第1話
俺は落合光。しがないダンジョン探索者を仕事にしている。この日本は有数のダンジョン産出国だ。
ダンジョンが国のあちこちに現れ、ダンジョンに出現するモンスターからは、貴重なエネルギー資源が“ドロップ”する。
俺たち探索者は、モンスターを倒して資源を回収し、国に納品するのが仕事だ。立派な公務員ってことだ。……俺たちは違うけど。
「よし、まずは軽いダンジョンで肩慣らしだ。準備出来次第、出発するぞ」
リーダーである大友淳がメンバーに号令する。
現在俺たちは、俺たちの拠点であるオフィスの一角でダンジョン突入の準備を整えていた。
カチャカチャと銃火器を確認する音が無機質なオフィスに響く。
みんなが武器の調整をしている間、俺は撮影機材の調整だ。
「今日も頼むぜ、幸運カメラさんよ」
嫌味っぽく大友が言う。
「リーダー、モノみたいに言うのは良くありませんよ」
銃を整備しながらニコリともせずに口を挟んできたのは、サブリーダーの武智翔太朗だ。
彼は銃の整備を終えて眼鏡をかけ直してこちらに歩いてきた。
「映像の記録と配信は国に提出する大切な資料です。マッピング、死傷者数の把握、モンスターの情報……映像記録からは様々なアドバンテージが得られます。大切な仕事ですよ」
「わかってるって。ちょっとからかっただけだろ、硬いな武智」
ポンと武智の肩を叩いてリーダーはその場を離れる。
「いつものことながら……気にしないでくださいね」
「ああ、ありがとう」
大友は嫌な奴だが、武智はいい奴だ。戦えない、お荷物の俺にもこうして励ましの言葉をくれる。おかげで、俺は少しだけ誇らしかった。
俺がいなければ、このパーティは成立しない――そう信じたかった。
「さて、出発しましょうか」
7人の仲間たちは、装備を整え、目的のダンジョンへと足を踏み入れる。
まずは肩慣らしで、情報が出回ってる浅いダンジョンだ。
俺は仲間たちが武器の準備をすると共に、記録•配信の準備を済ませる。
「油断すんなよ、国家公務員サマと違って、死んでも大した手当が出ねえんだからな」
大友がいつもの憎まれ口を叩いて、全員がひとかまりになってダンジョンに突入する。
ダンジョンは、よくあるRPGに登場する洞窟によく似ている。岩肌でゴツゴツした狭い空間で、明かりもないのにほんのり明るい。
だからダンジョンと呼ばれているのだろう。俺が生まれる何十年も前からそう言われているから、正直由来とかは知らない。
ただ、こういった洞窟はゲームに登場するダンジョンによく似ていた。
昔からそういった洞窟は、「ダンジョン」と呼ばれていたらしい。
それが突然現実に現れた人々の気持ちは、一体どんななだったのだろう。
そんなことを考えながら、俺たちは奥へと進んでいた。
途中で出くわしたモンスターは、地を這うアリのような化け物や、巨大なガのような化け物。このダンジョンは虫系のモンスターがたくさん出てくるダンジョンだ。
虫系は気持ち悪いが、だからこそ殺すことに躊躇いが少ない。こういったダンジョンが肩慣らしに丁度いい理由だ。
「よし、次の階層行くぞ。カメラ回ってるな?」
先頭を歩く大友が振り返りもせずに言う。
俺は「ああ」と短く答え、背負った配信機材の角度を微調整した。
今までの戦闘は全てカメラに納めた。配信もキッチリされている。時々コメントが付いているのが見受けられた。
『今日も頑張ってください』
『虫系か、もっとダンジョン選んだら?』
目ぼしいコメントはない。
視聴者はたかが知れている。国のエージェントでもない中小企業の探索者の配信を見る物好きは少ないからだ。
相変わらず気味の悪い虫たちを退治する映像を、淡々と撮り続ける。
虫たちは倒すと光輝いて資源に変わる。これもまるでゲームのようだ。
基本、拳大の大きさの色とりどりの宝石のような見た目で、第二の石油だ。名前は
最後のモンスターを倒し、全員が銃を下げる。洞窟内に動きは見られない。少し広くなった空間に、萌石と空の薬莢が転がっている。
俺たちはそれを拾い集め、収益を数える。
「しけてるな」
舌打ちと共に、大友が言った。俺は咄嗟に顔を伏せてしまった。
人々には「スキル」と呼ばれる技能をダンジョン内で扱うことができる。
俺が“幸運係”と呼ばれているのは、そのスキルのためだ。
「レアドロ100%アップがあってこの体たらくじゃあ、稼ぎにならんなあ」
「リーダー」
武智が諌めるが、大友は止まらない。武智の手を振り払ってこちらにやってくる。
響く足音がどこか、終わりを告げる鐘の音のように聞こえた。
「もう十分だな。お前はここで降りろ」
そして大友は冷たく言い放った。
その言葉の意味を、俺はすぐに理解できなかった。
いや、理解したくなかったのかもしれない。
だが、流れるコメントが俺に突き刺さる。
『解雇w?』
『いきなりクビとかブラック企業で草』
コメントは勝手に盛り上がっているが、俺にはそれどころではない。
「お前は今日で解雇だ。今までご苦労だったな」
やはり何かの間違いなどではなかった。
咄嗟に武智を見るが、彼は顔を逸らして眼鏡を調節した。リーダーの決定だ。彼でも止められない。
突きつけられた事実に、俺は現実味がわかず、返事も出来ずにいた。
その空白を、風切り音が埋めた。
嫌な肉の音と共に、大友の胸に風穴が空いた。
事態が飲み込めない。全員が銃口をあちらこちらに向ける。どこから襲われたのかわからないのだ。
コメントも
『おい、死んだぞ!』
『通報案件w』
などと流れていく。
そしてさらに驚きの光景が広がった。
大友の身体が光り輝き、そして――萌石に変わったのだ。
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