脱出失敗(死亡)


 この世界に飲み込まれた亡霊達を横目に、荒廃した森の中を歩く。


 会話は多少あれど、互いに好きなものを聞くような間柄でもない。


 枯れた草と土を踏みしめる音だけが鳴り響き、なんとも言えない空気だけが流れる。


 エレクトについては少しばかり聞いている。


 現在俺の身柄を抑えているハイドアウトの物資調達班の1人であり、人間でありながら魔力体の状態でダンジョンの中を3日間の行動が可能な稀有な人物。


 一般的な人間の場合は大体一日半が限界とされており、その2倍の行動が可能となれば、貴重な人材なのだろう。


 そして、計算上は8日、戦闘なども加味すると7日間はダンジョンでの行動が可能と言われている俺がなぜ貴重だと言われるのかがよく分かる。


「ん、木箱だ。ルーキー、周囲を確認した後、中身を確認するぞ」

「了解」


 しばらく歩いていると、エレクトが足を止める。


 彼女が指を向けた先には、地面に半分埋まった木箱が佇んでいた。


 説明には聞いている。


 ダンジョンではリセットされた際にランダムで木箱や宝箱のと言ったものも生成され、その中に物資が入っているそうだ。


 そのはこの種類である程度中身を絞れるらしく、木箱の場合は武器防具以外のものがランダムで入っているらしい。


 ガチャかな?とは思うが、実際ガチャみたいなものらしく、ゴミのようなものからそれ1つですら相当な金になるものも入っている事があるのだとか。


「周囲に敵影なし。折角だ。開けてみろよルーキー」

「分かった」


 エレクトに言われるがまま、俺は木箱に近づいて蓋を開ける。


 そこには、ワイヤーや貴金属類のアクセサリーなどが入っていた。


 価値までは分からないが、多分売れるものだとは思う........多分。


「お、金属系は今だと当たりの部類だな。ウチのハイドアウトじゃ金属系が不足しているし」

「そうなの?」

「元々は別のデカイハイドアウトにいた連中だ。そこから独立して、今のハイドアウトになってる。独立したばかりだから、金も物資も特にないんだよ」


 なるほど。だから俺のような素性が分からないやつだとしても、何とか訓練して使い物になるようにしているのか。


 下手に雇うより自分たちで育成した方が裏切りにくいとか、色々とそう言うのを考えてそうだな。


「本当はでかいバックパックなんかを背負ってそこに物資に詰め込むんだが、そんなものすら用意できやしない。このポーチに入れるぞ」

「ちなみに、これで幾らぐらいになるの?」

「精々、3000ゴールドってところだな。だが、塵も積もれば何とやらだ。ゴミを集めて売り捌いて資金を作るのが当面の目標だな」


 エレクトはそう言うと、腰に下げたポーチにワイヤーとアクセサリーを回収していく。


 ちなみに、ゴールドはこの世界のお金の単位だ。物価に関しては未だによく分かってないが、教えられた感じだと食料系は結構高めだと思う。


 特に砂糖なんかは価値が高いらしい。見かけたら積極的に持ち帰ってきてくれと言われている。


「さて、探索を続け────」


 初めての物資回収も無事に終わり、探索を続けようとしたその時。エレクトの動きがピタリと止まる。


 俺はそのエレクトの動きを見て異変を察知し、音を立てないようにその場に止まった。


 何かあるのか?


「........足音。こっちにまっすぐ向かってきてる」

「逃げるの?」

「無理だな。既に補足されてる。奴らは匂いでこちらを察知するんだよ。ウルフだ」


 エレクトがそう言った次の瞬間、木々の影から爆速でこちらに向かってくる3つの影が。


 その姿は狼という他なく、俺の身長の半分ぐらいの体高を持っている。


 鋭い牙を見せながら迫ってくる様子は、まさしく狩人と言った感じだ。


 ウルフ。


 この世界における“魔物”に分類される生物であり、地球で言うところの狼。


 違う点は体内に魔石と呼ばれる特別な器官を持つことだろう。


 魔石は魔力の塊であり、地球で言う電池の役割を果たす。この魔石があるかないかで、魔物かそうでないかを分けているそうだ。


「音は────」


 パン!!パン!!パン!!


 エレクトが何かを言うよりも先に、俺は銃を構えて放っていた。


 この時の俺は、とにかく自分の有用性を示したかったのだろう。


 慣れない環境でいつ捨てられてもおかしくない立場。自分の価値を示すことができなければ、簡単に足切りされて俺はどこかも分からない場所で死ぬことになる。


 そんな焦りから、俺はエレクトの言葉を聞く前に動いてしまったのだ。


「ガル────」

「よし、あと1匹!!」


 3発の銃声が鳴り響き、ウルフの頭を貫く。


 幸いウルフはかなり弱い魔物であり、銃弾を1発でも当てれば簡単に死んでくれた。


 正面から突撃してきてくれているから、頭に当てれたと言うのはあるだろうが。


 パンパンパン!!


 そして残りの1匹に銃弾を全部叩き込む。


 最後の1匹にもキッチリと2発命中し、ウルフの群れは無事に討伐された。


 よし!!ちゃんと訓練が生きたな!!


 初めての戦闘で一切躊躇いもなく引き金を引けた自分を褒めてやりながら、笑顔でエレクトの方に視線を向けるが、彼女から飛んできたのは怒号であった。


「このバカ野郎が!!何銃声を出してんだ!!いやそれは後でいい!!今すぐ物陰に身を隠せ!!」

「........え?」


 思っていた反応と違う反応に戸惑う俺。


 しかし、その理由はすぐに分かった。


 エレクトに言われて物陰に身を隠す直前。


 ズドン!!と大きな銃声が鳴り響く。


 それと同時に、俺の左足の力が一気に失われ、激痛が走った。


「─────っ!!」

「あークソッ!!もう嗅ぎつけてきやがった!!やっぱり近くを徘徊してたか!!亡霊め!!」


 亡霊。


 このダンジョンを彷徨う死した人類。


 彼らは音に強く反応する。特にには。


 最初に見かけた亡霊達は、銃声を聞きつけると同時に俺たちの方に走ってきたのだろう。


 ここは先程亡霊を見かけた場所からさほど離れていないし、亡霊達もダンジョンの中を移動する。


 偶然こちらに向かって移動して来てきていたら?そして、そんな時に銃声を出してしまえば?


 装備が強ければまだやりようはあったのかもしれないが、今の俺は射程が50mも無いリボルバーのみ。しかも、あの距離から当てられるわけが無い。


「チッ!!」


 エレクトは俺が撃たれたのを見て動き出そうとするが、相手は5人。


 銃弾による牽制が入って思うように動けなかった。


 そして、亡霊の1人が俺への射線を確保するように動き出す。


 俺は足の痛みに耐えるので精一杯で、ここで撃ち返してやるとリロードを挟むことは出来なかった。


 現実はゲームじゃない。


 ゲームのキャラのように、銃弾を打ち込まれても元気に走っている化け物じゃない。


 超リアル志向FPSゲームだって、普通に超人である。


 戦闘経験も乏しく、マトモに訓練を受けてない一般人の俺がそんな思考を回せるような余裕はまるでなかった。


 しかし、唯一頭の中で覚えていたこともある。


『お前のその手に持っているおもちゃは、自分が稼いで取ってきたものか?ウチは今資源に乏しくて困ってんだ。玩具1つすら捨てられない程にな』


 この銃が回収できずに、失ってしまう事だけは避けなくてはならない。


 俺は、無意識にエレクトに向かってリボルバーをぶん投げる。


 火事場の馬鹿力とでも言うべきか、絶妙なコントロールで投げられたそのリボルバーはエレクトのいる場所から手を伸ばすだけで届く所に落ちる。


「おま─────」


 バン。


 俺が最後に聞いた言葉は、飛んできたリボルバーに驚くエレクトの声。


 初めての物資回収は、俺の安易な射撃により亡霊達の呼び寄せによって終わるのであった。





【ウルフ】

 魔物の1種。匂いに反応し、追跡してくる。強さは弱い部類。


【魔石】

 地球で言うところの電池みたいなもの。魔力が固体となったものであり、様々な用途に使われる。生活必需品なのでどんなに小さな魔石でも値段が安定し、大きな魔石は高額で取引される。




 後書き。

 今日はここまで

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