳しかったエレクトだが、物資を漁っている時はとても楽しそうな顔をしていた。


 それこそ、宝探しをする子供のような。


「んじゃ、次はルーキーの番だ。まだ音はしないし、ゆっくりでいい。バックパックが見つからなきゃ、こっちに詰め込め」

「水と食料優先だよね?」

「正確には、3日分の水と食料まで、だな。今回は3日間の行動だ。それ以上の水と食料は別に要らん」


 行動日数に合わせた食料確保を心がけろって事ね。


 その後、俺は隣の部屋で物資漁りを始めた訳だが、運が良かったのかまたしても小さめのバックパックをゲットした上に、ヘルメットと大量の食料と水分を確保することに成功するのであった。


 ただ、漁る感覚が楽しいとは感じなかった。俺がその領域に行くのは、もっと先の話かもしれない。


 とにかく、これで一歩前進だ。後は、物資漁りを繰り返して、ちゃんと生き残り、ダンジョンから脱出するだけである。




後書き。

お昼頃にもう1話上げます。

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異世界から脱出せよ!!〜人類の滅亡を辿る世界から脱出する為に、先ずはダンジョンでゴミ漁りします〜 杯 雪乃 @sakazukiyukino

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