第6話 闇夜の悪夢、ディアボロス
走りながら血痕の先を追うと、工事中の商用施設が入るビルの中に続いていた。外側は防音シートで囲まれ入り口だけシートが無く、新しく取り付けたばかりと思われるガラスドアは砕け散り、ドアの上部のコンクリートの壁もえぐられていた。2mは超える何かが通った証拠だ。
相変わらず後ろの方から「待ちなさい!」と言う警官の声。
私は壊れたドアをくぐった後、「
***
『工事中で良かった……』
しかしなぜ堂々と人を襲っておきながら、逃げるように誰もいないビルに入ったのだろう。血痕は奥へ奥へと続いている。
ふと、違和感を感じる。
襲った人の返り血であれば、徐々に垂れる量は減っていくはずだ。しかし目の前に続く血痕の大きさは変わらない。いや、むしろ少しずつ多くなっているような……。
警官に撃たれたのか?いや、日本国内で民間人が密集している場所で発砲は考えにくい。
では、誰が?
一瞬、ある人物の顔が頭をよぎる。
亜音は頭を振った。
『あの人はここにはいるはずがない。自分の都合のいいように考えるな!』
一度下を向いてギュッと目を瞑り、深く息を吸いながら顔を上げ、目の前の血痕の先を睨みつけた。AKSのグリップを握る手に力を入れる。
「うわあぁぁ!!」
上の方から悲鳴が響いてきた。
血痕の続く先……吹き抜けの中央のまだ動いていないエスカレーターを駆け上がり、一気に3階まで駆け上がる。
そこでヘルメットに作業服を来た男性が倒れていた。見た感じ怪我は無さそうだ。ただ腰を抜かしているだけのようだった。
男性は私を見ずに、「あっ…、あっ…」とさらに上の階を指差している。
上を見上げると星空の中に微かに動く影が見え、すぐに消えた。工事中のエスカレーターは血痕とともにここで途切れていた。神魔は突飛でた跳躍力で上の階に跳び移ったのだろう。
周囲を見渡すと工事用に組まれた足場が目にとまった。
『カンカンカン』と音を響かせ、左手でAKSのハンドガードを、右手で手摺りを掴みながら一気に駆け上がる。
上の方に防音シートの端が見えた。もうすぐ最上階。一度歩みを停め、神魔の反応を確かめる。
いた。
覚えたての魔術が役に立った。だがまだ全然慣れていない。集中しなければ全く感知出来ない。ただ、方向だけは分かる。
ゆっくりと足場の影からミラーを出して、感知した方向を確認する。
『パァン!パァン!』
何かが弾け飛ぶような音。
私が見た先には、頭部が吹き飛びゆっくりと倒れていく神魔が……。
「神魔が……撃たれた……」
もう一度ミラーでゆっくりと確認する。神魔が倒れた方向から考えると、スナイパーは西側から撃った事になる。
ちょうど大型のエアコンの室外機が壁になり、死角が出来る。私は走って室外機にぶつかるように背中を付けた。
風が強い。辺りもだいぶ暗くなってきた。
私の正面、東側。神魔の死骸の向こうに見える街には、駅前に広がる大型デパートが見える。“代々木駅北 大丸百貨店”、通称“北大丸”の大きな店の名前のネオンが煌々と輝いている。
そのままゆっくりと西側に壁が出来るようにしながら倒れた神魔に近付く。
『頭部と腹部に一発ずつ。プロだ』
目の前に転がった神魔の死骸をじっと見る。弾丸は頭部は貫通し、腹部はめり込んだままのようだ。SATか、どこかの国の傭兵か…。
『せめて、弾頭だけでも確認出来れば』そう思い、神魔に向けて右手のひらを掲げ、覚えたての魔術を試す。
「神よ、この不浄の大地から昇華され給え」
…………。
徐々に神魔の死骸は足元から崩れ落ち、光の粒になって夜の闇の中に霧散していった。
『うまくいった』
死骸の腹部の辺りに銀色に輝く塊が見える。私はAKSのスリングベルトを外し、輪っかになった部分を投げてその銀の塊を手繰り寄せた。
***
銀色の弾丸は潰れておらず、綺麗な円錐形を保っていた。そして、何か刻印のような物……。
その時、『グオォォ!!』と咆哮が木霊した。
ハッと我に返り顔を上げると、先ほど私が上がってきた階段の近くに3体の神魔。
しまった!注意が散漫になっていた。
スナイパーの事は一旦忘れ、今は目の前の敵を倒す事だけ考える。AKSを構えると3体とも顔面を守った。
『こいつら、学習能力を共有しているのか』
すぐに銃口を下に向け、一番近くにいた神魔の腿を撃ち抜いた。
弾は命中したが、神魔は構わずに突き進んできた。そのままセミオートで腹部を撃つ。10発撃ったところでようやく倒れ込みうずくまった。そして頭部を狙うが、今度は後方にいた別の神魔が跳び越えて前に出てきた。
『陣形を組んでいるのか?』
2体目のヤツも腕を十字にクロスさせ、顔面を守ったまま突っ込んでくる。
AKSのセレクターをフルオートにして、ホールドストップするまで腕の隙間と関節を狙って撃ち続けた。膝と足首が砕けてようやく倒れ動かなくなった。素早くマガジンを交換し、始めの1体にも弾丸を浴びせる。
2体とも、完全に沈黙した。
『もう1体は……いない!?』
背中からゾワッとした気配。
知らぬ間に、私が壁にしていた室外機の上に3体目のヤツが跳び乗っていた。まさか、始めの2体は囮役で本命はコイツ。
狙っている余裕はない。フルオートでトリガーを引き、乱射しながら振り向く。だが……。
『パァン!!』
またスナイパーの銃声。
目の前が真っ赤になった。くそっ、返り血を顔面にモロに浴びてしまった。すぐにコートの裾で顔を拭う。
『ズズン……』
私の隣に砂埃が舞った。頭部の無い神魔が絶命して落ちてきたのだ。
***
室外機に背を預け、へたり込んで目を閉じた。
疲れた。精神的にも体力的にも。
さっき拾った銀色の弾丸を何気なく見る。
『
忘れるわけがない。
姉さんが使っていた悪魔退治の弾丸。助けてくれたのかな……頭がぼうっとして働かない。
『パァン、パァン……』
再度発砲音が夜空に響く。
今度は私のいる屋上を越え、東の方に着弾したようだ。北大丸百貨店の照明の一部に命中して破裂した。私はぼうっとした頭のまま百貨店のネオンサインを眺めていた。
弾丸は、“KITA DAIMARU”と並んだネオンの“KI”の部分に命中して消灯させた。
『パァン、パァン……』
続けて発砲音。
今度は、“KITA DAIMARU”の最後の、“RU”の部分が消灯した。
“••TA DAIMA••”
…………“タ ダイマ”
ふいに涙が溢れてきた。
「まったく、キザな事してくれるじゃないのよ」
鼻をすすりながら呟いた。
『パン!』
今度は私のいる屋上の立て看板に着弾。
弾丸は発煙筒のように発光して火花を散らす特殊弾丸。そして着弾した看板の工事業者向けに書かれたメッセージが、煌々と照らし出された。
“お疲れ様でした。気をつけてお帰り下さい”
ミリオタJKとポンコツスナイパーⅤ ~新章~ アルミ@(あるみあっと) @arumi-at
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