第9話 愛する者のために

一日半ほどかかっただろうか。ケイシが城へ戻ると、城門の前には無惨に倒れた兵士たちが散らばり、全身から汗が噴き出し、ブルブルと自分でも震えるのがわかった。


城内に入ると、なんとか生き残った者たちが地べたに頭をつけ、嗚咽を漏らして泣き崩れていた。


「殿、殿、お許しを……」


「リーシは、リーシはどこだ!」


「ダリンが……連れ去り、何人かで追跡しましたが……殿……」


ケイシの頭の中で、無数の考えが渦巻いた。


「父様ー!父様ー!」


泣きじゃくるセイカが駆け寄り、ケイシに抱きついた。


「父様ー、母様がー、母様がー」


「大丈夫だ。父様が今から母様を助けに行く」


涙でぐしゃぐしゃな顔でセイカは言った


「私も行きます!母様を助けに行きます!」


ケイシはしゃがみ込み、セイカと目線を合わせた。


「お前はここで弟を守るのが仕事だ。よいな?」


「……はい。わかりました、父様。必ず母様を連れて帰ってくださいね」


「もちろんだ」


近くで赤子のユイを抱く侍女から、当時の状況を聞き出す。

リーシが子供たちと侍女を守るため、身を犠牲にしたことを知った瞬間、ケイシの怒りは沸点を超えた。


(あの下衆め!普通の殺し方では許さぬ……!)


「ケイシ軍!ジーファのダリンを追え!我が妻を奪還するため、全身全霊で突撃だ!」


「おお!」


馬の跡を追いながら進む。ジーファ国の地は広く、馬の脚で一月はかかるというが、ケイシの心にはただ一点、リーシの存在しかなかった。


(リーシ、リーシ、リーシ!我が最愛の妻よ……俺がいなかったために、すまない。今、助けに行く……!)


ほどなくして、怪しい茂みを見つけた。隠れるにはうってつけの場所だった。


ケイシはバッと手で静止の合図を送る。


「ここにいる……」


ケイシの胸に、最愛の妻の悲痛な叫びが響いた。

不気味な静けさが一瞬漂い、次の瞬間、ケイシは叫んだ。


「突撃だー!」


茂みの奥には、やはりダリンと配下たちがいた。そして、縄で括られたリーシの姿。


「リーシ!」


「あなた……!」


圧倒的な兵力差と、鬼と化したケイシの姿を見て、ダリンは敗北を瞬時に悟った。


「わしはここまでか!ウワハッハ!ならばお前も連れていき、とうとうわしのものにする!」


ダリンは、狂気じみた笑みと共に、リーシの腹を深く刺した。


「あ、ああ!あー!ああー!」


ケイシの狂った叫び声が響く


ケイシは下馬し、フラフラと足をもつれさせながらも、何度も倒れそうになりながら、リーシの元へ駆け寄った。


「あ、あ、ああー、リーシ、リーシ!」


ダリンのことなど、もはや頭にはなかった。

ダリンの首は、側近の一閃で切り落とされていた。


声にならぬ嗚咽を漏らし、口を大きく開けて泣き崩れるケイシ。

リーシは即死だった。最愛の夫に最後の言葉を交わすことも、叶わなかった。


ケイシは、リーシを抱きしめ、ただただ嗚咽をあげ続ける。

ケイシ軍一同、皆が泣き崩れた。


カンレイの宝石、カンジュの宝石‥リーシは、すべての者に優しく、心を尽くしていた。

そして今、我が主の姿を目の当たりにし、誰一人悲しまぬ者はいなかった。


「殿……リーシ様が寒がっておられます。早く城へ……」


涙を堪えながら側近が告げる。

気が触れたかのように、ケイシはずっとリーシを抱き抱え、ユラユラと揺らし続けていた。


「殿!リーシ様が城へ帰りたいと言っておいでです!」


その言葉で、ようやくハッとする。

側近にリーシの身体を預け、フラフラしながら馬に乗る。

リーシを再び腕に包むと大切に大切に抱きかかえ、城へと帰還するケイシ‥

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