第2話 その者、魔術師を銃で狩る
少女は週に2,3日程度の割合で、まっすぐ帰宅しない日がある。
普段と同じ通学路の帰宅途中、不意にいつもの住宅地から商店街を抜け、工場地帯へと向かって歩調を変えずにゆっくりと歩いていく。
活気のある比較的新しい工場地帯では、大型トラックやフォークリフトが絶え間なく動き回っている。やがてそこから500mほど進み、首都高速の高架をくぐり抜けると辺りの雰囲気は一変する。作業用機械の半分も稼働していないような、トタン屋根と隙間だらけの波板の壁で出来た工場。時々、半透明の壁から火花が散っている中の様子が伺える。首都高速にはひっきりなしに大型トラックが往来しており、その音と混ざり合っていっそう喧しさが増す。
そんな古い工場地帯を抜けてさらに進む。
資材置き場と倉庫、廃工場だけの地域。錆の臭いとホコリ、風の吹き抜ける音しか聞こえない。
ここには、街頭の防犯カメラは数えるほどしかなく、彼女はそのすべての位置を把握していた。
周囲はみるみるうちに
途中途中で、少女は鞄からコンパクトミラーを取り出して前髪を直すフリをしながら、後ろを確認して歩く。見ると、彼女の背後に長身の真っ黒な影が1人、等距離で着いてくるのが見えた。
その人物は、身長が180cmは優に超えそうな長身の細長い体型。頭から黒いローブをすっぽり被った、如何にも魔術師や魔女と言った格好だ。それに対してさらに異常を感じさせたのは周囲の様子。こんなコスプレじみた服装の人物がいるというのに、商店街からここに来るまで、誰1人として見向きもしない。
『多様化』などと言う言葉では済ませられるレベルではない。本当に姿が見えていないようだ。
少女は特に気にするでもなく、無表情のままミラーを鞄にしまった。やがて目の前には解体途中の2階建ての廃工場が迫る。そしてそのまま中に入っていった。
***
少女は建物の中に入るとすぐに鞄をその場に置き、奥の方に向かって走りだした。
不意を突かれて一瞬戸惑ったようだが、黒い影も急いで少女を追い掛けて走り出した。すでに少女は奥の別の部屋の入り口を通り抜けていた。
影は少女を追って入り口をくぐり周囲を見回す。
しかし少女の姿は何処にもない。
黒い影は両手のひらをうえに上げ、小声でボソボソと何か詠唱を始めた。
『……
すると突然、両手の上にサッカーボール大の炎の塊が現れた。薄暗い廃工場の中が炎の塊によって明るく照らし出される。その時、正面の割れたガラス窓に、黒い影の背後にいつの間にか回り込んでいた少女の姿が浮かんだ。
振り向きざまに黒い影は叫ぶ。
『……
パスッ!パスッ!
空気が抜けるような音。それとともに、黒い影は炎塊を掲げたまま頭部と腹部から真っ赤な血液を吹き出し膝から倒れた。
少女はすぐに小声で「無に
倒れた影を、暫く銃を構えて見据える少女。
1分ほど待ち、完全に絶命したことを確認してから、少女は手元のコルトからサプレッサーを反時計回りに回し取り外した。
銃口からは、微かにまだ青白い硝煙が上がっていた。軽く『フッ』と息で吹き消し、そのままホルスターに仕舞い、入ってきた工場の入り口に向かって歩く。
はじめに置いた鞄を拾い上げ、軽く地面のホコリを払ってから中にサプレッサーを仕舞い、香水を取り出した。
左手の甲にワンプッシュ。それを両手の甲で広げてから手櫛で髪を軽くとかす。長い黒髪を振ると、ほのかにアンバー系の香りが漂った。
少女は来た道を戻り、何事もなかったかのように商店街のスーパーに寄り総菜コーナーでパスタとサラダ、食パン、パックの野菜ジュースを買う。
ふと、お菓子コーナーで立ち止まった。彼女の目線の先には、猫の人形が入ったお菓子の箱。
結局お菓子を手に取ることは無く、すぐに踵を返してレジに向かった。
***
PM18:00。
誰もいない家の玄関前で小さく呟く。
「門を開放せよ」。そして鍵を取り出して2つのキーシリンダーを解錠する。
返事のない「ただいま」。
そして、1人きりの「いただきます」。
シャワーを浴びる前、ホルスターからコルトを取り出し、使った分の弾丸を補充する。
シャワーを浴び終え、テレビでニュースを流しながら1階の戸締りを確認し、2階の自室へ上がる。少女の自室の隣の空き部屋に向かって「おやすみ、姉さん」と囁き、彼女の1日が終わった。
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