第8話 胸が引き裂かれる

ダリンの襲撃から逃れたケイシの配下が、早馬を駆って急ぎケイシの元へ向かった。

休む間もなく二日ほどをかけて到着したその顔は、真っ青にこわばり、目からは止めどなく涙があふれていた。


「殿!殿!」


ケイシは、その光景を見ただけで、ただならぬ事態であることを察した。

身体が凍りつき、頭の中であらゆる可能性が一瞬にして駆け巡る。


まず側近の武将が口を開いた。


「なにごとか!これからいよいよ戦場へ向かうところだ!」


「は、はい、それは……それは承知しております、ですが……リーシ様が……さらわれました!」


「いま、なんと……?」


ケイシは瞬き一つせず、その言葉を受け止めた。


(リーシが……さらわれただと……?)


城内には信頼できる側近たちも何人か置いてきた。

それでも、わずかの間に何が起こったのか、頭の中で考えが渦巻いた。

時間が止まったように思えた。


「誰にだ!」


ケイシの瞳に、怒りと憎悪の血柱が立つ。


「ジーファ国のダリンです!」


(前にも一度、リーシを狙い失敗した、あの下衆か……!)


「ケイシ軍、全軍城へ戻れ!」


叫ぶより早く、ケイシはすでに馬の鞭を打ち、城へと駆け出していた。


戦など、今の彼にとってはもはやどうでもよかった。

リーシが全てであり、生きる意味そのものだった。

もちろん二人の子も愛していたが、ケイシの中心にあるのは、リーシ。ただリーシへの愛だった。


ケイシの側近や兵士たちもまた、彼を尊敬し、愛するリーシのことを知っていた。

その美貌だけでなく、心の美しくもある彼女を守るために、全員が死に物狂いで馬を駆った。


大地を蹴る蹄の音が、嵐のように響き渡る-----

ケイシ軍の全員が、愛する者のもとへ、命を賭けて突き進んだ

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