第25話 将としてか子としてか

(……ん?)


鬼の形相でこちらへ迫るセイカの存在に、ザイファも気づいた。

返り血を全身に浴び、無言で歩み寄るその姿は、人というよりも修羅そのものだった。


「ジーファの将、ザイファだな」


「ああ、そうだが……お前は?」


「カンジュのセイカ軍、大将軍セイカだ」


戦場には無数の呻き声と悲鳴が渦巻いているというのに、

二人の将軍の間だけは、異様なほどの静寂が流れていた。


「ふっ……敵討ちか」


ザイファが、嘲るように笑う。


「敵討ち……そうかもしれん。

だが、お前を討ち取れば戦況は一変する。

今の俺は、カンジュの将としてお前を討つ」


いつもふんぞり返っていた下衆な父ダリンとは違う。

その倅ザイファは、言葉少なに剣を構え、まっすぐセイカを見据えた。


(敵討ちなどと考えるな。

今はただ、将としての務めを果たせ)


一瞬、目を閉じる。

そして、次の瞬間-----


剣と剣が、激しく噛み合った。


鋼が打ち合う音が、戦場に鋭く響き渡る。


(この男……父親とは違う。強い……!)


互いに斬り結び、間合いを詰め、退き、また斬り込む。

その刹那――


ザイファの剣が、セイカの胸元を深くえぐった。


「……っ!」


激痛に、思わず声が漏れる。


(死んでなるものか……!

ユイを……皆を連れて、必ず城へ帰る!)


「ザイファァァァーー!」


怒号とともに、セイカは渾身の力で斬りかかった。


(……やはり、よく似ている。

母を殺した、あの男に……)


噴き出す血の中で、過去の記憶が脳裏をよぎる。

母を奪われ、父を失い、弟と二人で生き抜いてきた日々-----。


「死ねぇぇぇぇーー!」


振り下ろされた剣は、迷いなくザイファの心の臓を貫いた。


ザイファは、その場に崩れ落ち、即死だった。


ジーファの将が討たれた瞬間、戦況は一気に傾いた。

もはやジーファに勝利はなく、カンジュが奇跡的な勝利を収めたのだ。


地獄の底にいた兵士たちは息を吹き返し、

残る敵兵を次々と討ち取っていく。


「セイカ軍、万歳!」


「セイカ様、万歳!」


歓喜の声は、戦場を駆け抜け、

左翼から攻めていたユイの耳にも、はっきりと届いた。


(兄様……!

ジーファの将軍を討ち取ったんだ……!)


胸が震える。


(早く……早く、兄様の元へ!)


だが、まだ敵の残党が立ちはだかる。

焦る気持ちを押し殺しながら、ユイは剣を振るい続けた。


(兄様……兄様……!)


ただ一人、愛する兄の姿だけを思い浮かべ、

狂ったように敵兵を斬り伏せていく。


(早く……早く、会いたい……)

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