第5話 迷走、そして襲撃
亜音は焦っていた。
帰宅後、神魔を察知する魔術を探す為にすぐに魔導書を開く。
30分ほどしてページを捲る手が止まった。
あった。神聖なる魔物を探る力。探知出来る範囲までは分からない。だが、出来る出来ないでは全く違うはずだ。
亜音は一通りその前後も含む神魔に関する魔術に目を通した。そして目を瞑り天井を仰ぎ「ふぅ」と一呼吸置いて考える。
神魔が出てきたということは、そもそも召喚を行った人物がいるという事。もう私の居場所は知られているかも知れない。さっきの戦いも、召喚した本人が近くにいたかも知れない。
まっすぐ家に帰ってきてしまったが、失敗だったか……。いや、魔術で姿を消していたから大丈夫なはず……。
色々なことが頭の中でごちゃ混ぜになる。
『ピー、ピー、ピー、』
電子レンジから間の抜けた音が響き、冷凍の海老グラタンが出来上がったことを知らせた。
悩んでいても腹は減る。
いつもどおり、1人きりの「いただきます」を言って、コップに注いだ野菜ジュースと一緒に夕飯を準備しながらテレビを付けた。
『本日午後16時頃、東京都渋谷区恵比寿の路上で女性の部分遺体が発見されました。遺体の損傷は激しく、警察は身元を調べるとともに犯人の行方を追っています。現場付近では、大型の動物と思われる影を見た、と住人からの通報があり、遺体と何らかの関連が……』
時計を見る。
今はPM17:12。
女性が襲われたのは私が神魔を倒して家に向かっていた頃だ。それに場所も全然違う。複数体召喚されていたのか……。
「くそっ!」
震える足の腿を拳で叩いた。
「ビビってる場合じゃないわよ。間宮亜音!」
1人呟き自分を鼓舞する。
今まで幾度となく魔術師や悪人は殺してきた。しかし、神魔相手は初めてだった。
亜音には、かつて召喚された神魔に取り憑かれた経験がある。そして、それが原因で親友を死なせてしまったことが……
「だから、私がやらないと」
私服に着替える。
昼間の一匹は倒した。そう、銃で倒せる事は分かった。だからこそ、やれる。
380オートにサプレッサーは付けず脇のホルスターに仕舞う。AKS74Uはスコープでは無く小型のオープンタイプのドットサイトを装着し、短めに調整した1ポイントスリングをショルダーに掛けてから、くるりと背中に回して密着させる。
腰に巻いたタクティカルベルトには、コルトの予備マガジンが4本、AKS用が2本。
その上からブラックレザーのロングコートを羽織り、ベルトを片リボン結びにして前を隠す。これで完全に武器類は見えなくなった。
一度深呼吸してから家のドアノブに手をかけた。
そして心の中で呟く。
『行ってきます。姉さん』
***
神魔反応……全く分からない。
近くにいないのか、探知魔術のページを間違えたのか、もしくは召喚師がすでに
電車で一駅、恵比寿まで来たのだが、ニュースでやっていた襲撃が起こったと思われる箇所には規制線が張られ、3人の警察官が後ろに腕を組んで立っていた。
ここにはもうヤツはいないだろう。怪しまれないように、立ち止まることなく歩調も変えずに通り過ぎる。
周辺の路地裏を虱潰しに歩き回ろうとする、が、何処もかしこも警官だらけだ。下手に声をかけられたら言い訳する術がない。
“
意気込んでやってきたのはいいが、冷静に考えれば分かったはずだ。このまま
『少し冷静にならないと…』
そのまま警官のいない道を選び、何とは無しに隣の渋谷駅まで歩く。
***
スマートフォンでSNSの書き込みを検索する。
“恵比寿”、“事件”、“ヤバい”
『17:12 恵比寿の事件でメチャ電車遅れてる。警察多過ぎでヤバ杉』
『17:55 同僚がビルの上にでっかい影見たって。恵比寿の事件と関係ある?』
『18:12 109の上になんかいるみたい #渋谷 #事件』
『18:15 109に来た(・∀・)。屋上にでっかいクマみたいのがおるわ。遠くて撮れん』
『18:16 マルキュー入れん。警察来てる。ヤバ』
渋谷の109?もう次の現場に現れた?
まずは行くしかない。
「目黒、恵比寿、渋谷……」
彼女は静かにつぶやいた。そしてスマートフォンで地図を調べる。もう渋谷は近づけない。次に襲うのは……。
恵比寿駅へ戻り、代々木駅行きの電車に乗った。
電車に揺られながらSNSの書き込みをチェックする。ヤツはビルの上を跳び移ったり、路上を走ったり……。だが被害者は出ていないようだ。恵比寿の事件もあってか、警察がすぐに応援に駆けつけたらしい。
そして私の狙い通り、新宿方面に北上している。
書き込みの更新が一旦なくなった。
最後の書き込みは、
『18:31 代々木公園に入ってったっぽ!』
ホッと胸を撫で下ろす。原宿駅前は通らなかったようだ。それにこのペースなら間に合う。
***
『いた!』
PM18:42。
代々木駅を出てすぐ、明らかに魔術師とは違う気配を感じた。
その直後、「きゃぁぁぁぁ!!」という悲鳴がすぐ近くの路上から響いてきた。続いて、「助けてくれ!」「バケモノ!」と。
代々木公園から明治神宮を抜けて街に入ってきたか。まずい。が、もう一線を越えるしかない。
ここで足留めしなければ、新宿の高層ビル街に入ったら被害が大きくなる。
私はコートのリボンを解く。スリングを引き回して、背中からAKSを取り出した。近くにいた通行人たちが、「え?」と私に注目する。
明らかな異常挙動を起こせば、“
今の私は、多くの人が往来する代々木駅前で、アサルトライフルを構えた完全な異常者だ。
急いで悲鳴の聞こえた方に向かって走る。逃げる人々と反対側へ。人波に流されそうになりながらも進むと、ようやく人波が途絶えて交差点に出た。「うっ」と、思わず声が出た。
信号待ちの人を襲ったのか、歩行者用信号機の据え付けられたポールとその周辺の歩道のブロックが、大量のトマトをぶち撒けたように真っ赤に染まっていた。
歩行者用信号機には、女性の頭皮と思われる部位がへばり付き、血でまとまった長い髪が垂れ下がっていた。
周囲を見回すと、数台の車のルーフがベッコリと凹んで停まっている。さらに血痕も。
「おい!きみ!」
背後から声。警官か……。
私は警官の声を無視して、停まっている車と血痕の続く先へ走り出した。
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