第6話 アンドレアとの結婚

 突然のプロポーズにジュリエッタはむせた。


「ジュリエッタっ!? 大丈夫か!? そこのメイドの方、彼女をさすってあげてください!」

「え!? は、はい!」


 アンドレアは客間の端で待機していたメイドに呼びかけた。

 メイドはすぐにジュリエッタに駆け寄り、指示どおり背中をさする。

 少しの間、そうしていた。アンドレアが心配そうに見つめる。


「ジュリエッタ様、ご気分は……」

「……ゴホッ。え、ええ……。少し驚いただけです。ありがとう。もう下がってよろしくてよ……」


 背中をさすられて咳が落ち着いてきた。

 メイドを下がらせて、ジュリエッタは胸をとんとん、と軽く叩いた。気を取り直してアンドレアに質問する。


「結婚……? 正気ですか」

「ああ」

「……血迷いましたか、アンドレア。あなたほどの有望な人材、見合いの話など引く手あまたでしょう。わたくしなんかではなく、もっと若くて美しい貴族令嬢のほうがお似合いですわよ……」

「嫌だ。ジュリエッタがいい。……傷心のお前に対してつけ込むような真似をしてすまない。でもどうしてもずっと諦めきれなかったんだ。今日俺は、ガキの頃の夢を叶えにきた」


 はつらつとした、真剣な声色。

 碧と赤紫色のオッドアイが、ジュリエッタをまっすぐ射抜いた。

 嘘を言っているようには見えない。

 だが。


「……あなたがよくても、ご両親やあなたのお兄様は許さないのでは? 曲がりなりにもあなたは御三家であるルピナス家の一員です」

「心配ない。すでに両親や兄には話している。そもそも俺は次男だ。放任主義で育てられたし、大人になってこうやって自立している。ある程度の自由を許されているんだ」

「……そ、そうですか」


 すでに根回しをされていたらしい。


(何かあちらの家の策略があるのでしょうか……? てんで思いつきませんが……。とはいえ、御三家同士結びつきを強くするのも、悪い話ではないはず……)


 ジュリエッタは思案する。

 両親や兄にはいらぬ迷惑をかけてしまった。ジュリエッタの行く末を彼らは案じていたので、安心させたい。

 それにアンドレアは次男とはいえ家も同格だし、今では彼は知将として国中から称賛されている英雄だ。結婚相手として申し分ないだろう。むしろ自分のような年増で、離縁歴のある女には勿体ないくらい……。

 そしてジュリエッタ自身も、食事と読書と睡眠しかしないようなこの鬱々とした日々から脱却したかった。


「……いいでしょう。謹んでお受けいたします。ここからは慣例に基づき、わたくしの父であるアクィラ家当主に必要な書簡などを送ってくださいませ」



 * * *


 

 アンドレアから結婚の申し込みをされてからはスムーズに事が及んだ。


 三か月間で両家の承諾を経て書類の手続きを行い、アンドレアの実家のあるスクルド公爵領の教会で小さな式を挙げた。参列者は互いの家族しかいないような、貴族にしてはかなりこじんまりとした式だった。

 だが、それで良かった。ジュリエッタ自身、実は豪奢なものは好きではなかったし盛大な披露宴をしてまた貴族たちの笑い者にはなりたくなかった。


 教会の祭壇には二人の男女がいる。

 人魚のようなすらっとした純白のドレスを身に包んだ黒髪の女と、同じく純白の礼服の金髪の男。


 神官の指示に従って、互いに指輪を嵌める。

 アンドレアの職種や彼の希望を考慮した指輪だ。

 控えめで小さな金剛石ダイヤモンドが一粒だけある、変色しにくい金で作られたデザイン。


(昔、アンドレアと交換した指輪みたい……)


 色こそ違うが、幼少期にままごとで使った銀鍍金メッキの指輪そっくりだった。まるで、初恋の日の再現のようだ。


「……花嫁のベールを上げ、神に誓いをしてください」

「はい」


 神官の言葉に、はっきりとアンドレアが答える。

 ジュリエッタの顔を覆う、白く薄いベールを上げた。

 金緑石アレキサンドライト紫水晶アメジスト

 二つの宝石が交わり合う。

 アンドレアの顔が近づいて、目を閉じて──ジュリエッタの唇にそっと、彼の唇が触れた。

 

(……温かかった)


 すぐに離れた。名残惜しい。

 まるで慈しみを含むかのようなそのキスを、もっと堪能したいと思ってしまった──。


 





 

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負け犬令嬢は金緑石の愛を知る 広井すに@カクヨムコン11(短編)参加中 @hiroisuni2

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