第23話 離れていたくない

先の見合いの席での一連の出来事により、

セイカはカンジュ王の怒りを買っていた。


いかにカンジュにとって比類なき将軍であろうとも、

あの場で王の面目を潰した事実は覆らない。

王権とは、誇りであり、威信であり、何よりも“示さねばならぬ力”だった。


そして-----

その代償は、戦場という形で下された。


セイカ軍が戦地へ辿り着いた時、

すでにカンジュの軍勢は崩壊寸前であった。


血と泥、折れた槍、転がる屍。

悲鳴と怒号が入り混じるその光景は、

セイカがこれまで見てきたどの戦よりも苛烈で、

まさに地獄そのものだった。


(……今までで、最も過酷な戦になるだろう)


胸の奥が、重く軋む。


(ユイ……絶対に死ぬでない。

部下たちも……誰一人として、無駄死にさせたくない……)


だが、この戦場に立った瞬間、

多くの犠牲が出ることは、もはや避けられぬと悟っていた。


セイカは一番の側近、サルビを呼び寄せる。


「サルビ。お前の部隊は右から攻めよ」


「はっ!」


(右はサルビに任せた。

ならば……左は-----)


「ユイ。お前たちは左から行け」


「兄様!

俺は、兄様と一緒にいます!」


即座に返ってきた言葉に、セイカは眉をひそめる。


「ユイ……分かっているだろう。

お前の武が必要だ。

俺は中央を行く。お前は左だ」


「嫌だ!」


強い拒絶。

一瞬、戦場の喧騒が遠のいたかのような沈黙が流れる。


「ユイ。

……これは、命令だ」


しばしの間の後、

ユイは唇を噛みしめ、静かに頷いた。


「……わかりました。

兄様、どうか……どうかご無事で」


部下を率い、馬を走らせようとしたその時-----


「ユイ!

無茶だけは、絶対にするな!」


呼び止める声に、ユイは振り返る。


険しい将軍の表情が、

ほんの一瞬だけ、兄の顔に戻っていた。

心配と愛情を宿した、優しい微笑み。


-----まだ、見ていたかった。


だが馬は左へと向かい、

男らしく美しいセイカの姿は、次第に小さくなっていく。


(兄様……!

どうか……どうか無事でいて……!)


涙が溢れそうになるのを必死に堪え、

ユイは左翼から戦の渦へと飛び込んだ。


「ユイ部隊!

突撃だ!」


剣が閃き、血が舞う。


ユイは斬って、斬って、斬り続けた。


(早く……早く兄様のもとへ戻りたい……!)


部隊の将も兵も、いずれも屈強な猛者揃いだった。

だがユイは、その中でも異様なほどの強さを見せていた。


何十人もの敵兵を、

まるで道を切り開くかのように斬り伏せていく。


その時-----


「ほう……お前か。

兄弟で愛し合っているというのは……」


卑しい笑みを浮かべた男が、ユイの前に立ちはだかる。


「お前は弟の方だな?

カンレイの宝石に生き写しだと聞く。

どれ……その兜を取ってみせよ」


男は舌なめずりをし、続けた。


「お前の兄を殺し、

次はワシが‥」


ドスッ。


言葉を言い切る前に、

男の首は宙を舞っていた。


「……汚い」


ユイは吐き捨てるように呟く。


(まだだ……!

まだ敵が多すぎる……!

早く……早く……!)


どれほどの敵を斬ったのか、

もはや数えることもできない。


今までにないほどの激しさで、

ユイはただ前へ、前へと剣を振るい続けていた。

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