第3話
悠莉は緊張の面持ちで、ダンジョン庁の作戦会議室の前に立っていた。
白い観音開きの扉が、鋼鉄の扉よりも重く見えた。
3回ノックしてから入室する。
「本日付けで第16分隊に配属になりました、武智悠莉です」
悠莉はピシッと敬礼を決めて挨拶をする。
会議室には若い面々が揃っていた。悠莉と同じ、ダンジョン庁の養成所を卒業してきた新入りだ。
「……!」
悠莉は、その中でひときわ目を引く存在を見つける。教官たちに並んで座っている少し暗い雰囲気の男。
落合光だ。
(彼が……この時代を作ったスキルの持ち主)
悠莉は指定された席に着き、入隊式が始まるのを待つ。
誰もが静かに待つ中、背後から肩を叩かれる。
「よっ、クソ真面目くん。さっきの敬礼、格好良かったぜ。形だけは満点だな」
悠莉が横目でチラリと見ると、話しかけてきたのは軽薄そうな長髪の男だった。
「そいつはどうも。一番最初に出世していく男の名前だ。覚えといて損はないと思うよ」
「言うねえ。気に入ったよ」
男はケラケラ笑いながら手を差し出す。
「俺は織田
眉をひそめながら悠莉は一之輔と握手をする。手を握った瞬間、柔らかな感触と共に空気の抜ける汚い音が会議室に響く。
「引っかかったな〜。ブーブークッションだよ〜ん。あはははは!」
一之輔は楽しそうに笑う。悠莉はそんな彼の姿を見て毒気を抜かれてしまう。
「あんた、ずいぶん楽しそうだな」
「ははは……あ? そりゃ、人生楽しまないとな」
「俺たちは死にに行く軍隊だぞ」
ふたりの軽口を聞いていた周囲の空気が、ピリッとひりつくのを肌で感じる。
「わかってるよ。俺は好きに生きて面白おかしく死ぬ。死ぬからって、悲壮感漂わせて死ぬ他のやつとは違うって知らしめてやるんだよ」
「……面白おかしくはどうか知らないけど、そこは同意見かな」
悠莉はひとつ息を吐く。
「俺は死ぬためにここに来た」
「おお、こりゃまたブッ飛んでるな。今どきなら珍らしくもないけど」
「絶対に最上級の萌石になって死んでやる。それ以外には価値がない」
「レアドロ信奉者か? なら、教祖様の顔をよく拝んどくんだな」
一之輔は顎で光を指し示す。だが、悠莉は彼を見ない。
「関係ない。俺は俺の価値を示したいだけだ」
「それが萌石ってことかよ。なるほどな」
納得がいったようで、一之輔は腕を組む。その時、入隊式の開始を告げる号令が飛ぶ。悠莉は背筋を伸ばす。
「これからお前たちは異空庁の公務員となる。それは、ダンジョンに潜り、その勇姿を中継される名誉と、そして死する時にも萌石となる栄誉が与えられるということだ」
悠莉は唇をきつく結んで教官の話を聞く。養成所で学んできたことだ。それがいよいよ現実味を帯びてくる。
「これから落合光に挨拶をしてもらう。どうぞ」
教官がマイクを光に渡す。光はマイクを受け取り、虚ろな目で新兵たちを見渡す。
「えー、君たちはわが国を支える永遠の礎だ。ダンジョンに潜る時もしかり、その後死亡してもなお、君たちは祖国を支える柱として、その名を残すことができるだろう」
何度も読んできた台本だ。光は、マイクを置く。
こんな発破でも、新兵たちの士気を高めるには十分だった。
入隊式は全員の敬礼で式を終えた。
式を終え、悠莉は席を離れる。この後は体力測定があるため、移動して着替える。
その際、悠莉はひときわ目を引く女性を見つけた。輝く金色の髪の持ち主で、容姿も整っている。
「あー、あの子は止めとけ。俺もナンパしたが、とりつく島もなかったぜ」
一之輔が悠莉ノ肩に手を置く。
「いきなりなにしてるんだ……そうじゃなくて、ちょっと思ったことがあって」
「なんだ?」
「萌石になるのって、容姿は関係ないんだよな?」
それを聞いて一之輔は目を丸くした。
「美男美女の方が萌石として価値があるとか言われると、少し面倒だと思って」
「お前、本当にそんなことばっかり考えてるのかよ」
呆れたような一之輔の声に、悠莉は彼の腕を払って言う。
「俺に価値があるかどうか……いや、証明することが変か? 人間誰しも他人に認められたいだろう?」
「お前がそんな承認欲求が強いとはな」
「これは……俺だけの問題じゃない。父さんのためでもある」
悠莉は強く拳を握る。そして体力測定のために部屋を出ていった。
体力測定を終えて訓練に励む悠莉たち。食事もダンジョン庁が用意したものを摂った。
銃の扱いや基礎体力の訓練など、養成所の延長線上のような内容だったが、悠莉は淡々とこなした。
そして夕食後の自由時間。ダンジョン庁の寮に入り、それぞれ個室が与えられていた。
悠莉はベッドに倒れ込むように寝転がり、天井を見つめる。
「早く実戦で経験を積みたいな」
悠莉はつぶやくと、目を閉じて父の顔を思い出す。
「この5年間、頑張ってきた。俺は……」
緊張の糸が切れたように、悠莉はそのまま眠りについたのだった。
「本日は実地戦闘を行う。ようやく本物のモンスターとご対面だ。嬉しいだろう?」
入隊から1ヶ月の5月5日。ついにこの日が来た。悠莉の胸には、5年間の記憶がつい先ほどの出来事のように残っている。
「当然、お前たちが戦死してもいいように、落合光にも同行してもらう。全力で彼をカバーするように」
「了解!」
新兵たちは、隊列を成してダンジョンへと突入する。今回のダンジョンはそこまで大きいものではないが、民間の企業が立ち入れるような小規模のダンジョンとは大きさも深さも桁違いのものだ。
一個小隊を成して、悠莉たちは歩みを進める。
配信班として、機材を装備した光たちを中心として陣形を組み、ダンジョンの中へと足を踏み入れる。
この訓練も、ダンジョン探索だ。全世界に放映されている。
(覚悟はできている。仮に今日死ぬとしても、最高の萌石になってやる)
悠莉は決意を胸に、重い銃を構えて進む。だが数十分進んだところで、異変が起きた。
突然左右にある石壁が回転し、陣形の両脇にいた分隊たちが、それに巻き込まれて分団されてしまったのだ。
ちょうど、メダルゲームのプッシャーのように、人間が押し込まれて壁の向こうへ消えていった。
悠莉たち第16分隊も壁に巻き込まれた隊員たちで、光ら本隊とは完全に分断される形となってしまったのだ。
レアドロップ率100%アップのスキルを持つ俺、無能と笑われ追放される〜死んだ仲間が「最高級の宝箱」に変わるのを見た瞬間、俺の配信は狂い始めた〜 o2ooo @o2ooo_kkym
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