第5話

私とウィルは、2人で会う事が多くなっていた。

もちろん、護衛としてプリンスを連れてきてはいる。

ウィルは、伯爵家の跡継ぎでありながら、獣医になりたいと願う変わり種だった。


「この辺りは、家畜やペットが多い割に、獣医の数が少ないんだよ。近所の獣医は、もうかなりのお爺さんだしね。僕はその先生の助手をしているんだ」

「そうなの…」

私はいままで、こんなに変わった伯爵家の息子に、会った事がなかった。


「…あなたって、変わった人ね」

「そうかな?」

本人には、その自覚がないようだ。

ウィルとプリンスが、同時に首を傾げたので、私は思わず吹き出してしまった。


「イザベラお姉様、最近、ウィル兄さんと仲がいいよね」

アレクシアにそう言われて、私はどきりとした。

「…そ、そうかしら?」


「ウィル兄さんが、お兄さんになってくれたら嬉しいな」

「アレク、お姉様の意思を無視して、勝手な事を言っちゃダメよ」

リリーにたしなめられて、アレクシアは、ぷっと頬を膨らませた。

「…2人は、お似合いだと思うんだけどなあ…」


その事件が、きっかけになったのかは分からない。

しかし、それ以来、スターリング伯爵家の門前に、貴族の男性達が列を作るようになったのだ。


初めてその光景を見た時は、何が起こったのか理解できなかった。

「…なんなの、あの人達…?」

「ちょっと、俺が聞いてきます」


戻って来たスティーブは、困惑した表情を浮かべていた。

「…彼らは、イザベラさんとリリーさんに、お会いしたいと」

「私達に…何の用なの?」

「…それが、あなた達に、結婚の申し込みをしたいと、言ってますが…」


その日の内に、スターリング伯爵家の前に、立て看板が立てられた。

「求婚者の面接を行います。期間は明日から3日間。

候補者の条件は、伯爵以上、35歳以下の独身男性のみ」


この看板を見た男性達からは、不満の声が上がった。

しかし、看板を設置したスティーブがひと睨みすると、彼らは静かになった。

「面接に来られる際は、簡単な経歴書を書いて来て下さい。あ、どちらのお嬢さんを花嫁にしたいかも書いて下さいね」


スティーブは、彼らに一礼すると、屋敷に戻って行った。

次の日、候補者の数は減っていたが、相変わらず長い列ができていた。

「…あの人達、ホントに全員伯爵なのかしら?」

「…さあ、この国に伯爵家って、そんなにあったかしら?」


面接は、両親とスティーブ、私とリリーの5人で行った。

「どんな人が来るのかしらね…」

リリーは、何だかワクワクしているように見えた。


最初の男性は、開口一番「ヴィヴィアンさんを幸せにします!」と絶叫した。

「…うちに、ヴィヴィアンという名前の娘はいませんが…」

お母様の呆れた声に、候補者の男性は「しまった!」という顔をした。

「…あ、あの、これは…その」


「…スティーブ、お客様のお帰りだ」

お父様が言う前から、スティーブは立ち上がっていた。

スティーブに背中を押されると、候補者は何か言い訳しながら出て行った。

「…大丈夫かしら、この面接」


私は、急に不安になった。

「…さあ」

リリーは、面白ければ何でもいい、といった顔をしていた。


こうして、面接を進めていったのだが…。

「レイヴンクロフト公爵家との、繋がりが欲しいんです。ぜひ私と、娘さんを結婚させてください」

「娘のどちらと、結婚したいですか?」

「…えっ?ええと」

彼の目が、私とリリーの間を、忙しく往復した。


「…スティーブ」

お父様は、それ以上言う必要もなかった。

2日目も、似たような候補者ばかりであった。

始めは笑っていたリリーも、次第に暗い顔つきになっていた。


「…これは、絶望的だな」

お父様が、大きなため息を吐いた。

3日目。

「とにかくイザベラさんと結婚させてください。絶対に幸せにします」

「具体的には、どう幸せにするんですか?」


スティーブの鋭い質問に、候補者はぐっと詰まってしまった。

「…それは」

「お帰り下さい」

候補者は立ち上がったが、帰り際に一言吐き捨てた。


「…婚約破棄された売れ残りの令嬢と、誰が本気で結婚したいと思うんだ?

…現実を見ろよ…!」

「…っ!」

私が立ち上がるより先に、スティーブが椅子を蹴った。

そのまま、男の前に立ちふさがる。


「…な、何だよ。本当の事だろう」

スティーブの、握りしめた拳が震えている。

「スティーブ、やめなさい」

お父様の声に、スティーブは拳を下ろした。


この面接会は失敗だった。

その場にいた誰もが、そう思っていた。


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