試す側、試される側


 次があるかは分からないが、俺はセリアさんの指示により訓練と勉強を続ける事となった。


 基礎体力訓練はもちろん、射撃訓練にナイフ格闘術などの近接格闘の訓練。


 そして、エリアゼロのマップ把握やこの世界の言語(主に読み書き)など、今出来ることは全て詰め込まれていた。


 春から高校生になるはずだった15歳の青年には厳しい訓練ばかりだったが、俺はそれでも根を上げずに食らいつく。


 この世界を色々と知っていく内に、俺は現在身を置いているハイドアウトから追い出されると、どう頑張っても生きていくのが難しいと分かってきた。


 ダンジョンの侵食により治安は悪化。主要都市は幾つかあるが、日本じゃ考えられないぐらいには治安が最悪。


 どこかの組織に属してなければまず死ぬような環境であり、ポストアポカリプスの前にディストピア。


 そもそも追い出された場合、俺は街にたどり着けるかどうかすら怪しい。


 生きるために勉強をする事を強く意識したのは、人生で初めてだった。


 人間、死ぬ気でやれば意外と何とかなるもので、苦手な暗記もすんなりと頭に入る。


 受験の時にここまで真剣に物事を覚えようとしたら、もっといい高校に入れただろう。


 二日後。


 ナイフ格闘術を体に染み込ませるために、ナイフを振っているとその声は聞こえてきた。


「よぉ。ルーキー。私に全部押し付けて死ぬとはいい度胸してるじゃねぇか」

「........エレクト」


 部屋に入ってきたのはエレクトだ。もちろん魔力体ではなく、本体の姿。


 その目付きは俺が意識しすぎだからなのか、睨まれているようにも思える。


「ごめんなさい」

「何に対して謝ってんだ?」

「エレクトの指示を聞く前に、勝手に射撃して亡霊を呼び寄せたこと........です」

「分かってんならいい。それすら分かってないのに謝ってたら、ぶん殴るところだった。後、敬語は要らん」


 エレクトはそう言うと、俺の前まで歩いてきてポケットからあるものを取り出す。


 濃い群青色をしたリボルバー。


 俺が最後にエレクトに向かって投げた、魔導拳銃サクラだ。


「回収してたの?」

「当たり前だろ。ルーキーが投げたお陰で回収は簡単だった。それと、ウルフの素材は全部売っぱらう事になる。本来なら持ち帰った分の物資を売った金の半分は懐に入るんだが、こいつの回収代って事でナシだ。反省しろよ」


 ........それはつまり、エレクトはあの後たった一人で5人の亡霊を殲滅し、その物資とウルフが残した物資を持って帰ってきたって事か?


 俺がヘマしたのを抜きにしても、5人を殲滅できるとは。


 エレクトは俺が想像している以上に強い兵士なのかもしれない。


「ありがとう」


 俺は無くしてしまったリボルバーを受け取ると、それをじっと眺める。


 あの場面、どうするのが正解だったのだろうか?


 ウルフには補足されて逃げることは難しく、銃声を鳴らせば亡霊が寄ってくるタイミング。


 そもそも武器はリボルバーしか持ってなかったし、ウルフを殴り殺せるような技術もない。


 エレクトに全部を任せるべきだったのかな。


「ルーキー。お前、出撃時はナイフ持ってなかったよな?」

「え?うん。持ってなかったよ」

「射撃訓練の他に何の訓練をしてた?」

「基礎体力訓練だけ」

「近接格闘は?」

「やってない」

「........なるほど。今回はルーキー、お前にだけ非がある訳じゃなさそうだな」


 エレクトはそう言うと、俺に背中を向けて部屋を出ていこうとする。


 俺にだけ非があるわけじゃない?


 そうなのか?


 俺が悪いことに変わりは無いが、他にも責任を問われる人物がいるという事なのだろうか?


 そんな事を思っていると、エレクトが立ち止まる。


「最後、なんで銃を投げた?」

「エレクトが、ロストしたらダメだって言ってたから........逃げる場合に回収できるように少しでも近くにと思って」

「そうか。それだけはいい判断だった。明日またダンジョンに行くだろうし、その時は私の言うことを聞けよ」


 エレクトはそう言うと、再び歩き出し部屋を出ていく。


 静寂が戻った部屋の中。


 俺はそんな静寂を紛らわすかのように、ナイフを振る訓練に戻るのであった。



 ──────



 2週間と数日前にこのハイドアウトにやってきた新米ルーキーの面倒を見るように言われたエレクトは、ルーキーの元を離れるとグランドの元を訪れていた。


 グランドは既にエレクトが持って帰って来た物資の選別中であり、セリアもそれを手伝っている。


 その中には、亡霊を殺して剥ぎ取ったショットガンやハンドガン等もあった。


「おい」

「あ、エレクト。本当にこれ全部売っていいのかい?装備品は必要なら君が次の出撃時に持って行っていいんだよ?」

「今はそんな事言ってられる資金状況じゃねぇだろ。ハンドガンとナイフがありゃ今は十分だ。それよりも聞きたいことがある」

「何?」

「お前ら、今回あえてルーキーを死なせるつもりだったな?」


 出撃時、ナイフを持っていなかったことに違和感を感じたエレクトであったが、その違和感は先程のルーキーとの会話で確信に変わった。


 グランドとセリアは、今回の出撃でルーキーを死なせるつもりだったのだ。


 こちらの言うことを聞かずに射撃したルーキーが悪いのは言わずもがなだが、射撃以外の選択肢を与えていなかった彼らにも責任の一端はある。


 もしあの場面でルーキーが引き金を引かずとも、必ずどこかで引き金を引いて似たような状況を作り出すことになっただろう。


「うん。だからエレクトを付けたんだよ」


 アッサリと認めるグランド。


 エレクトは目を細める。


「説明が足りてねぇな。お陰で私までおっ死ぬ所だったんだぞ?」

「確かにエレクトには説明した方が良かったかもね。彼が........ユナくんがダンジョンの中で約七日間近く行動できる計算なのは聞いているよね?」

「聞いている。私の倍以上の魔力量。魔力が多い種族であるエルフですら、現実的に考えれば5日がいい所だろうな」


 ユナの魔力量は相当なものだ。人間が七日間ダンジョンで行動できると言うのは、かなり異例な事態である。


 行動時間が増えるということは、それだけ行動範囲が広くなると言うこと。今はそこまで必要ないが、今後ユナのその力は必要になってくるはずだ。


 特に、少人数のハイドアウトにとっては、貴重な人材である。


「彼は使える。が、1つ懸念点もある。そもそも彼は信頼できる人間なのか?ダンジョンで生きていけるような人間なのか?人間性、性格は?それを確かめる必要があった訳だ」

「で、死なせたと?」

「そうだ。死んだ直後の彼の態度や死に際の行動。そういう所で人間の本性は現れる。彼はまず私に対して謝罪した。任務を達成できなかったから」

「私にもまず謝ってたな」

「謝罪を素直に口にできるというのは、コミュニケーションにおいて大事だ。何から何まで謝るのは違うが、意地を張って関係性を悪化させるのは尚悪い。特に、こういう小さなコミュニティにおいてはね」

「それは、かつての経験からか?」


 エレクトがそう言うと、グランドの視線が一気に険しくなる。


 部屋の空気が一段階重くなり、隣にいたセリアもエレクトを睨んだ。


 グランドに対してそれは、明らかに“余計な一言”である。


 しかし、その険しさもすぐに収まり、彼は頷いた。


「経験したからそう判断した。信頼と信用と言うのは、その人柄と時間によって担保される」

「なら私からいいことを教えてやろう。あのルーキーは、少なくとも死に際に裏切るような馬鹿じゃない。死にかけた時に自分の命よりも、私に言われた事を反射的に思い出してリボルバーをぶん投げた奴だ。見所はある」

「へぇ。珍しいね。チーム1に対しては喧嘩腰の君がそう言うなんて」

「見所があると言っただけだ。それと任務遂行能力があるのかはまた別だ。まぁいい。知りたいことは知れたからな。だが、ひとつ覚えておくといい。試される側にも選ぶ権利はあるんだぜ」


 それはエレクトからの忠告であった。


 試すのは結構だが、自分もまた試される側に回ることを忘れるなと。


 グランドは目を閉じると、肩をすくめる。


「........肝に銘じておくよ」


 グランドの態度が気に入らなかったのか、エレクトはつまらなさそうに鼻を鳴らすと部屋を出ていく。


 そして、“面倒見ろって言われたしな”と呟くと、ルーキーが訓練している部屋へと向かうのであった。





 後書き。

 今日はここまで。

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