ウザい鳥

柿月籠野(カキヅキコモノ)

落ち着いた大人の男と、ちんちくりんの――

 俺は、オカメインコ。

 落ち着いた薄黄色と薄グレー色の体に、愛嬌のあるオレンジ色のほっぺ(実は耳の位置)。

 安定感のあるほどよい重さのボディに、美しい鳴き声。

 腹が減ったら食べ、喉が乾いたら飲み、眠くなったら寝て、ケージの金網をペロペロしたくなったらする。

 そんな、落ち着いた大人の男だ。

 ――まあ、家に知らない人が来たときに最も大騒ぎするのは俺だが、それは緊急時についてのことで、今は全く関係のないことだ。


 紛れもなく落ち着いた大人の男の俺が、落ち着いた毎日を過ごしていると、ある時、俺のケージの隣に、別の小さなケージが現れた。

 そのケージの中には、見知らぬ鳥が入っていた。

 そいつは、ちんちくりんだった。

 不健康そうな薄青い体に、変な模様のある顔。

 ちっちゃくて細っこくて折れそうなボディに、弱っちい鳴き声。

 ちんちくりんとしか言いようのない奴だった。

 俺のママの人間によれば、そいつは『セキセイインコ』という鳥らしかった。


 ――そいつは、ウザかった。

 小さいケージの中にいるときは、止まり木の上の、俺に一番近い位置に陣取る。

 ケージから出れば、俺の立派なケージの上に乗りやがって、ちっちゃい首をかしげ、片方の目で、俺を凝視してくる。

 俺があいつの視界から外れようとすると、あいつはケージの上をちょこまか走り回って、俺との最短距離を保ってくる。

 俺はいつでもあいつの足をかじることができたが、目で睨んで、ハッと息を吐き、威嚇するだけにしてやった。俺は、落ち着いた大人の男だからな。


 と、俺はそんな落ち着いた大人の男なのに、あいつはやっぱりちんちくりんだ。

 俺は毎日、尻尾の先まで羽繕はづくろいを欠かさないのに、あいつは尻のあたりまでしかやらないから、あいつの尻尾はいつもボサボサだ。

 俺は、ママに頭を上手にカイカイしてもらうのに、あいつはカイカイの快楽も知らずに、俺のことばかり考えているから、頭はいつも、生えかけの羽根でトゲトゲだ。

 ――俺がママにカイカイしてもらっているときにはいつも、ママに「なんでだんだん遠ざかっていくの!?」と言われるが、俺には人間の言葉が分からない。うん、全くもって分からないのだ。フフン。


 とまあ、俺とあいつはこういった関係なので、一緒にケージから出て遊ぶ、なんてことは一切なかったんだが。

 俺は、あいつが来てしばらくしたある日に、気がついた。

 あいつは、俺の美しい鳴き声を真似していやがる。

 俺が、何年もかけて研究し、磨き上げた美しい声を。

 ただまあ、あいつの鳴き真似は、あいつの体と一緒で、ちんちくりんだ。

 弱っちい声で、「ピヨォ」って。

 もっと腹から声出せってんだ。

 そんなんじゃ、誰にも振り向いてもらえないぞ。

 鳴き真似ってのは大体、「俺はこんなに上手に真似できるくらい、頭が良くて、感覚が鋭くて、器用です」っていう、求婚相手へのアピールなんだぞ。


 ……いや、求婚相手へのアピール、って。

 俺は、男だぞ。

 あいつも、男だぞ。

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ウザい鳥 柿月籠野(カキヅキコモノ) @komo_yukihara

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