ルーキー


 2日後。俺はハイドアウトの最奥の部屋へとやってきた。


 この2日間、死ぬ気で訓練した訳だが、そんな付け焼き刃の訓練でどうにかなるものなのだろうか?


 不安は大きく、俺は結局要らない子として処分されるんじゃないかと思いながらも、今は従う他なくここにいる。


 支給された深い緑色の服を身に付けた俺は、足の震えが止まらなかった。


「で?私がこの新米ルーキーの面倒を見ろと?冗談じゃねぇぞ」

「そう吠えるなよエレクト。君はソロでの活動が殆どで、援護できる人材が欲しいって言っていたじゃないか」

「私が言ってんのは、即座に戦力になるやつの話だ。一から育てるなんて言ってねぇぞ」


 そんな産まれたての子鹿ですらもう少しマトモに大地に立っている俺の前に現れたのは、大きなお姉さんであった。


 身長は180を優に超えているはず。真紅の髪は炎を連想させ、少しボサっとした髪をポニーテールにまとめ上げ、その立ち姿は鍛え上げられたものがある。


 鋭いその瞳は吸い込まれるほどに深い紫であり、顔が歪んでいてもその美しさが見て分かった。


 服装は迷彩柄の自衛隊のような服装。指ぬきグローブを装着し軽く腕まくりをしていた。


 そして自然と目が行ってしまうのは、その胸だろう。デカい。とにかくデカい。


 割と余裕のある服を着ているはずなのに、膨らみがはっきりと分かるぐらいには大きかった。


 目がいってしまうのは、不可抗力である。


 それにしても、顔面偏差値高すぎないか?この世界。他の人達も結構な偏差値だったぞ。


「紹介しようユナくん。彼女はエレクト。我々のハイドアウトで物資調達の任務をして貰っている。口は悪いし態度も悪いが、なんやかんや面倒見の良い奴だ。最初は慣れないだろうが、仲良くしてやってくれ」

「要らんことを言うんじゃねぇ。それと、本当に私がやんのか?」

「チーム1は既に完成されたパーティーだろう?ソロの君の方がいい」


 エレクトと紹介された彼女は詰まらなさそうに舌打ちをすると、それ以上の事は言わなかった。


 それにしても、物資調達班か。


 ハイドアウトにいる人々には、それぞれの役割がある。


 医者や技術者、経理等。様々な役割を与えられてそれをこなしている訳だが、その中で最も重要と言えるのが物資調達である。


 ダンジョンに入り、そこから物資を持ち帰る。


 その物資を売りさばいて金を用意したり、この異世界から脱出するための“装置”を作るのだ。


 え?ダンジョンに入ったら魔力汚染で死ぬんだろって?


 この世界の人々が、何もせずにただ50年間過ごしている訳ないだろ。ちゃんと、魔力汚染に対する対策はあるのだ。


「エレクトも納得してくれたみたいだし、早速ダンジョンに向かってもらうとしよう。ユナくん。一応確認だが、ダンジョンでは何をするのかな?」

「ダンジョンで生成された物資の確保。金属や武器、その他貴重品や食料及び魔物の素材等、必要なものは全て回収する」

「その通り!!この世界に来てまだ日が浅いのに、よく勉強しているね。ダンジョンでのあれこれは、エレクトに確認するといい。戦闘はあくまでも手段であって、物資の回収が目的なのを忘れてはいけないよ」

「はい」


 リーダーであるグランドは、目的と手段を間違えないように釘をさしてきた。


 そう。俺に求められるのは、物資の回収であって敵を倒す力ではない。


 ダンジョンには様々な物が落ちており、基本はそれを拾って持ち帰るのが目的である。


 戦闘はあくまでもそのための手段。逃げられるなら逃げてもいいのだ。


「生きて帰ってくるのが最優先。ダンジョンで死ぬと、持ち込んだ物資は全部ロストになるからね」

「はい」

「いい返事だ。君は賢い。頑張ってくれよ。エレクト、後はよろしく」

「はいはい。右も左も分からんルーキーに、現実と言うものを教えてやりますよ」


“それでは仕事があるから失礼するよ”と言い残し、グランドはその場を後にする。


 残されたのは、俺とエレクトの2人。


 この人も俺を警戒しているのか、沈黙が場を支配する。


 とりあえず、挨拶からするべきか?


「今日はよろしくお願いします」

「........敬語はいい。サッサと始めるぞ。一応面倒見ろと言われたからな。“これ”については聞いているか?」


 エレクトはそういうと、奥にあった酸素カプセルのような1人取りが入れるだけの機械をバシバシと叩く。


「魔力体生成機。ダンジョンに潜る際に必須となるもの」

「正解だ」


 魔力体生成機。


 ダンジョンが侵食するこの世界で生み出された、分身装置。


 詳しい原理は分からないが、この中に入ると自身の魔力を消費して自分の分身体を作り出すことができるらしい。


 しかも、自分の意識はそちらに移るのはもちろん、肉体の感覚や痛みや嗅覚、喉の乾きに腹の減りまで完璧に再現されるのだとか。


 で、この魔力体(分身体)が破壊された場合、意識は本来の肉体に戻る。


 つまり、死んでも死なないのだ。


 この存在が、俺が地球よりも発達した文明を保持していると言った理由である。


 魔力そして魔法が存在する世界だからこそ、許された装置なのだろう。


 ちなみに、この装置は現在の世界では当たり前のように普及している。皮肉にも、無限資源庫となっているダンジョンのお陰でパーツには困らないらしい。


「コイツで肉体を作って、ダンジョンに転移する。簡単だろ?その後はコソ泥して、転移して帰るだけだ」

「この世界から脱出するためには、まずダンジョンに入って物資を漁って、ダンジョンから脱出しろって事だよね」

「それが理解できているなら十分だ」


 エレクトはそう言うと、俺に中に入るように促す。


 武器は魔力体で再現してしまうと使えなくなってしまうらしく、カプセルの前に置いておいた。


 俺は素直にその指示に従い、カプセルの中に入って言われるがまま操作をする。


 そして目を瞑る。


 どのぐらい時間が経ったのだろうか?数秒?数分?数時間かもしれない。


 一度落ちた意識が戻り、目を覚ますとそこには魔力体となった自分がいた。


「これは........」

「目が覚めたか?感覚はどうだ?違和感はあるか?」

「違和感はない。感覚も普通。俺が俺じゃないってのがびっくりだよ」

「今じゃ常識なんだがな。レンタルしているところもあるぞ」


 ネカフェかよ。


 まぁ、そのぐらい気軽に使えるような状況でもないと、この世界では生きていけないのかもしれないが。


「んじゃ、武器を持て。そしたらダンジョンに行くぞ」

「了解」


 俺はリボルバーを持つと、エレクトの後ろを着いていく。


 やって来たのは、これまた変な機械が置いてある部屋であった。


「ここから指定した座標に転移する。もう一度確認だルーキー。お前がダンジョンでやる事はなんだ?」

「物資の回収」


 俺は即座にそう答えたが、エレクトは首を横に振った。


「違う。生きて帰る事だ。お前のその手に持っているおもちゃは、自分が稼いで取ってきたものか?ウチは今資源に乏しくて困ってんだ。玩具1つすら捨てられない程にな」

「........」


 このハイドアウトの現状を俺は知らない。どうやら、想像しているよりも困窮している可能性はありそうだ。


 でなければ、俺を即戦力として使おうなんて試みはしないのかもな。


「分かったか?生きて帰ることがまずやるべき事。これはどんな状況においても大原則だ。仲間が死んだら、その装備をかっぱらって生きて帰ってくるんだよ。分かったか?」

「........了解」

「それさえ出来れば、今回は満点だ。行くぞルーキー」


 俺とエレクトは転移装置に乗り、エレクトの操作によって転移する事になる。


 この世界に来て2週間。


 遂に俺は、このポストアポカリプスな世界をこの目で見る事になるのだ。


 それと同時に、ダンジョンから生きて帰る脱出劇の始まりである。




【魔力体生成機】

 その人物の魔力を消費して、もう1つの体を魔力によって作り出す機械。ダンジョンが暴走した際に作られてから広く世界に広まったものであり、現時点ではこれが無ければ世界は成り立たなくなっている。

 皮肉にもダンジョンのお陰で装置に必要なものは割と簡単に集まるため、ネカフェのような気軽さで貸出も行われている。

 作られた肉体は「魔力体」と呼ばれ、魔力体に意志を転送して第2の体となる。死ねば、本体に意識は戻り、魔力体は消え去るものの、1日間魔力体生成機が使えなくなる。


【転移装置】

 指定した座標に転移できる装置。ダンジョンの中には魔力汚染の影響で座標が安定せず飛べないが、転移ポインターと呼ばれる特殊な装置によってダンジョンの中でも座標の固定が可能。この世界の一般的な移動手段でもある。

 なお、この転移で惑星の外に出ることはでき無いため、別の手段が必要。



 後書き。

 今日はここまで

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