第2話
何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
ただ、俺の目の前には光り輝く萌石。見たこともないほどキラキラと綺麗に輝いているそれに、無意識にカメラを向けていた。
『人が萌石になった?』
『マジかよwww』
『え、なんかのドッキリ?』
コメント欄もかなり盛り上がっている。俺だって何かのドッキリのように思えた。しかし、これは現実だ。
俺はそっと萌石を手に取った。
ずっしりとした重さが手に乗る。これは……さっきまで大友だった……のか?
「落合! 撤退!」
いきなり腕が伸びてきて、俺を引っ張った。サブリーダーの武智だ。
俺はなんとかつんのめりながらも、ダンジョンの外へと走った。
「威嚇射撃!」
武智の命令で、仲間たちが銃弾をばら撒く。未だに敵の姿は捉えられていない。とにかく適当に弾を撃ち、敵を寄せ付けない攻撃だ。
クリアリングをしながらダンジョンの入り口へと向う。その間も、俺の手には確かな重さを持った萌石。
「がっ……」
後ろを走っていたメンバーが、また胸に何か刺さって風穴を空けられた。
釣られて振り向くと、そのメンバーも光り輝いて萌石になった。
『また萌石になったwww』
『やばくね? これ』
コメントもそれを見ている。
「傷口から察するに、何か巨大な針のような物を飛ばしてくるモンスターです! 警戒を!」
武智の焦りながらも、冷静な指示が飛ぶ。
俺は仲間の死よりも、敵の攻撃よりも、もっと別のことに意識が向けられていた。
――なんで人が萌石になるんだ?
そんな話は今まで聞いたことがない。萌石になるのはモンスターだけだ。
配信で何人も人が死んだところを見たが、誰一人萌石になったところは見たことがない。このダンジョン内でも同じだ。
だが、ひとつだけ思い当たる節があった。
俺のスキル「レアドロップ100%アップ」。これが……
俺たちはなんとか、ダンジョンから出ることができた。戦死した人数は2。よくある数字でもある。俺たちは危険度の低いダンジョンを中心に活動をしていたから、今まではなかったが。
仲間たちは息も絶え絶え。初めて仲間を失っての逃走。かなり堪えた。
そんな中、武智のスマホが鳴る。
「はい……えっ? 政府の?」
武智の言葉に、全員が彼を見る。だが、武智が見ていたのは俺だった。
「落合……」
武智が震える声で言った。
「これからお前の生活が、変わるかもしれない……」
だがそれは、とてもじゃないが、喜ばしいことには思えない響きだった。
その後俺は、政府の異界空間対策庁……通称ダンジョン庁に連れてこられた。
視聴者の通報で、人が萌石に変わったことが政府に届いたらしい。
現在俺は、巨大な会議室に通され、そこで歳を食った人々――おそらく高官の方々と顔を合わせていた。
俺のような底辺労働者には一生あっても機会に恵まれないであろう面々が揃った場面。緊張で口から心臓が飛び出しそうだ。
「君のスキルはモンスターのレアドロップ率を上げるもので、純度の高い萌石を排出しやすいものでしたな」
高官のひとりが口を開く。俺は背筋を伸ばして頷いた。
「視聴者の報告では、死亡した従業員も萌石に変わったとのことで、私たちも確認しました。あなたも目の前で見たのですね? トリックや嘘ではありませんか?」
「は、はい」
俺だって信じられない。だけど、これは事実だ。俺はこれにも頷くしかない。
「つまり、君のスキルの影響で、人間からも萌石が産出された……ということで間違いないかな?」
俺もそう思ったが、これには確証がない。
「わかりません……今まで周りで人が……死んだことはありませんでしたから」
「死亡が確認されたのはふたり。両方萌石に変わっている現状、君のスキルが作用したと考えるのが妥当だ」
確かにその通りだ。ダンジョン内ではスキルによって不思議な現象も起きる。俺のスキルが作用して、人間すらもレアドロップにしてしまったと考えると……
「あの……俺はこれからどうしたらいいですか?」
「これから君は、一度ダンジョンに潜ってスキルの効果のほどを確かめてもらいます」
え、それって……
「人がまた死ぬ……ってことですか?」
「異空庁の隊に同行してもらい、審議を図ります。より危険なダンジョンに潜りますが、あなたは安全です。貴重な人材ですからね、必ず守ります」
「でも……」
「これは国家にとって大事なことです。拒否されても構いませんが、あなたが協力しないことでどれだけの損失が出るか、お分かりになりますか?」
「……」
俺は何も言えなくなってしまう。
「大丈夫です。先ほども言いましたが、あなたの安全は保証されています。安心して我が隊にご協力ください」
どうするへきだろう? 俺のスキルで人を萌石にするというのは、確実なことなのかもしれない。この人たちもおそらく確信を持っている。
だが、国の人間として俺が働く? そんなことが俺にできるのか……幸運係でしかなかった俺に。
でも……確かめないといけないかもしれない。俺のスキルの真価を。それをこの人たちが安全にやってくれるって言うんだ。むしろ、良いんじゃないのか?
「わかりました。俺に……できるなら」
――こうして俺は、ダンジョン庁の隊に加わり、ダンジョンに潜った。
これまで画面の向こうでしか見たことがないようなモンスターと、それと戦う隊員たち。はっきり言ってしまえばすごい戦いだった。
今までの俺たちのダンジョン探索がお遊びに見えるほどに。
国立の組織は本物で、やはりものが違う。
それでもやはり人死には出てしまうもので、モンスターと戦った隊員たちが萌石へと変わっていく。
俺はその光景に圧倒されてしまっていた。
何故なら――とても綺麗だったからだ。
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