第4話
ハリーは、どんよりした目をこちらに向けて、いやらしい笑いを浮かべた。
「驚くのも無理はない。僕も散々悩んだからね…しかし、僕達は、たとえどんな障害があっても、最終的には結ばれる運命なんだよ…!」
ハリーの、場所柄をわきまえない大きな声に、周囲の人々は眉をひそめている。
「ハリー、お願いだから、声をもっと小さくして」
「僕は黙らないよ。この想いのたけを、全てぶちまけるまでは…!」
放っておくと、彼は一晩中でも演説しそうな勢いである。
「ハリー、悪いけど、あなたともう一度婚約する気はないわ」
ハリーは、信じられない、といった顔で私を見た。
「…どうして?僕達、あんなに愛し合っていたよね?」
「それは昔の話よ。そして、私達の結婚への道を閉ざしたのは、ハリー、あなたよ」
私の言葉で、ハリーは殴られたようによろめいた。
「…そんな、じゃあ、僕はどうすればいいんだ…?」
「新しい婚約者を、見つける事ね」
私は素っ気なく答えた。
「きみじゃなきゃダメなんだ。せっかくレイヴンクロフト公爵家と縁が出来たのに…」
ハリーは、うっかり口を滑らせてしまったようだ。
「…そう、それがあなたの本心なのね…」
私に睨まれて、ハリーは開き直ったようだ。
「…そうだよ、公爵家との繋がりが欲しいんだ。このままじゃ僕は、一生浮かび上がれない。出世もできないからね」
ハリーは、私にすがるような眼差しを向けた。
「なあ、いいだろう?婚約破棄されたきみが、まともな結婚なんて、もう無理なんだよ。あきらめて、僕と結婚しよう」
私をその状態に追い込んだのは、一体誰だったのか。
私はドレスの陰で、拳を握りしめた。
「形だけの夫婦になって、お互い好きにやればいい。もちろん子供は産んでもらうよ、3人くらいは…」
パアーーーッン !!
大広間に、派手なビンタの音が響き渡った。
ハリーは、打たれた頬を押さえて、呆然としている。
私は、彼を睨みつけながら、怒りに震える声で言い放った。
「…もう二度と私に近寄らないで。顔も見たくない…!」
「…イ、イザベラ…」
「もし、私の家に来たりしたら、その時は、スティーブと犬をけしかけるからね。覚えておきなさい」
私はそう言うと、くるりと身を翻して、大広間を後にした。
スティーブと犬のプリンスを、同列に扱ったのはまずかったかもしれない。
それだけ私は、怒りに我を忘れていたのだ。
「…でも、すっとしたわ」
叩かれた時の、ハリーのマヌケ面を思い出すと、ひとりでに笑いが込み上げてきた。
私はくすくす笑いながら、帰宅する馬車に乗り込んだ。
帰って来て、家族にこの話をすると、怒ったスティーブがまた、外に飛び出そうとした。
「スティーブ、落ち着いて。もう終わったのよ」
「そうね。もし家に来たりしたら、どういう目に遭うか、向こうも分かっているだろうし」
それにしても、ハリーがあそこまで、落ちぶれているとは知らなかった。
「彼はあの後、出世コースから外されて、窓際に追いやられたそうです。当然、結婚相手も見つからず、現実逃避の為に、お酒をたくさん飲むようになったんでしょうね」
スティーブの説明に、みんなが納得した。
その後社交界では、ボイル伯爵の息子が、舞踏会で元婚約者にひっぱたかれた、という話題でもちきりになった。
彼は貴族としての面目を失い、実家からも絶縁されて行く所が無くなり、最終的に修道院に入ったそうだ。
「あんな甘ったれが、修道院の厳しい修行に耐えられますかね」
スティーブは呆れていたが、ハリーが俗世から姿を消してくれたことは、私にとっては大変ありがたかった。
この話をウィルにしたら、彼は目を丸くしていた。
「…すごいね。僕はきみを怒らせないように、気を付けよう」
「まあ、ウィルったら…」
彼が、私を怒らせる日が来るとは、到底思えなかった。
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