第7話 最終話
私は本当に気が付いていなかった。
というよりも、気が付かないふりをしていたのかもしれない。
あの婚約破棄の一件で、私は男性に対して、一定の距離を置くようになってしまったからだ。
ウィルだけが、私の作り出した心の境界線を、飛び越えて来てくれたのだ。
本人に言ったら、きっと「そんなつもりじゃなかったんだよ」と答えるだろうけど。
こうして、スターリング伯爵家のご令嬢達の結婚話は、あっという間にまとまってしまった。
「やっぱり、長女が一番最初に、式を挙げるべきかな?」
「そうですねえ…。レイヴンクロフト公爵家ともなると、結婚の準備にも時間がかかるでしょうし、イザベラが先でいいんじゃないですか?」
私達の結婚式は、3か月後に執り行われる事となった。
「ウィル、本当にいいの?」
「え、どうして?」
「…だって、私は婚約破棄された令嬢よ。世間体が良くないわ」
ウィルは私の不安を笑い飛ばした。
「…ベラ、都会の貴族ならともかく、ここは田舎だよ。それに、僕にとっては世間体なんかよりも、きみのほうが大切なんだ」
「…ウィル」
私は彼に抱きついた。
「…ベ、ベラ…?」
「…ウィル、ありがとう…」
彼の首に腕を回したまま、私は静かに泣いていた。
ウィルは黙って、私の背中を撫でてくれた。
3か月後、私達の結婚式が執り行われた。
「イザベラお姉様、もっと息を吐いて」
「…これ以上は無理よ」
結婚が決まって気が緩んだせいか、ここ数日間、大好物のパンを食べ過ぎてしまった。
おかげで、ウエディングドレスが、きつくなってしまったのである。
「…仕方ないわね。とりあえずウエストの所をピンでとめましょう」
「…式の最中に、ドレスが破れたりしないかしら…」
そんな事になったら、末代までの語り草になってしまう。
リリーは、私の不安を笑い飛ばした。
「式には身内しか出席しないから、万が一の事があっても大丈夫よ」
その「身内」には、あのレイヴンクロフト公爵一家も含まれているのだが…。
幸いドレスが破れる事はなく、式は無事に終わった。
私とウィルは、新婚旅行先に、ブライトンを選んだ。
「いいなあ。私達も、新婚旅行はブライトンにしましょうよ」
リリーがスティーブに話しかけると、彼は耳まで真っ赤になった。
「…そ、そんな、新婚旅行だなんて…!は、恥ずかしい…っ!」
彼は両手で顔を覆い、イヤイヤをするように首を振った。
最近のスティーブは、いつもこんな状態である。
隣の領主のハンター卿になっても、彼は未だにスターリング伯爵家の屋敷で寝起きしているのだ。
まあ、お父様の跡を継いで、スターリング伯爵になったら、将来的にはこの土地もスティーブのものになるのだが。
しかし、そうなると、彼はハンター卿か、スターリング伯爵か、どちらの名前で呼ばれる事になるのだろうか。
ウィルは、私の両親に向かって、頭を下げた。
「では、行ってまいります。お義父さん、お義母さん」
「気を付けてね」
「娘を頼んだぞ。ウィル君」
「…はい」
私はその時、この人と結婚してよかった、とあらためて思った。
ウィルは昔から、まったく変わらない。
私たち家族が、落ちぶれようが、大貴族と婚約しようが、彼の態度は全く変わらなかった。
もしかしたら、花婿選びの条件の中で、それが一番大切な事だったのかもしれない。
そして私は、自分でも気が付かない内に、最高の結婚相手を見つけていたようだ。
「行ってらっしゃい、イザベラお姉様」
「お土産、いっぱい買って来てね」
「分かってるわよ」
私とウィルは、待っていた馬車に乗り込んだ。
家族と村人達に見送られながら、私達はブライトンへと出発したのであった。
妹が大貴族と婚約したせいで、売れ残りの姉に求婚者が殺到しています 金色ひつじ @silverink
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