失敗が悪いのではない


 意識が途絶える感覚とは、こういうことを言うのだろうか?


 魔力体生成機の中で目が覚めた俺は、即座に自分の足を確認する。


 足に痛みはなく、弾丸によってぶち抜かれた頭も無事。


 死んだはずなのに死んでない。


 本当に別の体を生成してそこに意識だけを乗っけているのが、魔力体という存在らしい。


「........クソッ」


 思わずそんな事を口にしてしまう。


 自分の価値を示すために先走った行動をしてしまったのは言わずもがな。俺の身勝手な判断で、亡霊を引き付けてしまった上にエレクトを危険に晒して死んでしまったのだ。


 ウルフ三体を倒したと言う些細な功績など、この一つで全て消し炭になる。


 評価はマイナス。


 地面を突き抜けて、この星のマントルにまで届くレベルだ。


 焦りが産んだ行動。油断していた訳じゃないが、俺はダンジョンという戦場を舐めていた。


 ゲームみたい?バカ言っちゃいけない。


 ゲームのキャラは基本馬鹿みたいにバグった性能をしているのだ。銃弾を食らってもなお、足の骨が折れてもなお走れるような化け物がいて、初めてゲームというものは成立する。


 俺は所詮、軍事訓練も受けてないようなただの一般人。


 ましてや、ダンジョンに入るのは初めてである。


 エレクトの指示を仰ぐべきだった。


「おや?帰ってきたのかい?」


 合わせる顔がないと思いつつも、カプセルの中から出るとタイミングよくリーダーであるグランドが姿を表す。その隣にはセリアがいた。


 出撃から僅か30分足らず。まさかこんなに早く帰ってくるとは、思ってもみなかった事だろう。


「........すいませんでした」

「なんで謝るんだ?」

「その、目的を達成できずに死んで帰ってきてしまったので」


 死んだショックや恐怖よりも、俺は今このハイドアウトから追い出される事を恐れている。


 頭を下げるも、足の震えが止まらない。


 頭が真っ白で、それ以上の言葉が出てこなかった。


「........あー!!何も出来ずに死んで帰ってきた事を謝っているんだね。大丈夫大丈夫。物資回収には危険が付き物。ましてや君は初めての出撃だ。そんなに気に病むことはないよ。ね、セリア」

「そうですね。ただ、消失ロストした魔導拳銃サクラは誰が補填するのですか?」


 痛いところを突いてくる。


 が、俺が自力で得たものでもない物、貸し与えられたものを失ってしまったのは事実だ。


 返す言葉はない。


「すいませんでした........」

「まぁまぁ。その為のエレクトだから。セリアもそんなに言うことはないだろう?」

「事実です。現状の我々の資金では、アレひとつでもできる限り失いたくは無いものなのは、分かっているでしょう?」

「エレクトが持って帰ってきてくれるって。それよりも、どうだった?外は」


 俺を気遣ってくれたのだろう。無理やりにでも話題を変えてきたグランド。


 俺はその気遣いが有難いような、不安になるような感情を持ちながらも素直に答えた。


「趣はありました」

「うん。凄い言葉を選んでいるのは分かるね。セリアだったら“ゴミ屋敷でももう少しマシな光景”とか言ってそうなのに」

「リーダー、殴りますよ?」

「暴力反対!!じゃ、とりあえず医務室に行こうか。魔力体とは言えど、異常があったら困るからね」

「........はい」


 俺はそう言うと、力無き足取りでグランドの後ろをついて行くしか出来なかったのであった。


 エレクトは果たして生き残っているのだろうか?


 まだそのカプセルが閉じられているという事は、死んでないということだと思うのだが........



 ─────



 このハイドアウトには、最低限活動に必要な施設が揃っている。


 その中で生命に関わることを管理するのが、この医務室だ。


 ハイドアウト全員の健康状態を確認し、万が一のことがあれば治療する。


 数が少ないこのハイドアウトでは、1人の離脱が大きな戦力ダウンに繋がることもあり、医療班は重宝される存在である。


「ほっほっほ。こうして会うのは初めてかの?えーと、くんだったかな?」

「ユナです」

「ボケ老人でごめんね。こんなのでも優秀なポーション職人なんだよ」

「ほっほっほ。ボケとらんわい失礼な」


 サンタクロースがしているような白い髭を撫でながら、優しい目をしているのは医療班兼ポーション職人のブラードさんである。


 ずんぐりむっくりとした体型をしており、俺よりも低い身長。


 この特徴的な種族は、ドワーフだ。


 この世界、変なところで異世界らしさを発揮しており、人類という枠組みには五種族が存在している。


 人間、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人。


 エルフはこのハイドアウトには所属していないらしく、4種族の混合チーム。


 そして、このハイドアウト唯一のドワーフにして唯一のポーション職人だ。


 ポーションと呼ばれる特殊な液体を生成できる唯一の人材であり、彼がいなければハイドアウトが立ち行かない程には重要人物なのだとか。


 年齢は400を超えているらしく、かなりのご高齢。しかし、ドワーフは500年以上も生きる種族なため、脱出しなければ生きた亡霊になるのは目に見えている。


「ユナくんは何歳だっけ?」

「15です」

「若いねー。そんな若いのにこんなところに来ちゃったんだ。確か、次元の裂け目から落ちてきて、こことは別の世界に住んでたんでしょ?」

「はい」

「普通に可哀想」


 そう言いながら、俺の心音を測るのはシャーリーと呼ばれる人間のお姉さん。


 年齢はちょっと分からないが、青髪ロングの優しい雰囲気をしたお姉さんである。


 身長は160cm前半ほど。全体的にスラッとした体型で、人懐っこい感じがある。


「心音が早いけど、まぁ大丈夫かな。初めて魔力体で死んだはずだけど、なにか違和感は?」

「ありません」

「そっか。なにか違和感があったら言ってね。体は資本!!健康第一だよ」

「ほっほっほ。ごほっ、こんな世界で健康を謳われてもと言ったところはあるがな。して、ユナよ。何をそんなに暗い顔をしているのだ?」


 平静を装おうとしても、装い切れない。


 年の功と言うやつだろうか。簡単に見抜かれてしまった。


「........迷惑だけかけて死んでしまったので」


 流石にここで“捨てられないか不安”だと打ち明けることはできず、それらしい言葉を並べる。


 実際、迷惑だけかけて死んでしまったし、それも理由の一つではあった。


 エレクトに全てを押し付けて、俺は勝手に死んだのだ。


 やる気のある無能が一番の敵であるとはよく聞くが、その実例が自分になるとは思ってもみなかった。


「ふむ。地球?とか言う所では、争いもなく暮らしていたと聞いている。そんな場所で暮らし続け、ある日突然知らない場所にやって来ては戦わされたのだ。何も出来ずに死ぬのは、ある意味自然とも言えるな」

「そうだねー。私も初めてダンジョンに行った時は、1日も立たずに死んだし」

「それを恥じることはないぞユナ。グランドの小僧もそれを折り込み済みでユナをダンジョンに向かわせたはずだ。重要なのは、失敗することではない。その失敗をどう活かすかだ」


 ブラードさんはそう言うと、下を向いていた俺の頭を優しく撫でる。


 その手は、この世界に来て初めて安心感を覚えるものであった。


「人に失敗は付き物。今回ユナは失敗の原因が何にあると思う?」

「エレクトの指示を仰がず、勝手に行動したこと」

「では、次はエレクトの指示をしっかりと聞いて行動することを心掛けることだ。そして、また新たな失敗をするだろう。次はその失敗の原因を見極め、同じ失敗を繰り返さぬように行動するのだ。そうやって人は成長する」


 ブラードさんはそう言うと、“ゴホッゴホッ”と咳き込んだあとポンポンと俺の頭に優しく手を置く。


「最終的にこの世界から脱出出来れば良いのだ。焦る必要は無い」

「........はい」


 一刻でも早く成果を見せて、自分の価値を示したい俺に“焦る必要は無い”と言われても困るものだ。


 だが、その言葉は何故かすんなりと俺の心に入ってきた気がした。


 とりあえず、次があった時の為に訓練に力を入れよう。それから二日後。エレクトが帰ってきた。




 後書き。

 お昼頃にもう1話上げます。

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