第2話 宝石を求めし武将

時は三十年前-----

カンレイ全土は、終わりなき戦乱のただ中にあった。


その混沌の時代において、ひときわ強大な力を誇っていた国が二つある。

一つは、軍事と富で他国を圧倒する強国レンニー。

そしてもう一つが、近年急速に力を伸ばし、レンニーと一二を争うまでに至ったカンジュ国であった。


そのレンニー王宮の玉座の前。

冷たい石床に膝をつき、深く頭を垂れる一人の男がいた。


男の名はケイシ。

カンジュ国最強と謳われる武将-----

そして後に、セイカとユイという二人の運命を生む父である。


玉座に座すレンニー王が、低く静かな声で問いかけた。


「……カンジュの最強武将が、何の用だ」


その一言に、広間の空気が張りつめる。

ケイシは顔を上げ、覚悟を宿した真っ直ぐな眼差しで王を見据えた。


「レンニー王。本日は、ひとつお願いがあり参りました」


王の視線が鋭くなる。


「申せ」


「レンニーの亡き大将軍ザッハ殿。その未亡人リーシ様に、婚姻の申し出をさせていただきたく存じます」


一瞬の静寂。

次の瞬間-----


「なに……?」


レンニー王の声と同時に、広間に集う重臣たちがどよめいた。


「正気か、ケイシ!」

「リーシ様だと……!」


レンニー王は玉座から身を乗り出し、怒気を含んだ声を放つ。


「お前は、自分が何を口にしているのか分かっているのか。

リーシはレンニーの宝石、いや、カンレイ全土の宝石と称される女だ。

そのリーシを、レンニーが手放すとでも思うか!」


その威圧にも、ケイシは一歩も引かなかった。


「ザッハ大将軍の葬儀の折、初めてお姿を拝見しました。

その瞬間から……私は、リーシ様に心を奪われました」


重臣たちが息を呑む。


「私の妻は、リーシ様以外には考えられません。

どのような代償を払おうとも、私は必ずリーシ様を迎え入れたい」


「……代償、だと?」


レンニー王はしばし沈黙し、やがて低く問い返した。


「そなたの言う“犠牲”とは、何だ?」


ケイシは一瞬も迷わなかった。


「私とリーシ様が婚姻を結んだ暁には、

カンジュ国は今後一切、レンニーに刃を向けることはありません。

無論、この決断については、すでにカンジュ国王の了承も得ております」


ざわめきが、さらに大きくなる。


カンジュ国は、すでにケイシの武力と人望によって、レンニーに匹敵するほどの強国へと成長していた。

そのカンジュが永遠の不可侵を誓う-----

それがどれほどの意味を持つか、誰の目にも明らかだった。


カンジュ王にとっても、ケイシの願いを退けることはできなかった。

そして何より、「カンレイの宝石」と称されるリーシを迎え入れることは、国としての誇りでもあった。


レンニー王は深く息をつき、静かに口を開いた。


「……そうか。

それはまた、随分と思い切った決断をしたものだな、ケイシ」


しばしの沈黙の後、王は言葉を続けた。


「よかろう。

だがな‥たとえ夫を失った未亡人とはいえ、リーシはレンニーの姫。

我が国の誇りであり、宝だ」


王の視線が鋭くなる。


「すべては、リーシ本人の気持ち次第としよう」


ケイシは深く頭を下げた。


「はっ!

寛大なるお言葉、心より感謝いたします!」


こうして-----

武将ケイシと、カンレイの宝石リーシ。

二人の見合いは、歴史の歯車に静かに組み込まれていく。


やがて生まれる二人の子が、

愛と死と運命に翻弄されることを-----

この時、誰一人として知る由もなかった。

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