放課後、戦争開始ノ合図

「初日の授業はどうだったよ君達。つまんないでしょー。拍子抜けしたでしょー。」


帰りのHR。この北村先生の言葉には賛同する者が多かった。無論俺もその一人。綾目の方を見るとどうやらそうは思っていないらしい、満面の笑みを浮かべている……この人こんな顔するんだ。


「さて、早速今日から戦争始まる。今から配るプリントに君達の配置が書いてあるからチャイム鳴ったらすぐそこに行くように」


プリントが回ってきて確認をする。俺は5班だった。場所や校則を今一度確認していると、腕に何かが触れる感触があったため、そちらを見ると潤んだ目で綾目が俺を見ていた。


「おれ、しみずと違う班じゃん!しみずと同じが良かった!サイアク!」


俺の腕を掴みながらそんなことを訴えてきた。否、そこまで云ってくれるのは正直嬉しい(勿論これは本人に云う訳がない)のだが、俺に云われてもどうすることも出来ないのだから素直に諦めてほしい。

目立ってて周りの人に見られてるからちょっと恥ずかしいから、さっさとこのモードを終わらせようと頭を撫でていた。


「もうチャイム鳴るぞ。あっちは今日から早速動き出すと思うけど頑張れよ。」


そう云った先生が教室から出ていくと同時にチャイムが鳴った。

戦争の始まりだ。

教室が一気に静まり返った。誰かが唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。手が少しずつ冷えていくのを感じる。本来ならこのチャイムは何てことない終わりを告げる合図なのだろう。だが俺達にとっては御伽戦争学園という小さなハコの中で行われる戦争開始の合図なのだ。

続々と教室から人が出ていく。


「じゃあしみずまたね!無理はすんなよ!」


綾目も早々に出ていった。周りの人達がどんどんと目的へ向かう中俺は動けずにいた。

あの時と、同じ。

ふと入学式の時の事を思い出した──そういえばあの時も俺は動けなかった。けど楓さんが背中を押してくれたんだ。だけどもう楓さんはいない。そうだ、俺が決めたんだ。俺が、前を向かなきゃ。

そうしてゆっくりと歩き始めた。




5班の集合場所の建物内。プリントにはA地区と書かれていた。数名の一年生が立って集合を待っていた。ここが一番一年生が少なく、先輩達が多く配属されている。俺も他の一年と同じ様に立って待っていた。辺りを見渡すと制服とはまた違った服を着た先輩達が慌ただしく行き交っていた。


「揃ったか、一年生。」


男性の先輩から奥から一人出てきた。耳に青い薔薇のピアスをしている──そういえば、薔薇をどこかで見た。上手く思い出せず、ずっと悩んでいたら先輩が話始めた。


「俺、二年の鏡薫かがみかおる。5班の副班長をしてる。すまんな、ここが一番忙しくてな。今日も人手がいる。本来なら訓練とかする予定なのだが……許してくれ」


鏡、とは楓さんの名字と同じだ。もしかして兄妹なのだろうか。否、それなら同じ部隊に所属してても可笑しくないはず。


「早速だが一年。お前ら先輩と一人一人ペアを組んで訓練等を行う。今からバッチとペアの先輩の名前と場所伝えるから名前呼ばれた人から順番に取りに来い。」


次々に名前を呼ばれ移動していく一年生を見ながら俺は順番を待っていた。だが頭の中には常に兄妹なのかという問いが回っていた。


「次、清水飛鳥!」

「は、はい!」


すっかり問いに集中していたらしい、名前を呼ばれて急に現実に引き戻され、思わず大きな声が出た。

慌てて先輩の所へ向かう。


「これがバッチ、で、お前のペアだが俺だ。着いてこい。」

「はい!」


……はい?

バッチを貰った嬉しさより疑問が少々勝ってしまった。だってこの先輩、副班長なんだろ、俺を教育してる暇なんてあるのか。それに本当に楓さんの兄だったりしたら……少し、気まずい。


「飛鳥って呼んでも良いか?俺の事は好きに呼んでもらって構わない。」

「大丈夫です。じ、じゃあ薫先輩と呼ばせて頂きます。よろしくお願いします。」

「嗚呼、よろしく」


その後───沈黙続く。薫先輩の顔を見ても最初と何も変わらない顔をしていた。気まずい。特にどっちから会話を振る、ということも無く目的の場所に着いたらしい、立ち止まった。窓が広く、中々に開放的な場所だ。


「さて、ここの技術はな、ちょっと卓逸してるんだ。バッチを制服に着けてそれ押してみろ。」


云われた通りにすると目の前に急にモニターの様なものが写し出された。近未来的なそれに、驚いた。


「出席、ってボタンあるだろ。それ押せ。そしたら始まりだ。」


そうして目の前のモニターにある出席というボタンを押す。すると、だ。急にモニターの画面に『ようこそ、清水飛鳥。』と写し出され、俺の服装が変わった。先輩達が着ている服と同じ。

服を着替えたら、始まった実感がようやく湧いてきた。俺、これから大丈夫だろうか。もう、戻れないのだろうか。

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