エリアゼロ
遂に外の世界をこの目で見る事になったと同時に、ダンジョンから生きて脱出するミッションが始まった。
転移装置によって視界が切り替わると同時に、そこは外の世界に移り変わる。
まず真っ先に目に入ってきたのは、青々しい........とは口が裂けても言えない荒廃した森であった。
この世界にも季節の概念はあるが、話に聞いたところによると今は春。
新たな芽が息吹くその季節に、こんな真っ茶色な世界が形成されるとは考えづらい。
この世界は確かに地球と異なる点も多いが、地球と似た部分も多いのだ。
春先に生える草木の色は、大体緑色である。
「........これが外の世界」
「おい、ボーッとするな。ここは既に戦場だぞ」
「はい」
ポストアポカリプスが織り成す絶望的な世界はそれはそれで絶景(想像を絶する光景)なのだろうが、そんなものに目を奪われていたら死ぬのがこの世界。
エレクトの声で我に返った俺は、そのリボルバーを強く握りしめて周囲を警戒する。
魔力汚染地域に居るはずなのだが、今のところは特にこれと言った異変は体に感じられなかった。
「移動するぞ。転移ポインターは貴重だからな。見つからない場所に埋め込んで座標を固定してあるとはいえど、見つかって破壊されたら溜まったもんじゃない」
「ここは?」
「“エリアゼロ”。ダンジョンの入口とも言える場所だ」
エリアゼロ。
荒廃が加速する世界の、最前線。
ダンジョンの侵食によって廃れた森であり、その中には様々な建物が存在している。
つい10年前までは、人々が住める環境だったらしい。気がつけば、ここは死の大地と化した訳だが。
一応説明は受けているし、周辺地図は一応持たされている。まぁ、現在地はよく分からないんだけどね。
「転移ポインターについては?」
「説明は受けているけど、詳細な位置までは記憶できてない」
「地図は?」
「ある」
俺はそう言うと、胸ポケットから地図を広げる。
エリアゼロは様々な人が入り込む上に、10年前までは人が住む地域だった。そのため、かなり詳細な地図がある。
これがあれば、迷うことはない。現在地が分かれば。
「私たちがいるのはここだ。そして、ここにも転移ポインターがある。ダンジョンから脱出する際は、ここでコールすれば簡単に出られるが、人に見られるなよ?今の私達の命よりも、こいつの方が貴重だ」
「分かった」
そう言われて現在地を教えてもらう。
ガチで何もない森の中。周囲にこれと言った特徴的なものがない。
マジで気合いで記憶して、その場所に戻ってくるしかないのである。今の間に全力で景色を見ておいた方がいいな。
「少し歩けば、構造物もチラホラある。その位置関係で覚えろ。いいな?」
「分かった........」
ちょっと自信が無いが、首を縦に振るしかない。
ここで覚えられなくて足手まといになれば、俺は要らない子として捨てられる可能性すらある。
生き延びたければ、今いる環境を手放さない努力が必要。
少なくとも、魔力量の多さと異世界の存在と言う価値はあるが、これだけではまだ足りない。
「よし、それじゃ行くぞ。周辺の警戒を怠るなよ」
そういいながら、着いてこいと言わんばかりに前を歩き出すエレクト。
俺はその後ろを都会にやってきた田舎者のように、キョロキョロしながら着いていく。
さて、話は変わるが地球には様々なゲームが存在する。
その中には、“脱出系FPS”というゲームジャンルが存在していた。
従来のFPSゲームは、銃で敵を打ち倒してそのスコアを競ったりするものが主流だったが、脱出系FPSに関しては目的が違う。
アイテムを集めて、そのエリアから脱出する。
戦う事に重きを置くのではなく、あくまでも戦闘は1つの要素として存在しているゲームだ。
今の俺の状況と凄く似ている。
世界から脱出するために、ダンジョンに入り込んで物資を集めてダンジョンから脱出。そして、その物資で新たな武器を買ったりしながら、またダンジョンに挑み物資を集めて脱出を繰り返す。
あれこれ、異世界要素があるだけの脱出系FPSじゃね?という訳だ。
だからなんだという話は無いが、ゲームだと思うと少しばかり緊張も解れる。
ちょっと未来のリアル体験型ゲームをやっているのだと、自分を誤魔化した。
誤魔化さなければ、緊張に押しつぶされそうなのだ。
「........止まれ」
突然エレクトがその歩みを止め、物陰に隠れる。
俺も続くように物陰に隠れ、小さな声で聞いた。
物陰に隠れる理由なんて一つしかないが、慣れない事をやっているからか兎に角聞きたいのである。
「敵?」
「見ろ。亡霊達だ」
エレクトが指をさした先には、人の姿が。
その手にはショットガンと思わしきものやハンドガンが握られており、5名程がウロウロとしている。
このダンジョンで見かける人間は2種類しかいない。
俺達のように生きてダンジョンでコソ泥をする奴か、ダンジョンに飲み込まれ亡霊となった人間か。
今回は後者のようだ。
「連中は目と音に強く反応する。近場で銃声を出すと寄ってくるから気をつけろよ」
「........どうやって見分けたの?」
「簡単だ。私達のように周囲を警戒していない。ダンジョンは何時どこで敵に襲われるのか分からないんだぞ?そんな中で、あんな無防備にフラフラ歩くようなやつがいると思うか?」
なるほど。確かにダンジョンという危険地帯の中で、警戒心もなくフラフラと歩いているのはおかしい。
多少なりとも周囲を見渡すような動作があるはずなのだが、亡霊達は警戒行動を一切見せてなかった。
見た目は普通の人間。彼らに意識は存在せず、死ねばダンジョンがリセットされると同時に蘇る死してなお死ねない亡霊。
もう時期この世界もこんな人々で溢れかえるのだろう。もちろんこんな生き地獄は嫌なので、脱出を目指す訳だ。
「ルーキー。こういう時はどうする?」
「........無駄に戦闘せず、静かに離れて別ルートから物資を漁る?」
俺がそう言うと、エレクトはニヤリと笑いながら首を縦に振った。
「正解だ。特にルーキーの武器じゃ、6発撃った後のリロードが長い。魔導拳銃サクラは、弾詰まりが起きることが無い代わりに継戦能力に欠けるのが問題だな。だから安く手に入る訳だが」
魔導拳銃サクラ。
それが俺の持っている銃の名前である。
その時間は30秒以上を要するため、戦闘中にリロードを挟むのは難しいだろう。
ならどうする?
そう。逃げればいいのだ。
俺達の目的は物資の回収であって、彼らを殺すことじゃない。
もちろん、彼らを倒してその装備を剥ぎ取るようなこともできるが、多勢に無勢。しかも、どう見ても向こうの方が装備がいいのである。
無駄なリスクは犯さずに、できる限り安全に物資回収をするのが重要だと出撃前に散々言われてきた。
「迂回するぞ。近接格闘ができるなら殺る手もあるんだが........ルーキー、行けるか?」
「無理です」
「即答かよ。まぁ身の程を知ってるのならいいか。んじゃ行くぞ」
エレクトはそう言うと、亡霊達に見つからないように大きく迂回していく。
まさかこの時、俺の初死亡理由が彼らになるとは欠片も思っていなかった訳だが、それはもう少し先の話である。
【亡霊】
ダンジョンに飲み込まれた元人類。飲み込まれた全員が亡霊となる訳ではなく、戦闘能力が高い者が亡霊としてダンジョンに解き放たれる。
意志を持たず、見たものを排除するのだが、ダンジョンによって生成された生物は攻撃しない。索敵能力は基本そこまで高くない。銃声に過剰に反応する傾向がある。
持っている装備も人数も完全ランダムではあるが、魔力汚染の強さによって装備の質が上がることが確認されている。
後書き。
お昼頃にもう一話更新します。
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